中国が2021年も力強い上げ相場を維持できるのか、多くの投資家が疑問を抱いている。2020年の上昇が極端に少数の銘柄に集中したものだったことを踏まえれば、市場の多くの分野は依然として回復に向けた潜在力を貯め込んでいると、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考えている。
中国株式の2020年のパフォーマンスは世界でトップクラスとなった。新型コロナウイルスに対する中国の積極的な対応策が市場を支える役割を果たしたことから、MSCIチャイナ・オールシェア指数は米ドルベースで33.4%上昇し、S&P500指数の18.4%を大幅に上回るリターンを上げた。中国ではターゲットを絞った政策対応やパンデミックの適切な管理が奏功し、ロックダウン措置は少数の散発的なものにとどまり、輸出も底堅い動きを維持した。その結果、経済活動は2020年1-3月期に収縮した後に急回復し、中国企業は先進国の競争相手に比べ早期に収益を回復することができた。
超大型グロース株が市場を支配
しかし、市場全体では好調なリターンを上げたものの、パフォーマンスのけん引役はごく少数の銘柄に集中した。2020年はMSCI チャイナ・オールシェア指数を構成する800以上の銘柄のうち、アリババ、テンセント、メイトゥアン、Nio、JDドットコムといったハイパーグロース銘柄の上昇分が市場の上昇分の3分の1以上を占めた。またパフォーマンス上位10銘柄の上昇分は、同指数の上昇分に対する寄与度は50%以上であった(図表1)。
そのトレンドは米国株式のセクター別リターンと似ている。インターネットや消費関連のグロース株は事業環境の変化に迅速に適応したことで収益見通しが良くなり、投資家の信頼感が高まった。パンデミック下における仕事、買い物、レジャーのデジタル化の進展は、まさしく米国市場と同じように、ニューエコノミー銘柄のリターンを押し上げる原動力となった。
加速する経済回復
だが、一部の銘柄へのパフォーマンスの集中は幅広い景気回復とは相いれないように見える。インフラ事業の活発化は鉱工業生産に波及し、海外における需要拡大は中国の輸出を押し上げている。機械メーカーからコモディティ生産会社、生命保険会社に至るまで、経済成長に敏感に反応する中国企業の株価は、マクロ経済環境が改善しているにもかかわらず、株価が高騰しているグロース株を大幅にアンダーパフォームしてきた。
中国経済の勢いは今後も持続しそうだ。2020年10-12月期の国内総生産(GDP)成長率は6.5%に達し、当初は製造業の回復よりも遅れていた消費支出が持ち直す中で、2021年の見通しは一段と明るさを増している。この勢いが持続すれば、2021年上半期のGDP成長率は過去5年間の水準を大幅に上回る可能性がある。
幅広い回復に備えたポジション構築
2020年のリターン動向には大きな格差が見受けられた。MSCIチャイナAオンショア指数のグロース株はバリュー株を46%アウトパフォームし、年末時点の予想株価収益率は36.1倍と、バリュー株の10.5倍を大幅に上回る水準に達した(図表2)。
割高な銘柄の株価収益率が急激に上昇しているため、グロース株とバリュー株のバリュエーション格差は限界に近付いているように見える。しかし、こうした状況は、リスクとリターンのバランスを考えた場合に、幅広い景気回復の進展を反映した魅力的な投資機会を生み出しているとABでは考える。
2020年にアウトパフォームした企業の一部は、2021年も好調なパフォーマンスを維持するのは難しいかもしれない。バリュエーションが高騰しているインターネット企業は、当局による独占行為に対する規制強化に直面する可能性がある。株価水準が高いヘルスケア・セクターも同じように規制上の問題が懸念されており、薬価引き下げを目指す政策が投資家の不透明感に輪をかけている。
2021年は中国にとって、規制監督と社会福祉への取り組みが大きな政策課題となりそうだ。中国共産党が結党100周年を迎える中、システミックリスクを管理しながら社会の安定を確保することが政策の優先課題となるだろう。投資環境の改善を目指す措置はすでに明確になっている。足元における国有企業の一連の債券デフォルトは、資本市場のダイナミクスを改善することで、暗黙のモラルハザードを排除しようとする中国政府の取り組みを反映している(以前の記事『2021年の中国クレジット市場展望: 政府のデフォルト許容姿勢は長期的には投資家へ利益をもたらそう』ご参照)。
こうした行動は、中国への投資に関する他の懸念を相殺する要因となる。米国バイデン政権の誕生で米中間の貿易摩擦がどう変化するか予想するのはまだ困難だ(以前の記事『Will US-China Relations Shift Under Biden? China Seems to Think So』(英語)ご参照)。米国に上場している中国企業は依然としてニューヨーク証券取引所への上場を取り消されるリスクに直面しているが、中国政府はその一方で、海外投資家による本土市場へのアクセス制限を緩和した。香港市場へのセカンダリー上場(重複上場)や、上海市場と香港市場の相互株式取引制度の拡大も、中国株式の流動性を支える役割を果たしそうだ。
取り残された銘柄に活躍の期待
2020年の上げ相場に乗り切れなかった企業で、バリュエーションが比較的低く、収益を取り巻くファンダメンタルズが良好な一部の企業は注目に値する。中国経済が循環的な回復に向かう兆しに変わりはないため、素材、機械、鉱業の各セクターの主力銘柄に投資機会があるとABでは考えている。中国政府がテクノロジーの国内依存度の向上を目指していることも、先端半導体メーカーへの投資機会を生み出している。
労働市場のひっ迫や可処分所得の回復が消費セクターやヘルスケア・セクターの長期的な見通しを支えているが、投資家は銘柄をしっかりと選別する必要がある。来るべき販売回復を投資家がまだ認識していない自動車メーカーにとっては、トラックや電気自動車を対象とした新たな刺激策が追い風となりそうだ。
中国株式は2021年に大きなリターンをもたらしそうだ。世界中でコロナワクチンの接種が進む中、先進国の経済活動が再開されるのに伴い、バリュー株が出遅れを取り戻そうとする動きが始まる可能性があるとABは見ている。実際、世界のバリュー株は2020年11月以降回復しているが、中国のバリュー株は依然としてグロース株をアンダーパフォームしている(図表3、左図)。しかも、中国のバリュー株は2020年末までに世界のバリュー株と比べても割安感が強くなったのに対し、中国のグロース株は世界のグロース株に比べ一段と割高になった(図表3、右図)。
2020年の目覚ましいリターンは大きな格差を覆い隠している。中国は引き続きコロナ危機をうまく管理しているため、着実な経済成長がこれまで見逃されてきた多くの企業の業績を支え、潜在的な市場のボラティリティを抑制するとABでは考えている。2020年に取り残された銘柄に焦点を当てることは、投資家にとって、次の回復段階に入る前に中国株式へのアロケーションを開始あるいは拡大するうってつけの手段となる。
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