2010年には、フォーチュン誌が選ぶ「グローバル500社」の68%がG7先進国の企業だったのに対し、E20* 新興国の企業は17%に過ぎなかった。だが2020年末時点では、E20企業の比率は34%に倍増した。さらに、グローバル500社のうち124社を中国企業が占め、米国企業の数を追い抜いた。
 
この10年間、新興国企業は大きな飛躍を遂げた。そして、新興国市場全体にとっても多くの出来事に満ちた10年間だった。これはちょうど世界金融危機と新型コロナウイルス危機の間に挟まれた期間だったが、良い年もあれば悪い年もあり、さまざまな資産に投資するマルチアセット投資家にとっては、投資機会を捉えつつボラティリティを管理するスキルが重要な役割を果たした。
 
この10年間には大きな注目を集める出来事が数多くあったが、ゆっくりと進む目に見えにくいトレンドの方がより大きな影響をもたらした可能性がある。そうした潮流の中でも、本稿では新興国市場における「経済成長とバリュエーションの関係」、「コモディティ主導からテクノロジー主導への転換」という2つのテーマに焦点を当てたい。また、今後10年間に起きるとみられる2つの重要なトレンドと、時代を超えた普遍性を持つテーマを取り上げてみたい。
 

経済成長と株価バリュエーションの断絶

新興国では2011年から2020年にかけて経済が順調に拡大し、実質国内総生産(GDP)も年平均4.1%の伸びを示した。これは先進国の1.5%を大きく上回る水準で、そのトレンドは今後も持続すると見込まれる(図表1)。主要国では中国が成長をけん引したが、ベトナム、トルコ、コートジボワール、ドミニカ共和国など多くの小規模な国々も平均を上回る成長を遂げた。
 
新興国市場では高い成長率が見込まれる.png
 
力強い経済成長によって各国政府の歳入や、ファンダメンタルズ、信用力は押し上げられ、債券の好調なリターンにつながった。世界的に景気が力強く拡大する中で金利が低下したことを踏まえれば、それは意外なことではない。また、コートジボワールやドミニカ共和国のように、成長ペースが最も速く、信用力が最も大きく改善している国々に投資できるのは、債券投資家に限られるケースも多かった。
 
しかし、意外なことに、株式の全般的なリターンは高まらなかった。歴史的に見れば、株式のリターンは債券のリターンをアウトパフォームする傾向があり、特に経済が順調に拡大している場面ではそうなることが多い。では、なぜ今回はこうした結果になったのだろうか?アライアンス・バーンスタイン(以下、AB)ではその理由について、突き詰めれば利益成長とバリュエーションにあると考えている。一部の企業は間違いなく輝いており、特に世界のイノベーションを先導するテクノロジー企業は躍進した。過去10年間で、テンセントの1株当たり利益(EPS)は1.05元から14.82元に膨らみ、サムスン電子のEPSも1,660ウォンから5,778ウォンに拡大した。 
 
しかし、新興国市場の株価指数には競争力の低い企業も多数含まれており、その多くは株式を保有する政府や規制当局の強い影響を受けている。これらの構成銘柄が全体のEPSの伸び率を5%(年率換算ではなく、10年間の合計)に押し下げており、その結果、S&P 500指数の株価収益率(PER)が2011年の13.5倍から22.6倍に上昇しているのに対し、新興国市場では同じ期間に10.2倍から14.2倍に上昇しているに過ぎない。
 
リターンを得る上で成長は重要であるが、新興国株式と債券ではその意味合いが異なる。株式投資家は企業利益が最も力強く拡大するとみられる銘柄を見つけ出す必要があるのに対し、ソブリン債の投資家は持続的な高成長を支える信用力の強化に向けた改革を進めている国に焦点を当てている。マルチアセットの投資家にとっては、投資機会を活用するためにはどちらも重要な意味を持つ。
 

コモディティからテクノロジーへの転換

10年前の新興国株価指数には、天然資源への依存度の高い発展が遅れた国々の産業が色濃く反映されていた。多くの場合、インデックスに大きな比重を占めるのは、エネルギー企業や鉱山会社など、成長のため資金を必要とする天然資源セクターの発行体だった。銀行や通信企業もインデックスに大きな比率を占めていた。
 
それから10年が経ち、新興国の株式指数にはテクノロジーやイノベーション関連企業が大きな影響力を持つようになり、その中には世界をリードする企業も数多く含まれている(図表2)。10年前、MSCI エマージング指数に占めるテクノロジー企業の割合はわずか10%だったが、足元では20%に倍増している。しかも、テンセント(コミュニケーション・サービス・セクター)やアリババ(一般消費財・サービス・セクター)などは公式にはテクノロジー・セクターに分類されていないため、実質的なテクノロジー関連銘柄の比率はもっと高くなる。
 
変化する新興国市場の顔ぶれ.png
 
天然資源からテクノロジーへのシフトは、新興国の株価指数にとって著しい変化であり、ガスプロムやペトロブラスなどが支配していた時代とは大きく異なるダイナミックな投資機会を生み出している。
 

コロナ禍からの回復とコロナ後

今後10年を見通すと、新興国市場は過去10年間と同様に大きな変革が続くと考えられる。短期的に注目すべき動きはパンデミックからの回復プロセスで、これは各国が異なる道のりをたどることになりそうだ。最初に感染拡大に見舞われた中国はいち早く立ち直り、多くの欧米諸国にも先行している。台湾はあまり影響を受けなかったが、インドやブラジルは大きな打撃を被った。国によって状況が異なるように、リスクや投資機会もそれぞれ異なるものとなろう。
 
世界中で経済活動の再開が進み、企業の資金需要や政府の流動性需要が高まる中、米国など先行して経済の再開が進んだ国々から新興国など他地域に資金フローが向かうことが予想される。また、中央銀行による強力な景気刺激策は当面継続される見込みで、経済的リスクはさらに和らぐと思われる。さらに、ワクチン接種の進展に伴い、これまで抑えられていた経済活動も始まることから、多くの新興国企業が国内及び海外市場における需要急増の恩恵を受けるだろう。
 

サプライチェーン分散を模索

今後5年ほどで広がるとみられるもう1つのトレンドは、地政学的リスクを巡る懸念を一因に、サプライチェーンの分散が加速することだ。今日では、自動車、コンピュータ、コーヒーメーカー、シャンプーなど、ほとんどの工業製品は世界各地で生産・調達された部品・材料で作られている。企業はこれらの重要なサプライチェーンを、紛争や衝突から守ろうとするだろう。
 
大型船の座礁によるスエズ運河の運航障害は、非地政学的リスクが、ゆとりのないサプライチェーンや低水準にとどめられている在庫を直撃しかねないことを示すものとなった。企業は既存のオペレーションを見直し、将来に向けて抵抗力を高めることを重視すべきで、またそうするだろうと思われる。実際、こうした取り組みは、より多くの場所での生産施設建設や在庫の再構築につながりそうだ。
 
環境・社会・ガバナンス(ESG)問題に対する監視の目が強まっていることも、サプライチェーンを通じた調達に変化をもたらす可能性がある。例えば、人権侵害や気候変動への対策は喫緊の課題であり、世界中で投資家が資本を投入する際にESGを考慮する傾向が強まりつつある。それは、企業に対してサプライチェーンにおけるESG問題への取り組みを促す要因となり、またそうした取り組みによって新たな投資機会や資金需要も生じる。
 

分散投資と柔軟性は依然として必要

一方、今後10年間にわたり変わりそうにないことの1つは、投資家が株式や債券、通貨など幅広い資産クラスにおける投資機会を捉えようとする際に、エクスポージャーを思慮深く組み合わせる必要があることだ。適切な手法を取り入れれば、潜在的なリターンや分散効果が高まり、一つの企業やセクター、資産クラスで損失を被っても、その影響を軽減することができる。
 
また、一般的な株式指数などには含まれないような投資機会も新たに生じるため、柔軟性も必要となる。例えば、広く用いられている新興国市場の株価指数は、26カ国の銘柄を組み入れているが、ABの考える新興国投資のユニバースは60カ国以上に及ぶ。マルチアセット投資は「go anywhere(どこにでも行く)」というアプローチを採用することで、幅広い投資機会を活用することが可能になる。
 
過去10年間大きな変化を遂げてきた新興国市場では、今後10年間も同じようにさまざまな出来事が生じ、さまざまな投資機会やリスクが発生するであろう。ABでは、分散効果が得られ、柔軟性があり、ダイナミックさを兼ね備えたマルチアセット戦略は、そうした市場環境で成功を目指す投資家にとって検討に値する選択肢であると確信している。
 
 
 
*E20とは、フォーチュン誌が経済及び人口などの要因に基づき選出した上位20の新興国で構成するグループ。2020年の構成国は、アルゼンチン、バングラデシュ、ブラジル、中国、コロンビア、エジプト、インド、インドネシア、イラン、マレーシア、メキシコ、ナイジェリア、フィリピン、韓国、サウジアラビア、南アフリカ、タイ、トルコ、ポーランド、ロシア連邦。
 

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