配当以外にも多くのファクターを考慮することが、マルチアセット運用におけるインカムの追求には必要だ。

マルチアセットの投資家にとって、株式からの配当収入はインカムの源泉として引き続き重要である。ただし、株式インカム戦略においては、配当以外の要素も取り入れたアプローチを検討すべきであるとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考える。配当利回りはもちろん重要ではあるものの、インカムとリターン上昇の可能性のバランスを取る上で、投資家が利用できるファクターは他にもある。

インカムだけを重視することによるトレードオフ

過去30年を通して見れば、高配当株はグローバル株式市場全体とほぼ変わらないトータル・リターンを上げている(図表1、左図)。しかし、そのパフォーマンスは不安定で、市場全体よりも変動が大きかったことが分かる(図表1、右図)

配当利回りだけを重視した運用戦略(以前の記事『Income Investors: Don’t Stretch for Equity Yield』(英語)ご参照)には、もう1つ問題があり得るとABは考える。つまり、投資ユニバースを高配当株のみに限定することで、意図しない市場セクターの偏りが生じる可能性があるという問題だ。例えば、高配当利回り指数は、欧州やディフェンシブなセクター(公益事業や生活必需品など)に偏りがちである一方、まさに過去10年の市場成長の主な原動力であった、米国やテクノロジー・セクターがアンダーウェイトとなっている場合が多い(図表2)

ABの見方では、こうした偏りは大きな機会損失を生むと考えられる。イノベーションや収益性を重視する企業の多くは今日、特に米国のテクノロジー企業がそうであるように、配当の支払いよりも利益の再投資を優先している。そしてそれは、グローバル指数と高配当利回り指数のそれぞれ上位5社を一目見れば、明らかであると言える(図表3

エヌビディアのような企業はこの数年、高い株価リターンを上げる一方で、配当はほとんど、あるいはまったく支払っていない。そのため、伝統的な高配当利回り戦略には、こうした高成長企業を除外してしまうことで、キャピタル・ゲインや将来的な利益成長の大きな原動力を欠くことになるリスクがあると考えられる。また、人工知能(AI)の普及が進む中、こうした傾向は今後も続く可能性が高いとABは考える。

配当収入の確保に向けたより包括的なアプローチ

伝統的な配当利回り以外のファクターも取り入れ、企業の長期的な成長性も重視する、分散されたシステマティックなアプローチは、極めて有効な運用戦略であるとABは考える。定量的な枠組みを利用し、特に以下のような幅広いファクターに基づき、優れた企業を見極めることが重要だ。

  • クオリティ:バランスシートが強固で利益が安定している企業
  • モメンタム:株価の上昇傾向が続いている企業
  • 低ボラティリティ:市場の下落局面でディフェンシブな役割を発揮する安定企業
  • バリュー:良好なファンダメンタルズや業績見通しに比べ株価が割安な企業

こうした複数のファクターを用いた運用戦略は、様々な市場環境において、ポートフォリオの成長性と機動性を維持しつつ、魅力的なインカムを追求するのに役立つとABは考える。2025年4月のように、市場が急落した後に反発するような局面は、複数のファクターが互いに補完的に機能することを示す良い例であったと言える。つまり、市場の下落局面では低ボラティリティ株とバリュー株がポートフォリオの下落を抑え、その後の市場の反発局面では、高クオリティ株、高モメンタム株、そして高成長株がポートフォリオのリターンをけん引したのである。

地域ごとに異なる市場特性の活用

システマティックなアプローチのもう1つの強みは、地域ごとにエクスポージャーをカスタマイズすることができる柔軟性にあると言える。株式市場の特性は地域によって大きく異なり、それぞれの市場に合ったファクターを重視することで、投資成果の向上を図ることができると考えられる。

例えば、欧州市場には配当利回りが高く、バリュー株への投資機会が豊富という特徴があり、それは特に金融のようなセクターで顕著であると言える。欧州の銀行セクターや保険セクターでは、金利の上昇が利ざやの拡大と収益性の向上に寄与しており、バリュー株でありながら複利的な利益成長も期待できる「バリュー・コンパウンダー」と呼ばれる銘柄が、この数年高いリターンを上げている。配当やバリューを重視する投資家にとって、欧州が魅力的な市場であるのはそのためだ。

これに対して、米国市場の中心的なテーマは成長とイノベーションであり、なかでもテクノロジー企業が、配当利回りは低いながらも極めて高い利益の伸びを実現している。そのため米国市場では、高いインカム収入が期待できる投資対象に加えて、クオリティ、グロース、モメンタムの各ファクターを重視した運用を行うことが、潜在的なリターンの向上につながる可能性があると考えられる。

以上をまとめると、伝統的な配当インカム戦略は、投資家が求めるインカムの獲得にはつながるかもしれないものの、ポートフォリオの分散やより高いリターンの可能性を犠牲にしてしまうことも多いと言える。一方、複数のファクターを用いたシステマティックなアプローチは、より幅広い要素を取り入れたバランスの良い運用戦略であり、市場環境の変化を乗り切るのにより適している可能性があるとABは考える。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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