商業用不動産は、ダイナミックな投資市場であり、仕事、ショッピング、飲食、余暇など、我々の生活と密接につながっている。新型コロナウイルスの傷跡は今も経済に影響を与え続けており、多くの意味で商業用不動産市場は矢面に立たされている。特にオフィスを巡るネガティブなヘッドラインや投資家の警戒的な姿勢は、もっともな懸念といえる。

しかし、商業用不動産は個別性が非常に強い資産であり、リスクの度合いは個別の不動産によって大きく異なる。商業用不動産に対する一般的なネガティブな評価やマクロ情勢の不透明感は、目の肥えた投資家にとっては、魅力的な投資機会をもたらしているというのが投資の定説である。

アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は、2023年6月末に米国でウェブキャスト「米国商業用不動産の現在と未来」を実施した。ABの株式部門(リート投資)、債券部門(商業用不動産担保証券(CMBS)投資)、プライベート・オルタナティブ部門(不動産シニアローン投資)のシニア・プロフェッショナルが集まり、この重要な市場セグメントについて、現状の見方や注目すべき点、今後の見通しなど潜在的な展望を詳しく解説している。

一部はウェブキャストでも触れられているが、商業用不動産と関係性が高い市場では、どのような影響が出ているか、どういった投資機会に着目しているか等、改めて今回ご案内したい。

株式: リートと一部の銀行にフォーカス

株式市場の大部分は、商業用不動産と何らかの形で接点を持っているが、中でも特にエクスポージャーが大きい業種はリートと一部の銀行である。

リートの中でもオフィスへ投資する銘柄の株価はマイナスの影響を大きく受けている一方、リート市場(FTSE EPRA/NAREIT先進国指数)に占める割合は、相対的に小さい。また、その大半の銘柄は、高い稼働率を維持するAクラスビル(最上位級のクラス)が中心であるため、オフィス・リートの不動産ポートフォリオのファンダメンタルズは、米国のオフィス市場全体と比べて強固である。一方、インターネット時代の恩恵を受けている産業用施設(物流倉庫等)やデータ・センターの他、小規模な個人向け倉庫(トランクルーム)については、確信度が高い魅力的なセクターとして見ている。

銀行については、資産規模が小さいほど商業用不動産を巡る課題が大きい。全米に展開する大手行のローン・ポートフォリオに占める商業用不動産向けローンの割合は10%未満である一方、地方銀行での割合は20%に上る。小規模な銀行ほど商業用不動産ローンの割合が大きくなる傾向があるが、大半のローンは何らかの形で対処され、困難な環境を乗り切ることができるとABでは見ている。不動産時価の下落により、不良債権として認定されるローンは増加傾向にあるものの、スポンサー(不動産投資家)による追加出資や担保の追加差し入れの動きもあり、現状は大きな混乱には至っていない。

2023年3月に発生した米国地方銀行の破綻時、米連邦準備制度理事会(FRB)は素早く対応を行い、銀行の流動性問題に上手く対処した。地方銀行からの預金の流出は足元落ち着きを見せているが、相対的に良い地位を確立している銀行は、さらなる圧力に対処するための十分な流動性を確保している。地理的に分散した事業基盤を有する質の高い銀行については、今後も安定した事業展開を維持することが可能であり、こうした銀行のバリュエーションは魅力的であると見ている。

債券: CMBSへの影響

CMBSは、多くの債券戦略において重要な投資市場の1つになっている。足元の環境では、投資家はより高いCMBSトランシェと、組成から年数の経過したヴィンテージにフォーカスすべきであるとABでは考える。

裏付不動産のタイプについては、タイプによって格差が見られる。最も懸念されるタイプはオフィスである。組成から間もない新しいCMBSでは、オフィス向けローンのエクスポージャーが相対的に高い。オフィス以外では、床面積当たりの店舗売上高が落ち込んでいる郊外型モールにも引き続き注意を払う必要がある。ただ、同じリテール物件でも、生活必需品関連のテナントが目立つショッピングセンターは、堅調な個人消費の恩恵を受けており、中身をしっかりと見極める必要がある。

同様にホテル内でも格差が見られる。フルサービスを提供するホテルでは、コスト削減の影響等で出張目的での利用低迷が続いており、パフォーマンスを圧迫しているが、サービスがある程度限定されたリミテッド・サービス・ホテルでは、米国内で続く国内旅行需要を取り込めており、損益分岐点コストの低下等からも恩恵を受けている。

賃貸住宅については、そもそもの物件供給不足、戸建て住宅価格の高騰、住宅ローン金利の高騰等が追い風となっている。インフレが長期化することでコスト上昇による開発遅延リスクも残る中、緩やかではあるが着実な賃料成長が今後も期待され、住宅を裏付けとするCMBSローンのパフォーマンスを下支えするとABでは予想している。

上述の株式でも触れているが、インターネット上での消費拡大やクラウド事業の成長により、産業用施設(物流倉庫等)やデータ・センターは商業用不動産市場の勝ち組である。賃料は安定的に上昇しているが、景気減速リスクや大手テナント企業が新規リースを控えるリスクはあり、これらが顕在化した場合は成長鈍化が見込まれる。

債券: 地方債への影響

新型コロナウイルスの発生以降、就労形態は構造的な変化にさらされ、オフィスに対する需要は低下している。しかし、米国のほとんどの都市は、多くの投資家が考えているほどオフィスからの固定資産税収入に依存しているわけではない。自治体はその他にも多くの税収入源を有しているため、財政への影響は限定的と見ている。

オフィス需要や稼働率低下により、オフィスの物件評価額が急落したとしても、各都市は固定資産税への影響を和らげるために利用できる枠組みを確立させている。固定資産税を不動産価値から独立して設定したり、課税のベースをより緩やかに変化させ、時間をかけてマイナスの影響を分散させる策などが挙げられる。

ハイブリッドな勤務体制や完全な在宅勤務といった新しい勤務スタイルの登場により、オフィス物件の価値下落は懸念すべき点であるが、商業用不動産は低流動性資産であり、潜在的な価値の下落はより長い期間をかけて実現する傾向があり、急速な悪影響が自治体に降りかかる可能性は限定的である。また、大規模な地方債を発行する地方政府は、自ら課税ルールを変更することで、経済の変化に対応することが可能である。例えば、実店舗を持たないオンライン小売業者から税金を徴収したり、様々な行政サービスに税制を設けて税収入を補うこともできる。

プライベート・クレジット: 商業銀行が抱える課題は、魅力的な投資機会を生み出す 

過去10年間にわたり、米国の小規模な地方銀行は貸出残高を大きく伸ばし、米国の銀行システムの貸出残高の成長をけん引してきた。

FRBによる利上げ継続を受けて、顧客の預金に高い利息を支払わなければならない一方、過去に貸し出されたローンの固定金利は足元の市場金利を下回り、銀行の収益を圧迫している。このような状況下、銀行には担保として取る商業用不動産の価値下落がさらなる重圧としてかかっている。

今後の状況次第では、こうした銀行が一部の不良債権の売却を検討する可能性があり、こうした資産へ投資する投資家グループにとっては割安な投資機会に繋がるだろう。また、銀行はバランスシートの健全さを優先し、新たなローン提供に消極的にならざるをえない可能性もある。ただ、銀行やノンバンクといった伝統的なレンダーはローンのオリジネーションや期中サービシングにおいて優れたプラットフォームを確立しており、このプラットフォームを生かしながら、伝統的なレンダーに代わってフライべート・クレジット投資家が資金のみを提供するような協働も想定される。

総じて、このような環境は、今後数四半期にプライベート・クレジット投資家にとって大きな投資機会につながると見ている。しかし、これら投資機会の獲得は容易ではなく、高度な専門知識や直接的な交渉が必要とされる。適切なインフラや高度な知識・経験を兼ね備えることが魅力的で限られた投資機会の獲得において重要である。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら
 

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