新型コロナウイルスによって、世界は中央銀行が国債利回りをゼロ付近に抑制することで政府の資金調達を支援するという新しい時代へ突入した(以前の記事『中央銀行の役割を変えた新型コロナウイルス』ご参照)。いくつかの課題はあるものの、他の地域同様にユーロ圏でもこの動きは強力に遂行されると確信しており、ゆえにアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は、イタリアやスペインなどのユーロ圏周縁国の債券市場に対しては引き続きポジティブに見ている。

財政政策と金融政策のハーモニーは欧州でも機能

この新時代においては金融政策と財政政策が「表裏一体」で結び付けられることとなる。しかし、欧州連合(EU)の複雑な政治・制度的構造を背景に、この調整が難航する可能性がある(以前の記事『新型コロナウイルス:ユーロ圏の「団結」が試されるとき』ご参照)。実際、ドイツが金融政策による政府の資金調達に強い反対姿勢を示していることから、一部の投資家は欧州中央銀行(ECB)による国債利回りの低位抑制政策に支障が出るのではないかと懸念している。

2020年5月5日にドイツ連邦憲法裁判所(GFCC)がECBによる公的部門買い入れプログラム(PSPP)はECBの権限・使命を逸脱し得るものだとの判決を下したことから、こうした懸念は顕在化したようだ。

当該判決はECBの行動の多くがドイツ国内で議論の的となっていることを想起させるものであり、EU中枢に根付く緊張関係、特にEUと加盟国との間にある分権問題を浮き彫りにしている。

しかし、これらの動きによって、国債金利を低位で安定させるというECBの意欲やその実行能力が損なわれる可能性は低い。ECBの管轄権はGFCCではなく欧州司法裁判所(ECJ)にあり、ECJは既にPSPPは合法であるとの判決を下している(ECJのプレスリリース(英語))。したがってGFCCの判決は、6月4日にECBが資産購入プログラムによる購入額を6,000億ユーロ増額した際の障害にはならなかった。

ただ、GFCCの判決が何も影響を及ぼさないかというとそうではない。ラガルドECB総裁は6月4日の記者会見にて、ECBの対応はその目的に相応なものであり、決定に至る前に費用対効果を慎重に吟味した点を強調した。

GFCCによる判決は、物価安定の使命に基づいて、ECBが自身の行動をより明確に正当化することを迫るものでもある。ECBチーフエコノミストのフィリップ・レーン氏は6月5日のブログにて、ユーロ圏の加重平均国債利回りの重要性を指摘した(『Expanding the pandemic emergency purchase programme』(英語))。ユーロ圏周縁国の国債利回りが上昇したことを主因に、この指標は2020年3-4月に急上昇した結果、金融環境の緩和が求められる局面であったにも関わらず、逆に引き締めに繋がってしまった(図表)。

加重平均国債利回りとインフレ目標をリンクさせることは、ECBの債券購入及び周縁国利回りの低位安定化を強く正当化し、ひいては明示的なイールドカーブ・コントロールの導入にまで発展する可能性を秘めている。

新型コロナウイルスがユーロ圏経済を襲う中、国債利回りは上昇.png

「何でもやる」姿勢はいまだ健在

マリオ・ドラギ前ECB総裁が「ユーロを守るために必要なことは何でもやる」と約束して以来、ECBはユーロ圏各国の国債引き受けの意思を示し、欧州債券市場の見通しに多大な影響を及ぼしてきた。欧州復興基金に進展の兆しがあるが、その影響力はなお健在だ。

ECBのコミットメントが8年前と同様に現在も強力な点は朗報である。仮に低金利がインフレ目標と不整合となった場合には、このコミットメントの維持は困難になろう。しかし、ECBの最新経済予想では2022年のコアインフレ率は僅か0.9%にとどまり、2020年後半にさらなる金融緩和が必要になるであろう点を踏まえると、コミットメントが維持できなくなる可能性は極めて低いと見る。

欧州ソブリン債は依然魅力的

各国中央銀行の金融政策によって、債券利回りが政策金利付近に固定されるとともに金利ボラティリティが低下し、国債の潜在的リターンが抑制される中、ECBがユーロ圏周縁国国債のバックストップになろうとしていることは欧州債券市場にとってポジティブな要素であり続けるだろう。

ECBが政策の軸足をドイツ金利の安定からユーロ圏各国の加重平均利回り引き下げに移す中、他の先進国と比べて相対的に大きいユーロ圏の長短金利差が、為替ヘッジ後の高い利回りを産み出す点は注目すべきポイントだ。金利のボラティリティが低下している今、このような特性によってユーロ圏国債は世界の投資家にとって非常に魅力的な投資対象となっている。

中でも、最も確信度の高い投資先として10年以下の満期の国債が挙げられる。ECBの主要な政策手段であるマイナス金利及び量的緩和の効果は、特に市場が債券発行の増加を予想している場合、より長期ゾーンで弱まるためだ。債券発行の増加は、より満期の長い債券の利回りに対し上方圧力を加え、長短金利差の拡大に繋がる可能性が高い。

世界的に債券利回りと金利ボラティリティが記録的な低水準に近づく中、国債投資によって高いリターンが見込める時期は既に過ぎてしまった可能性が高い。しかし、イールドカーブ・コントロールなど新しい金融政策が出現する新時代に突入していく中、アクティブ運用を行う投資家には上述のユーロ圏周縁国に代表されるように依然として投資機会が残っていると考える。

 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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