商業用不動産市場を表面的に評価してしまっているオルタナティブ投資家は、魅力的なエントリーポイントを見逃している可能性がある。

ウォール街やメディアの報道をうのみにすれば、商業用不動産は2024年の投資先として避けるべき市場に思えるかもしれないが、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は決してそうは思わない。ただ、投資家がどのようにエクスポージャーを得るかは重要なポイントであり、足元のクレジット・サイクルでは、エクイティよりもデット(ローン)を通じて投資する方がよいと考えている。

2024年はプライベート・クレジット投資家にとって魅力的な1年となるだろう。2023年を通じて銀行は商業用不動産向け融資に慎重になっており、この傾向は今後も続くと思われる。欧州では、向こう24カ月の間に6,000億ユーロ相当のローンが満期を迎える。また、米国でもモーゲージ銀行協会の発表によると、2024年だけで1兆米ドル近いローンが満期を迎える。

欧州については、銀行が抱える不動産向け融資の割合が米国の銀行よりも大きい。グローバル全体で銀行業界に対する規制が強化される中、不動産融資にかかる自己資本比率規制も今後引き上げられるため、より多くのファイナンス需要がオルタナティブ・レンダーに向かう可能性がある(以前のリサーチペーパー『需給のギャップについて考える:商業用不動産ローンと保険会社の投資機会』ご参照)。

リスクを天びんにかける

商業用不動産ローンのエクスポージャーを、今、取るべきなのか?金利が上昇したことで、社債や国債といった流動性がある投資適格債券の利回りが高止まりしており、商業用不動産ローンの利回りとの差が縮小している今、このような疑問を抱く投資家もいるだろう。

さらに、借り手が直面する課題として、歴史的な高水準にある短期金利水準の長期化と景気後退の可能性もある。商業用不動産ローンへ投資を検討する投資家は、こうしたリスクに対してリターンが十分に提供されているか、また、特に主要中央銀行が政策金利を引き下げた場合、エクイティを通じて商業用不動産のエクスポージャーを取った方がより高いリターンが期待できるのではないかと考えているかもしれない。

ポートフォリオの分散を考えると、エクイティとローン両方を通じて商業用不動産のエクスポージャーを取るべきではあるが、足元のクレジット・サイクルでは、ローン投資の方がダウンサイド・リスクを軽減しながら魅力的な投資機会を見つけることができるとABでは考える。

足元の環境でレンダーになるメリット

商業用不動産のサイクルは底に近づいているように見えるが、まだ底を打っておらず、底を打つ手前でレンダーになることは利点が大きいと考えられている。

まず、サイクルの終盤に市場へ出ることが可能な余裕ある借り手(スポンサー)の多くは、クオリティの高い物件へ投資し、投資実績など信用力の高い借り手である場合が多い。しかし、どの借り手も、銀行規制強化の流れ、高金利、景気減速懸念の中で商業用不動産融資を抑制しつつある銀行からローンを調達することは容易でない。こうした状況下、これらの質の高いファイナンス需要はオルタナティブ・レンダーへシフトが進むと見られ、より低いリスクでより高いリターンを生むローン組成が可能となっている。

足元の環境下、対象不動産のバリュエーションも下方修正された状態でローンが組成されるため、ローン・トゥー・バリュー(LTV)のダウンサイド・リスクは抑制される。また、一般的に組成時に許容するLTV水準は抑制しやすく、ローンの経済条件も引き上げやすく、コベナンツの交渉もレンダー優位に進めることが出来る。こうしたレンダーのプロテクションにより、対象不動産のキャッシュフローを通じて、ローンの安定したインカム収益が投資家へもたらされる。

厚いエクイティ・クッション

エクイティ投資家の資本は、商業用不動産ローンにおいてダウンサイドを抑制する大きなクッションとして機能する。商業用不動産投資において、バリュエーションが改善すると恩恵を直接受けるのはエクイティ投資家である。それは同時に損失を受けるリスクも大きいことを示唆しており、投資案件が失敗に終わった場合に第一に損失を被るのもエクイティ投資家である。

エクイティ投資家によるクッションについて、LTV比率65%、キャップレート(純営業利益と現在の市場価値に基づく不動産の期待収益率)5%の商業用不動産投資の仮説を以下の図で立てた。

キャップレートが5.0%から5.5%へ上昇すると、物件のバリュエーションは9%下落し、エクイティ資本では26%の未実現損失が発生する。NOIが年率3%で成長し、キャップレートが5.5%を維持すると仮定した場合、未実現損失が解消されるまで3年近くかかることになる。一方、ローンで未実現損失が生じるには、キャップレートが8%近くへ上昇する必要がある。

エクイティ投資:時期尚早

エクイティ投資家は、慎重に投資タイミングを選ぶことが特に重要な環境に置かれている。市場が底を打つ前に投資をすると、さらなるバリュエーションの下方修正に見舞われ、損失をこうむる可能性がある。若干のバリュエーションの低下であったとしても、元の水準に戻るまでに長い時間を要し、プラスのリターンを得るにはさらに長い時間を要することになる。

エクイティを通じて商業用不動産へ投資したい場合、足元のサイクルでは、市場が転換するまで、少し様子を見る方が理にかなっているかもしれない。

歴史的な高金利環境が長期化する可能性にも留意が必要である。資金調達コストの上昇は、中程度のレバレッジ水準であっても、エクイティ投資の配当利回りを大幅に低下させる可能性がある。現在の金利水準は、ローンの利息支払いをカバーするのに十分なだけで、配当に回るキャッシュ余剰はほとんど出ない、あるいは全く残らないかもしれない。極端な場合、利益を上げるには不動産を売却するしかないかもしれない。

変動金利と安定したキャッシュフローも追い風

足元の外部環境は、ローン投資家に追加の魅力を提供している。ローン投資家にとって、高止まりする変動金利はインフレヘッジとして機能し、不動産の安定したキャッシュフローと共に信頼度の高いインカム収入を投資家にもたらしている。また、ローンは裏付となる不動産を担保として取っており、ローン組成段階ではキャッシュフローを生んでいない不動産でも価値がある場合がある。

現在の商業用不動産市場は困難な環境に映るかもしれないが、ローン組成にとっては魅力的な投資機会が広がっているとABでは考えている。サイクルの観点からも、レンダーになるメリットは大きいと考える。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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