商業用不動産担保証券(CMBS)への投資で最も重要なのは、担保物件の価値評価だ。しかし、投資家が不動産の存続を脅かすようなリスクを無視しているケースが見受けられるのが実情だ。
 
環境、社会、ガバナンス(ESG)への配慮を通常の信用分析に組み込むことで、投資家はCMBSのリスクをより適切に評価することができる。もちろん、商業施設のリスクの大部分は、気候変動によって悪化した悪天候などの自然災害によるものだ。しかし、投資家はこれらのリスクを軽減するための保険の限界については分析が及んでいないかもしれない。
 

保険だけでは十分ではない

地震、ハリケーン、竜巻、山火事、洪水、厳しい冬の嵐など、CMBSにとっての主な危険は、保険ではカバーできない永久的な物的損害と、テナントからのキャッシュフローが損なわれる事業中断だ。この場合は全体的な損失は相当なものになる可能性がありえる。保険に加入していても、大災害による損失総額は、ほとんどの場合、保険による補償額を上回っている(図表1)。
 
保険は自然災害による全ての損失を補償してくれない.png
 
連邦危機管理庁(FEMA)が指定した洪水地帯では、多くの商業施設がハザード保険(火災や嵐などの天災に対する保険)をかけなければならないにもかかわらず、保険だけでは十分ではない。というのも、商業施設に対する連邦洪水保険の価値は、通常、不動産の価値に比べてわずかだからだ。民間の補完保険は高額で、多くの借り手は自家保険(保険会社との契約に頼らず自ら一定額を積み立てる)を選択する。加えて、最近の暴風雨は過去に比べて激しく、頻繁に発生しており、洪水地帯に分類されていない地域でも、深刻な洪水被害を受けることがある。
 
海面上昇による洪水は沿岸地域で懸念されているが、高潮の通り道にもなっている可能性のあるハリケーン多発の沿岸地域ではさらに警戒する必要がある。例えば、2017年にハリケーン「ハービー」が米国テキサス州を襲った際、被害額は1,250億米ドルに達した事例がある。被害のほとんどは洪水に関連したものだったが、多くの物件が連邦危機管理庁(FEMA)の洪水ゾーンの外にあったため、保険での補償は300億米ドルでしかなかった。最近の暴風雨は、気象パターンの変化が内陸部にも深刻な影響を与えることを示しており、米国ではほとんどの地域で懸念事項が重複してきて、今や山火事や干ばつ、地震にさらされるのは西海岸地域だけとは言えなくなっている。
 
気候変動の影響で自然災害の頻度が高まり、壊滅的な被害が発生する中で、問題は深刻なレベルに達していると言っていい。米国海洋大気庁(NOAA)によると、2020年には10億米ドル規模の気象・気候災害が22件発生したが、これまでの年間記録の16件を大きく更新している。
 
物件に対するリスクは高まる一方、ハザード保険が解決策にはならない。この良くない流れを考慮しなくてはならない。 
 

気候変動リスクの現実的な評価

気候変動リスクのある物件をすべて回避することや、気候変動リスクの高い州の物件を除外することも、あまり現実的な解決法ではない。気候変動リスクが高い物件は、カリフォルニア州が3,743件で全米トップ、次いでフロリダ州、テキサス州となっており、これらの人口密度の高い州はCMBS案件全体の25%以上を占めている(図表2)。
 
CMBSの気候変動リスクは一部の地域に集中.png
 
アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は、地域ごとに特定の種類の災害を考慮したモデルに基づいて、個々の不動産のリスクを定量化するアプローチが有効だと考えている。このような詳細な分析を行うことで、投資家はCMBSのリスク・エクスポージャーをより深く理解し、リスクの高い案件に対してより良い価格を要求したり、完全に回避したりすることができる。
 
単一のローンであれば、一般に公開されているデータを用いて評価を行うことができる。多くの投資家は、LEED認証(Leadership in Energy and Environmental Design、米国グリーンビルディング協会(USGBC)が開発した環境性能評価の認証プログラム)を受けた物件への投資を積極的に求めている。市場がこれらの証券をグリーンとみなしているためだ。LEEDは、健康的で高効率かつコスト削減可能な建物のためのフレームワークを提供しており、LEED認証は持続可能性のレベルに応じて異なる認証のレベルが与えられる。
 
グリーンな投資機会は魅力的だが、それだけでは十分ではない。物件のLEED認証は、気候関連の投資分析の出発点に過ぎず、他の脅威をカモフラージュしてしまう可能性がある。LEED認証を受けた建物であっても、周辺地域の環境にも影響を受けるからだ。
 
フロリダ州のあるLEED認証物件を一例に考えてみよう。この物件は、鉄道サービスを促進する交通の要所であり、自動車の使用を減らし、排出量を減らすことを奨励している。この物件では、証券発行時にはハリケーンによる損害をカバーする嵐と高潮に対する補償が付いていた。また、この建物はFEMAが指定する洪水地域には入っておらず、一見すると環境に配慮した投資のように見える。
 
しかし、分析を進めていくと、ビルの所有者は任意で保険を降りる権利を持っており、FEMAの指定する洪水地帯にないため、ローン契約では洪水への保険を要求していないことが判明する。つまり、仮に洪水が発生すると、テナントのビジネスに支障をきたし、キャッシュフローや将来のリース契約に支障をきたすことになる。投資家の中には、特にLEED認証を受けた物件の場合、こうしたリスクを取る価値があると考える人もいるかもしれない。しかし、このケースでは、評価額がこれらのリスクを補償するほど割安とは言えなかった。 
 

気候変動の評価を一括してCMBSの評価を深める

クレジット分析にESG分析を組み込むことは、単一のローンであれば容易に管理できるプロセスだが、ほとんどのCMBSは40~70件のローンを束ねたパッケージになっており、分析を進めるのはかなり難しい。
 
ほとんどの最終投資家、そして多くの資産運用会社は、CMBSの基本的なリスクを幅広くインハウスで評価する能力までは備えていない。一歩先を行きたい投資家は、データプロバイダーから入手可能な物件固有のハザード情報を活用し、数十件の不動産ローンを含むCMBS証券でこれらの物件分析をモデル化する必要がある。
 
CMBS市場が、これらのリスク評価を全体的にも個別にも十分に織り込んでいるとは言えず、リスクに対する分析を深めても、すぐには十分に報われないかもしれない。実際、気候変動リスクによる価格差はほとんどない(図表3)。しかし、市場がこうした要素を織り込むまでの期間は、環境リスクを正確に評価する投資家は、利回りを犠牲にすることなく気候変動リスクの少ないCMBSを選択することで、一歩先を行くことができる。 
 
現在のCMBSの価格には気候変動リスクは織り込まれていない.png
 

これからのCMBS分析

CMBS投資におけるESG要素の重要性に対する認識が高まる中、環境リスクの評価を今から始める投資家は、内在する気候リスクがCMBSの価格に反映され始めたときに、先手を打つことができる。今こそ、難しい調査をし、効果的な測定方法を考案し、特定の気候上の脆弱性の影響を分析することの見返りが大きい時期だ。
 
ESGの意味を十分に理解しているCMBS投資家にあっては、特定の危険を回避し、気候関連の損失を防ぐ点で有利な立場にあるだけでなく、最終的には、選択したリスクに対して十分な利回りの恩恵をを受けることができる投資環境にあるとABでは考える。
 
 
 
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