欧米で奴隷制度が正式に廃止されたのははるか昔のことだ。だが、強制労働、債務による束縛、強制的な結婚、奴隷制及びそれに似た慣行、人身売買、児童労働における最悪の形態は、世界において依然として痛ましい問題として残っており、現代奴隷問題として認識されつつある。闇に隠れたこうした活動は犯罪や腐敗によって助長されており、新興国ばかりでなく先進国でも問題となっている。

消費者は近所の食料品店に行くだけでも、無意識のうちに現代奴隷に関与している可能性がある。魚介類を買うという日常的な行為でも、それは非人道的な環境のもとで長時間労働を強いられる漁師が漁獲したものかもしれない。また、青果売り場で購入する新鮮な果物や穀物は、虐げられている移民労働者が収穫しているかもしれない。

現代奴隷は非常に根深く広範囲に存在するため、さまざまな業界の企業にとってますます大きな問題となりつつある。運用プロセスを通じて企業に資金を提供する投資家にとっても、具体的な行動が求められるグローバルな課題となっている。

エンゲージメントの必要性: 定型化されたアプローチ

アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は、現代奴隷に関するリスクについて開示するだけでは十分ではないと考える。投資家は綿密な企業リサーチや企業経営陣との積極的な対話を通じ、それを減らすよう努めなくてはならない。それは正しい行動であると同時に、最終的に投資リターンを押し上げることにもつながり得る。

現在投資している、または投資する可能性のある企業でグローバル・サプライチェーンを担当する経営幹部との直接的な対話は、投資家のファンダメンタルなリサーチを強化するとともに、現代奴隷に関するリスクを適切に把握するよう企業に促すプロセスとなる。関連するリスク要因としては、ブランドや評判の棄損、訴訟、従業員のストライキ、サプライチェーンの断絶、顧客の不買運動などが挙げられ、いずれも業績に悪影響を及ぼす影響がある。

企業は現代奴隷に関してさまざまに異なるリスクを持っており、投資家にとっては一貫したレンズを通してこれらの関連を評価することで、現代奴隷にさらされる可能性に基づいて企業をランク付けすることができる。そのカギとなるのは4つのリスク要因-ぜい弱な人々、リスクの高い地域、リスクの高い製品やサービス、高リスクのビジネスモデルである。

現代奴隷を評価するフレームワーク 

これら4つの要因から得られる分析を活用することで、投資家は現代奴隷に対する潜在的なエクスポージャーを評価するための、一貫性のあるフレームワークを構築することができる。例えば、ABは現代奴隷に対するそれぞれの企業について、自社の事業運営およびサプライチェーンにおけるエクスポージャーを測定するマトリックスを開発した(図表)。

こうして把握される企業の現代奴隷リスクに対する潜在的なエクスポージャーを踏まえて、各企業が現代奴隷リスクにどう対応しているかを把握することが肝要だ。実際の分析においては、アナリストはそれぞれの企業をこのマトリックス上に描き出してリサーチに活用しているが、本稿ではマトリックスがどのように機能するかについての概要を示す目的で、個別企業ではなく業種レベルでフレームワークを適用し、表示している。

自社の事業運営とサプライチェーンの双方で現代奴隷へのエクスポージャーが大きな業界は、背景色が紫の右上の領域に含まれる。これらの業界(のみに限定されるわけではないが)は、リサーチやエンゲージメントの優先順位が最も高い。左下の領域(背景色が青)に含まれる企業は優先順位が低くなる。

ここでは、業界の例はリサーチやエンゲージメントの一般的な優先順位を示しているが、現代奴隷に関するリスク評価は企業ごとに行わなくてはならない。ファンダメンタル・リサーチから得られた分析に基づき、ある企業はマトリックスで同業他社とは異なる領域に組み入れられる可能性があるため、ある企業が低リスクの業界に属しているということだけで、その企業のリスクが低いと考えてはならない。

深く掘り下げる:企業の取り組みをどう比較し、 評価するか?

このマトリックスがリサーチやエンゲージメントの優先順位を付ける上で役立っているとすれば、投資家は得られた結果を踏まえてどう行動すべきだろうか?ABでは、現代奴隷に関するリスクを低減するため、企業がどの程度効果的な取り組みをしているかを把握することを重視している。ABは一部の企業と協力し、取り組みを評価するためのベンチマークとして、ベストプラクティスと見なす5つの基準を定めた。

1. ガバナンスのフレームワーク

2. リスクの特定

3. リスクを低減する行動計画

4. 行動計画の有効性

5. 将来の改善

これらのマトリックスやベストプラクティスが、あらゆる状況や企業において等しく適用できるわけではないが、一貫したアプローチを持つことは、現代奴隷に関するリスクに企業がどう対応し得るのかを投資家が検討するにあたって手助けとなる。

ABはセクターにとらわれないフレームワークを基に、漁業、アパレル、テクノロジー、鉱業、金融など、数多くの高リスク業界について評価するベストプラクティス指針を開発した。これらの業界に携わる人々のリスクは多種多様で、ベストプラクティスにも大きな違いがある。

例えば、アパレル業界は、工場で働く多くの女性労働力に依存していることから、ジェンダーに特化したポリシーを必要とする。漁業は、海で長時間働く若い男性の移民労働者に依存しているケースが多く、労働環境を監視するのが難しい。金融システムを通じて現代奴隷を伴う事業に資金が流入することを防ぐ観点から、金融セクターは摘発や防止にあたって重要な役割を果たしている。

結局のところ、現代奴隷に対処するベストプラクティスには、学習や改善に向けた継続的なプロセスが含まれる。よく見られるケースでは、企業は当初、現代奴隷に関するリスクについて自由放任主義的な姿勢を取るが、そのうち当リスクは自社の核心に関わるものであると認識し、対処しなければならないとの考えを受け入れる。

我々はここからどこに向かうのか?  

短期的には、投資家はポートフォリオにおける現代奴隷に関するリスクの評価や企業との対話を続けながら、より優れた投資判断や開示につなげるため、知識ベースの拡大や分析能力の強化に注力する必要がある。

長期的に見れば、世界が現代奴隷について認識を深め、行動を起こすようになるのに伴い、監視の目がますます強まりそうだ。すでに、現代奴隷、人権、サプライチェーンのデューデリジェンス要件に関する規制の波が押し寄せている。特にソーシャルメディアの拡大や消費者パワーの高まりを踏まえれば、大衆アクティビズムの広がりもこの問題に広範な影響を与える可能性がある。

実際のところ、現代奴隷は、気候変動と同じくらい重大な問題となる可能性がある。企業や投資家は、この問題が事業の持続可能性を脅かしていることをますます認識し、理解を深めている。現代奴隷に対処しようとする動きは加速しており、先駆けて取り組む投資家が最も大きな成功を収めることになろう。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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