小型株を対象にしたファンダメンタル・リサーチは一般的に少ないが、環境・社会・ガバナン ス(ESG)に焦点を当てたリサーチはそれ以上に不足している。しかし、熱心な投資家は、信頼できるESGデータにアクセスする方法を見つけ出し、サステナビリティに関する問題の解決に大きく貢献している企業を発掘することができる。
 
小型株のESG格付けは世界的に不足している。このことは、外部機関の格付けのみに依存している資産運用会社にとって、小型株のポートフォリオを構築する上で障害となっている。小規模な企業は格付けを得るために必要な情報を全て開示することが難しいケースが多いため、MSCIやサステナリティクスなどの大手格付け会社から格付けを取得できずにいる(図表1)。
 
 
小型株は外部のESG格付けを取得することが困難.png
 
 
小型株の運用会社にとって、外部機関のESG格付けを用いるだけでは、欧州連合(EU)のサステナブルファイナンス開示規制(SFDR)をはじめとするESG関連規制に従うことはほとんど不可能である。2023年1月以降、SFDRは、ファンドを第8条または第9条に分類している運用会社に対し、環境、社会、ガバナンスに関する幅広いデータの開示を義務づけるとみられる。
 
データの整合性も課題の1つとなっている。データ自体が不足していることに加え、主要なESG格付け機関が用いている評価手法に大きな違いがあるため、それぞれの格付けの相関が低く、資産運用会社が一貫したアプローチを取ることが困難になっている。特に小型株では、主要格付け機関のESG格付けの相関は、大型株の半分にも満たない。
 
その結果、すでに広く普及している大型株のサステナブルファンドとは対照的に、小型株のサステナブルファンドは極めて少なくなっている(図表2)。
 
 

アクティブ運用のサステナブル小型株ファンドは極めて少ない.png
 

 

独自のリサーチがサステナブルな小型株への 投資機会を生む

こうした課題は、サステナビリティを重視する投資家が小型株を敬遠する理由にはならないとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では考える。気候変動や健康といったサステナビリティに関する問題の解決に貢献している製品やサービスを手掛ける最も革新的なプロバイダーの多くは、小規模な企業である。また、小型株はアナリストがあまりカバーしていないため、市場のミスプライスを利用することで魅力的なリターンを獲得する機会が生まれることも多い。
 
では、投資家はどうすれば小規模な企業のESGデータに関する課題を克服できるのだろうか?ABは、企業のサステナビリティに関する信頼性や潜在的な収益力について判断するため、資産運用会社が対象企業を独自で評価すべきだと考えている。そのためには明確なプロセスが必要で、それには、明確に定義されたサステナビリティ目標を重視したマッピング・アプローチ、将来に焦点を当てた独自のファンダメンタル・リサーチに基づく重要課題のESGスコアリング、企業のESGリスクの緩和戦略について理解を深めるための経営陣とのエンゲージメントなどが含まれる。

 

フレームワークとしてのSDGs

ABの見方では、世界的に最も広く認知されている包括的なサステナビリティに関する目標は、国際連合の「持続可能な開発目標(SDGs)」である。資産運用会社はSDGsにマッピングすることで、サステナビリティに関するグローバルな問題に対してソリューションを提供している企業を発掘することができる。
 
SDGsは、製品やサービスが持続可能な開発に貢献している企業を把握するための強力なフレームワークとして活用できる。ABは、SDGsの達成に寄与するとみられる製品やサービスのリストを独自に作成した。その上で、データ分析の手法を用いて、それらの製品やサービスを提供している企業を特定し、それらの企業で投資ユニバースを構築している。例えば、マッピングにより、SDG12(つくる責任 つかう責任)の達成に貢献する商品として、廃棄物処理の機器及びサービスを特定した。ABはリサーチを通じ、電気自動車への移行を成功させるために不可欠なリチウムイオン電池のリサイクルにおけるリーダーであるLi-Cycleが、この商品に合致していることを把握した。同社はMSCIのESG格付けを得ていないが、ABの独自のマッピング・プロセスにより、投資ユニバースに組み入れることができた。

 

独自のリサーチから積極的なエンゲージメントまで

投資ユニバースを構築した後は、重大なリスクやそのリスクを軽減するためにとられている行動など、企業ごとのESG特性を包括的に把握するため、独自のファンダメンタル・リサーチを活用できる。格付け機関は大規模企業に比べ、小規模企業に関する指標や収集データをあまり持っていないため、このアプローチは小規模企業に投資する起業家にとってとりわけ貴重である。アナリストによるファンダメンタル・リサーチは、外部機関のESG格付けに依存した場合に見逃される可能性のある重要な情報を発見するのに役立つ。
 
こうしたリサーチの例としては、グラスドア(従業員による企業レビューサイト)のレビューや、安全や健康に関する企業の違反行為に関するデータの解析などが挙げられる。データの傾向をモニターすることは、企業にとって社会的支柱である企業文化の変化を把握するのに役立つ。それが悪化していれば、既存の格付けがもはや適切ではないことを示す危険信号となる。
 
SDGsとの整合性やESGリスクを慎重に考慮した上で魅力的なポートフォリオ候補を選ぶことは、効果的なサステナブル投資戦略の始まりに過ぎない。運用チームは企業の経営陣と対話することで、その企業の将来的な戦略について知見を深め、より優れたリサーチを行うことができる。また、企業とのエンゲージメントによって、その企業が主要なリスクに対処し、長期的にESGに関する透明性を向上する取り組みを支援することができる。
 
例えば、オンライン・プラットフォームを通じて法務及びコンプライアンスに関するソリューションを提供するLegalZoomは、現時点でMSCIの格付けを取得していない。しかし、ABは独自のファンダメンタル・リサーチに基づき、同社のガバナンスを高く評価している。LegalZoomは2021年6月に上場したばかりだが、経験豊富なソフトウェアの専門家が経営している。彼は他の多くの業界トップの専門家とともに新規株式公開(IPO)前にLegalZoomに入社し、シニアマネジメントチームは業界最高水準のガバナンスを実践している。
 
ポートフォリオ・マネジャーやアナリストは企業に適切な質問を投げかけることで、小型株のESG関連データの不足による問題を克服することができるが、単に特定の方法を取り入れるだけでは、必要な結果を得ることはできない。ESGに関する優位性を獲得し、長期的に大きなリターンが期待できるサステナブルな小規模企業を発掘するためには、企業とSDGとの関連性を把握すると同時に、ESG要素をリサーチ・プロセスに組み入れ、積極的なエンゲージメントを推進する強力なコミットメントが必要になる。
 
 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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