2022年の金融市場は、容赦のない軟調相場だ。最も難局に強くあるべき国債が金利上昇(価格下落)に見舞われ、先進国の金利上昇は天井を知らないかのようだ。かつ、株式などのリスク資産やクレジット資産も併せて価格下落するなど、市場の見通しが不透明なときに期待されるべき分散投資効果がうまく働いていない。
 
本稿では、足元の金融市場の環境がパンデミック前の平穏で効率的な市場環境からどう変わったかを読み解き、金融市場においてボラティリティが高止まりし、分散効果が低減している現状について理解を深めたい。 
 

分散効果が効きにくい環境をもたらすのは「不確実性」

政治はグローバル化の進展に背を向け、金融市場では経済成長よりもインフレ対策を優先する。この大転換が、資産価格の水準調整をもたらしている(図表1)。
 

 
資産価格の水準調整が進む.png

 
 
加えて、足元は資産間の相関が非常に高く、分散効果が効きにくい状況が発生している。図表2は、株式市場と債券市場のリターンの相関が高くなっていることを示しており、投資家としては極めて対処しにくい相場展開といえる。
 
 
米国株と米国国債のリターンの相関.png
 
 
このように資産価格がこれまでの常識から外れるような動きを始めると、『資産価格の適正水準をいかにして分析し解きほぐすか?』という基本があらためて問われる。ここ数年、金融市場は多くの材料を消化し、ボラティリティの高い展開が続いてきた。これは金融市場の分析がその時々の材料に大きく依拠し、「適正水準」なるもののコンセンサスは薄氷に立つものに過ぎないことを端的に示していると考えられる。
 
ではその基本に立ち帰ろう。
 
資産運用業に長年携わる中で、多くの人が教わる鉄則は、「市場は効率的ではないと認めつつ、効率的な行動を前提として分析するもの」というものだ。もう少し具体的にいうと、他の投資家がどういう売買行動を取るかは、(頭の中を見ることはできないので)確信を持って理解することはできない。そのため、「合理的に考えればこうするはずだ」という仮説を積み重ねて我々は市場の考えを探るということだ。猫の考えはわからないまでも、前回食事をしてから時間が経てば、腹を空かせて姿を見せる確率が高くなるだろう、ということだ。
 
足元の不安定な債券や株式の価格形成は、まさにこのような金融の真実に根ざすものだと思われる。つまり、「合理的に行動したらこうなる」という類推がしにくい状況が続いたのではないか。記憶の中に合理性を見出す前例がない場合、リスクを取ってはいけないと本能が叫び、「全部売り」が発生する。すると、資産間の相関関係が高まり、分散効果が薄れる。このことを経済学者フランク・ナイトは「不確実性」と呼び、いわゆる確率で計算できる「リスク」とは区別し、別物として定義している。我々も実体験として共感できる考え方ではないだろうか。
 

金融市場はランダム・ウォークしていない

金融市場で幅広く知られる「ランダム・ウォーク」という考え方がある。これは、市場の動きは全く予想不可能であり、今日起きた出来事は「市場に織り込まれ」て、明日以降に起きる出来事には影響を与えないというものだ。この場合、価格変化は正規分布を描き(図表3)、この特徴は複雑な商品をプライシングする際にも非常に便利な概念となる。
 
 
正規分布とべき乗則の分布の形状の違い.png
 
 
しかして、今日の市場の混乱は「ランダム・ウォーク」しにくい局面にある。とりわけ債券市場では、数十年ぶりに市場を襲うインフレという事態が、いったいどうなったら「織り込み済み」になるのかを暗中模索している。これが不確実な事象のもう1つの怖さだ。
 
事故や災害のリスク管理には、「べき乗測」と呼ばれるすそ野の広い分布が使われることがある。これは、人間社会には極端な事態が発生する可能性が意外にあることを示唆しており、いまの金融市場もその例に漏れない状態ではないだろうか。
 

金融市場のボラティリティが高止まりするもう1つの理由

いま金融市場の最大の関心事はインフレだ。これは単なるひとつの材料ではない。過去20年ほど、先進国の中央銀行は必ずしも物価抑制に取り組んでいたわけではなく、日本や欧州では逆に物価上昇の達成に腐心してきた。この物価の上昇と下落は非対称性の影響を持ち、市場が均衡を取り戻したとしてもほころびを残す可能性がある。つまり、中央銀行は物価下落の環境においては、緊急利下げや量的緩和を活用して、金融市場のボラティリティ引き下げに貢献することができた。しかし、物価上昇のリスクが高い環境においては、これらは積極活用が難しい政策手段となってしまう。これも、資産間の相関関係に大きな影響を与えている。
 

「不確実性」への対処方法

本稿では、資産間の相関関係の変化は、構造的なものを含むさまざまな環境変化によるものではないかとの考えを示した。足元の債券市場では国債市場でさえ流動性に欠ける局面が散見されるなど、依然として金融市場の価格形成は不安定であり、今後もし量的引き締めが進めば状況はさらに悪化しうる。
 
正常な価格形成のためには、適正な価格水準を分析しポジションを取る多数の投資家の存在が必要不可欠である。資産運用者は、いまこそアクティブな投資行動が必要とされ、また、それが報われることが多い局面と肝に銘じ市場に向かい合うべきと思量する。
 
 

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