欧州の政策当局者はジレンマに直面している。インフレと闘うため利上げを続けるか、それとも成長を刺激するため金融引き締めを緩めるかという悩みだ。欧州では全般的に総合インフレ率が下げ始めている一方で、成長見通しは依然として弱いままだ。こうした組み合わせは通常、将来の利上げ余地を制約する一方で、金利リスク(デュレーション)へのエクスポージャー拡大を促す要因となる。投資家はユーロ金利の低下による恩恵を享受できる準備を整えておくべきだろうが、当面は大きな金利リスクのポジションを取るのは控えたほうがよさそうだ。

アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では、ユーロ圏の金利は2023年後半には安定し(以前の記事『European Fixed-Income Outlook: Stay High Quality in 2023』(英語)ご参照)、2023年後半から2024年初めにかけて低下すると予想している。債券市場はこの変化を織り込む動きになると予想され、それに応じて適切にポートフォリオを構築している投資家に恩恵をもたらしそうだ。だが短期的には、積極的な金利ポジションを取る前に警戒すべきいくつかの要因がある。

ECBは依然としてタカ派的な姿勢の維持を求める圧力にさらされている  

ユーロ圏では総合インフレ率が低下しているにもかかわらず、コアインフレ率は依然として高く、欧州中央銀行(ECB)はタカ派的な姿勢を維持する可能性が高い。また、テクニカルな観点から見れば、英国及びユーロ圏の各国政府による資金調達ニーズは増加傾向にあり、ソブリン債の発行が大幅に増加している(図表1

それと同時に、量的緩和(QE)が終了し、量的引き締め(QT)が始まった結果、投資家が市場で購入できる債券の供給がかつてないほど高水準に膨らみ、大量の債券を市場がどう消化できるか不透明感が生じている。その不安は、特に期間が20~30年のセクターで目立っている。

ユーロ圏のソブリン債に対する海外投資家の購入意欲が減退していることも、さらなる潜在的な懸念材料だ。特に、日本銀行が最近行ったイールドカーブ・コントロール(YCC)政策の調整によって日本の国債利回りが上昇し、日本の投資家にとって、特に為替ヘッジベースで海外債券に投資する魅力が薄れている(図表2)。日本の投資家に対するユーロ圏のソブリン債の魅力を高めるには、もっと高い利回りが必要となる。そのため、欧州ソブリン債の利回りは既に大幅に上昇しているものの、短期的にはさらなる金利上昇のリスクをはらむ環境にある。

しかしながら、2023年には時間が経つのにともない(おそらくそれほど先にならないうちに)、成長とインフレのせめぎ合いが成長鈍化の方向に傾き、欧州の金利低下を捉えるべくデュレーションを長期化する魅力的なタイミングが訪れると考えている。

利上げに対するソブリン債の感応度はまちまち

欧州周縁国のソブリン債のバリュエーションは調整され、いくつかの国はここ数年よりも強力な発行体として認識されるようになった。スペインとアイルランドの地位は向上し、それらの債券は現在、フランス国債とほぼ同じ水準で取引されている。ポルトガルの格付けはイタリアよりわずかに高く、2010年に格下げされたギリシャは投資適格等級を取り戻す見通しで、すでにイタリアより低い利回りで取引されている。この結果、ECBが新たに打ち出した政策緩和によってイタリア国債がとりわけ大きな恩恵を受ける可能性がある。

ABの分析では、イタリア国債は価格上昇の余地が最も大きいとみるが、ECBが最近導入した伝達保護措置(TPI、Transmission Protection Instrument)により(ドイツ連邦銀行のサイト(英語)ご参照)、下落余地が限定的になってきた。TPIは、周縁諸国のスプレッドがドイツ国債から過度に拡大するのを防ぐことを目的に導入された。

最近は、TPIを通じた介入規模に応じて、ドイツ国債に対するイタリア国債のスプレッドが100~200ベーシス・ポイントのレンジで推移している。しかし、ABのリサーチでは、ドイツ国債の利回りが上昇するとイタリア国債のスプレッドが拡大し、前者が低下するとスプレッドが縮小する可能性があることが示されている。このため、金利とスプレッドの動きを合算すると、イタリア国債はドイツ国債よりも市場変動に対する感応度が高くなっており、リスク許容度の高い短期投資家にとって魅力が高まる可能性がある。

低リスクの債券では、ドイツ10年国債利回りは2022年10月に2.6%前後まで上昇した後、2023年は2.2%を若干下回る水準に低下している。ドイツ国債の2.5~3%という利回りレンジは、安全性を重視する長期投資家にとって魅力的な水準だと思われる。

投資家は、投資の時間軸に応じてデュレーションに関する柔軟な運用方針を策定すべきだ。つまり、短期的にはより慎重に行動すべきだが、今後数四半期を視野に入れると金利リスクを引き上げることを視野に入れなくてはならない。その際には、どのソブリン債がユーロ圏の金利変動に最も敏感で、それぞれの投資家のリスク許容度に最も適しているかを考えることも重要になる。

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