各国の中央銀行はバランスシートの正常化を続けており、世界は量的引き締めの局面に入っている。このプロセスは政策金利の引き上げと相まって金利を押し上げ、経済成長を圧迫している。その結果、資本価値が損なわれ、不動産会社は事業計画を遂行する上で困難に直面している。同時に、インフレ率も高止まりしている。

これは大半の業界と同様に、商業用不動産デットの貸し手に問題をもたらしている。しかし同時に、市場のダイナミクスはビジネス機会も生み出している。世界金融危機以降に規制が強化された結果、銀行は融資活動から手を引き、ローン組成を巡る競争が和らいでいる。こうした影響は、銀行が市場を支配している欧州でとりわけ顕著に見られる(図表1)。2023年に予定されているバーゼルIVの施行は、その傾向を加速させそうだ。

しかし結局のところ、現在の市場環境下で成功を収めるには、実現可能な事業計画を持つ強力なスポンサーが所有する優れた物件を見極め、効果的にローンを組成することが重要になる。

インフレのダイナミクスは市場にどんな影響を与えているか 

商業用不動産市場にとって、インフレは懸念すべき問題である。費用や資本コストの増加は利益率を圧迫し、ひいては資産価値を損なう可能性がある。こうした環境下では、貸し手は借り手とスポンサーの財務諸表を精査し、借り手が事業計画を遂行する資金を持っていることを確認する必要がある。特に、付加価値の高いトランジショナル・ローンにおいては、それが肝心である(図表2)。

貸し手は、予算超過を吸収する資金的余裕があるかどうかを含め、借り手が効果的に予算を組んでいるかどうかを精査し、物件が完成しないリスクの有無を見極めなくてはならない。不安定な環境下における不動産デットの貸し手にとって利点の1つは、リターンを生み出す上で、不動産価値が上昇するか、または横ばいにとどまる必要はないことにある。適切な資金的余裕、スポンサー、担保、事業計画を備えたローンは、市場が変動してもその影響を受けずに済みそうだ。

貸し手は、現在の異例な景気サイクルが借り手に与える影響についても注視する必要がある。通常のサイクルでは、金利が上昇すれば信用スプレッドは縮小する。だが現在は、投資家が景気後退を予想して市場から手を引いているため、金利が上昇する中でスプレッドも拡大している。これは借り手にとって、利払いが急ピッチで増加することも意味する。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は、次の2つの重要な問いに答えることが重要だと考えている。それらは、借り手が負債の返済を続ける上で十分なキャッシュフローを保有しているか?借り手は強力なバランスシートと困難な時期を通じて物件にコミットする資金を持っているか、ということである。

経済はいずれ動き始め、金利は最終的に低下すると思われる。少なくとも、信用スプレッドは正常化し、縮小に向かうだろう。実際にそうなるまでは、現在進められているトランジション・ローンには、金利保証を組み入れるべきだと考えている。

市場の流動性低下は追い風となる可能性

商業用不動産融資市場の流動性は、足元で変化している。2021年下半期から2022年1-3月期にかけては良好だったが、それ以降はローン組成が高水準に達したこと、マクロ経済環境と量的引き締めの影響に対する懸念という、主に2つの理由から貸し手が市場から手を引いている。

貸し手となる銀行、商業用モーゲージ担保証券、一部の生命保険会社など、典型的な資金の供給源が市場から姿を消したことで、代替的な貸し手がその空白を埋める余地が生じている。また、利回り目標を達成するためにウェアハウス信用枠や商業用不動産担保ローン債務を利用する代替的な貸し手の多くは、資金源の確保及び資金調達コストの両面で課題に直面した。

こうした環境は、負債を抱えていない規制対象外の金融機関にとって、レバレッジが低く、構造が優れ、プライシングが魅力的なローンを提供する機会を生み出している。それは永遠に続くわけではないだろうが、リスク調整後ベースで好ましい特性を持つ資本を供給する絶好の環境を作り出している。資産やスポンサーを慎重に選択し、保守的な引き受けを実践している金融機関は、マーケット・テイカーではなくマーケット・メイカーとして活動することができる―市場環境が好ましければ、その傾向が強まる。

欧州では歴史的に米国に比べ流動性が低く、米市場を後追いする傾向があるため、こうしたダイナミクスが生まれるまでに時間がかかるとABでは考える。一方、相対的な流動性の低さにより、リスク調整後リターンへの影響が大きくなる可能性がある。欧州では銀行への融資依存度が高いが、銀行は今のところ融資の提供を渋っている。こうした状況は、今後約1年の間にさらに多くのビジネス機会を生み出す可能性があるとABではみている。

商業用不動産デット市場の展望 

米国の商業用不動産市場は、異なるタイプや地域の資産で構成されているため、それぞれ微妙な違いが見られ、ひとくくりに言い表すことは難しい。

現在の融資市場を評価するには、需給ファンダメンタルズと市場のテクニカル要因(インフレと金利)の双方を考慮する必要がある。米連邦準備制度理事会(FRB)による量的緩和の巻き戻しと利上げは、一部セクターにおけるファンダメンタルズの変化と相まって景気後退懸念を招き、市場全体の流動性を混乱させた。一部の分野では買い手と売り手のスプレッドが広く、取引量の鈍化につながっている。しかし、銀行から融資を受けにくくなっている今は、そのチャネルに依存しない貸し手は、着実に融資を提供する機会を手にしている。

欧州の商業用不動産デット市場は米国とはやや異なっているが、積極的な買い手と売り手のキャップレートに同じような開きが見られる。現在の不透明な環境下で取引せざるを得ない人々は価値がどこにあるのか正確に把握できずにいるため、エクイティ投資のリスクは非常に高くなる。

大局的に見れば、商業用不動産デットの貸し手はリスクテイクを抑制し、2022年前半よりも大きなスプレッドを要求するのが望ましいとABは考える。取引が少なく、デット資本の需給バランスが崩れている環境では、リスクは市場に存在する。しかし、将来を見据えれば、ローンのパラメーターに大きな影響力を持つ厳選された投資機会を活用する好機でもあるようにみえる。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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