水不足はもはや、砂漠地帯の発展途上国だけの問題ではない。水に関するソリューションへの需要が高まる中、株式投資家にとって、革新的なソリューションを通じて世界中の乾燥地帯に住む人々の渇きを潤す企業への投資機会を見つけ出すことができそうだ。

世界は深刻な水不足に直面している。世界銀行によると、世界で約20億人が安全な飲料水を手に入れることができず、管理が行き届いた衛生設備を利用できない人は約36億人に達する。ここ数年は深刻な水不足が世界的な関心事となり、南アフリカのケープタウンから米国アリゾナ州のスコッツデールまで、多くの地域で問題が深刻化している。水不足を解消するためのインフラ整備の大々的な刷新や製品開発が強く求められている。

加速する水不足問題

気候変動、人口増加、都市化の進展は、問題をますます深刻化させている。世界銀行は「水や衛生設備へのアクセスに関する格差、人口の増加、成長による水への依存度上昇、降雨のバラつきの拡大、汚染などが多くの地域で重なり合い、水は経済発展、貧困撲滅、持続可能な開発を脅かす最大のリスクの1つとなっている」と報告している。

多くの新興国は以前から水不足に悩まされてきた。世界保健機関(WHO)によると、ソマリアでは昨年、地域的な干ばつで4万3,000人が死亡したと推定されている。アルゼンチンでは厳しい干ばつで経済成長が深刻な打撃を受け、国際通貨基金(IMF)は最近、同国の2023年国内総生産(GDP)成長率見通しを従来の2.0%から0.2%に引き下げた。アジアでは、水不足が深刻な地域に約10億人が住み、それらの地域のGDPは合わせて2兆米ドルに上る。

米国ではコロラド川の水位が極端に低下し、何百万人もの人々への水の供給が脅かされている。アリゾナ州リオベルデ・フットヒルズの住民は、2023年1月に隣接するスコッツデールへの水供給システムから切り離されたため、南西部の乾燥した気候に苦しめられている。

企業も水を必要としている。例えば、半導体ウエハーの生産には非常に多くの水を必要とする。インテルはリオベルデ・フットヒルズからさほど遠くないアリゾナ州内に2つの半導体製造工場を建設しており、減少する水の供給がさらに圧迫されかねない。

一方、欧州では夏の乾燥と冬の干ばつにより、湖や河川が干上がっている。水量が少ないため、フランスの原子力発電所(国内の電力の70%を供給)やノルウェーの水力発電所(同90%を供給)の発電量が低下している。ドイツでは、ライン川の水位低下で物資運搬に重要な役割を果たす船舶の航行に重大な支障が生じている。

水ソリューション向けの投資が大幅に拡大

世界ではこれまで何十年にもわたり、水のインフラやテクノロジーへの投資が過度に少なすぎる状態が続き、水不足や水質問題を引き起こす一因となってきた。先進国では水道管の老朽化や腐食が進み、新興国では輸送や水処理システムが不足している。例えば、マッキンゼーなどの調査によると、米国における水インフラへの支出は年間500億米ドル程度だが、実際に必要な投資額は1,000億米ドルを超え、そのギャップはかなり大きい。

このギャップを埋めるための取り組みが進められている。今後は、水ソリューションへの投資が大幅に加速すると見込まれている。そのけん引役となるのは、政府のプログラム、民間資本による投資拡大、そして革新的な技術を駆使した新たなソリューションだ。水関連投資を促進する米国政府の施策としては、2021年インフラ投資・雇用法に盛り込まれた800億米ドル、インフレ抑制法に基づく200億米ドルの支出や、CHIPS・科学法に基づく水処理・リサイクルへの追加支出が挙げられる。

政府支援の拡大は、国際連合の持続可能な開発目標(SDGs)ゴール6(図表)を実現する上で、これまで支出が比較的少なかったという問題を解決するのに役立つ可能性がある。SDGsを達成するには慈善活動や政府の支出が重要だが、民間セクターや株式投資家も主導的な役割を果たす必要がある。

水に関するソリューションは、需要と供給双方の問題に対処する必要がある。需要面では、水の計量、効率的なかんがいシステム、精密農業技術によって、既存の水資源をより効率的に利用することが可能になる。供給面では、廃水処理、漏水検知、海水の淡水化を通じ、清潔な水の供給を増やすことができる。

主な水関連ソリューション: 排水処理から海水淡水化まで

降雨パターンの変化で農地が危機にさらされており、農家は高性能の農業用かんがい設備を必要としている。作物の成長や水分を維持するために用いられるスプリンクラーや点滴かんがいシステムは、水の浪費を減らし、生産性の向上に寄与する新技術の恩恵を受けている。市場調査会社モルドール・インテリジェンスによると、この市場は政府の補助金や支援策、技術革新を支えに、2030年までの複合年間成長率(CAGR)が9.5%に達すると予想されている。かんがい用機械は米国で最も急速な成長を遂げている。ネブラスカ州オマハに本社を置くリンゼイは、より効率的な自動かんがいシステムを販売しており、2021年には顧客の水消費量を1,640億ガロン以上節減した。

食糧を生産する農地とは違うが、廃水の有効利用も水のサステナビリティにとって重要な役割を果たしている。いい気持ちがしないかもしれないが、農業、工業、道路清掃といった非飲料用途に廃水を再利用することは、実際には大きなビジネス機会となる。国際連合は、世界の廃水の80%が再利用されていないと推定しており、多くの新興国では廃水が直接放出され、環境に深刻な悪影響をもたらしている。

廃水処理は成長ビジネスである。グランド・ビュー・リサーチによると、世界の廃水処理装置の市場規模は2022年に635億米ドルとなり、2030年までにCAGRベースで4.5%の成長を遂げると見込まれている。先行しているシンガポールでは現在、再生水が需要の40%を賄っている。イスラエルでは廃水の90%を再利用しており、年に数カ月降雨がない地域における水需要の4分の1を満たしている。ワシントンD.C.に本社を置く産業機械メーカーのダナハーは、飲料水や廃水処理施設の分析、処理、管理に役立つ精密機器や最先端の浄化技術を提供している。

砂漠地帯の高温化と干ばつの頻発で淡水の供給が減少している。海水淡水化技術は供給量を増やす有効な手段で、圧力交換器や逆浸透膜の著しい改良のおかげで、経済効率が高まり、エネルギー消費も少なくなっている。中東ではすでに大規模な海水淡水化プラントが普及しているほか、インドなど他の国々でも大規模な海水淡水化プラントが建設され、慢性的な水不足に悩む地域の人々に希望を与えている。2022年時点の海水淡水化の市場規模は推定155億米ドルで、2030年までに毎年9.4%の成長が見込まれている。

事業の多角化が進んでいる一部の水関連企業はさまざまな課題に取り組んでいる。ワシントンD.C.に本社を置くザイレムは、水の輸送、処理、検査、利用効率、再利用、海水淡水化に用いる機器やサービスを提供している。同社は清潔な飲料水へのアクセスを向上させ、汚染を減らし、水に起因する疾患に対処する製品を通じ、新興国と先進国双方が抱える重要な問題に取り組んでいる。

魅力的な成長機会を捉える

魅力的な水ソリューション会社には何が必要なのだろうか?どの業界でも同じように、最先端の技術や製品は競争優位の上で重要だ。飲料水、排水処理、農業用水は生活に必要不可欠なサービスで、製品の安全性がとりわけ重要であるため、極めて高い信頼性を持っていなくてはならない。多くの場合、顧客は短期的な費用対効果に照らしてプロバイダーを変えるよりも、長期にわたり同じ技術や製品を使い続けたいと考える。そのため、堅実なビジネスモデルには、電力会社からメーカー、農家に至るまで、顧客との緊密な関係が必要になる。

環境といえば気候変動に焦点が当たりがちだが、水のソリューションは株式投資家にとって魅力的な成長機会を提供している。住宅の配管設備が生活に欠かせないように、世界への水の供給を維持するのに貢献する企業は、より持続可能な未来にとって不可欠な存在である。投資家は、革新的な水ソリューションを提供する企業を見つけ出すことによって、先進国・新興国を問わず人類が直面する基本的な問題に取り組みながら、景気低迷を乗り切り、長期にわたり成長を遂げる潜在力を備えた投資機会を捉えることができるだろう。

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