地球温暖化をめぐる懸念が危機的水準に近づく中、社債投資家は発行体が解決策の一翼を担うことを期待している。気候問題の主犯は温室効果ガス(GHG)で、すべての業界が何らかの形でGHGを排出しており、多くの企業はその排出量、つまりカーボン「フット」プリントを削減するため苦闘している。一方、カーボン「ハンド」プリントは気候にもたらすプラス効果、つまり、その企業の製品やサービスを利用することによって排出を「回避」できる炭素の量を表している。

カーボンハンドプリントは気候にもたらすプラス効果を測定

国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)で発表された研究結果によると、地球が炭素排出のトレンドを改善し、破滅を回避するには、あと9年ほどしか余裕がない。地球温暖化の専門家はCOP27の場で、長期的なネットゼロ*の目標を達成するには、炭素排出量の削減だけでは不十分だと指摘した。より多くの、そして斬新なアプローチが必要で、特に炭素排出の防止が不可欠になっている。

産業界で炭素排出がどのように防止または回避されているかを理解するには、カーボンハンドプリントに注目するのが有効だ。カーボンフットプリントが企業の事業やサードパーティーの活動によって排出されるGHGを測定している†のに対し(以前の記事 『債券ポートフォリオにおけるカーボンフットプリントの把握』ご参照)、カーボンハンドプリントは、地球の気候問題の解決に寄与する製品やサービスを購入及び利用する他の企業が排出を回避した炭素量を測定するものだ。

クリーンエネルギーからリサイクル、輸送、エネルギー効率まで、カーボンハンドプリントが大きい企業が、世界の気候問題の解決に向けて大きく貢献している。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)の株式チームによる詳細な調査では、カーボンハンドプリントがカーボンフットプリント(製品を生産することで生じる排出量)を上回る企業が、世界の気候問題に対する強力な解決策を提供していることが明らかになった(以前の記事 『カーボンハンドプリント:株式投資家の気候変動への取り組みにおける鍵』ご参照)。

カーボンハンドプリントは、気候問題を考慮した債券運用に新たな側面を加えている。発行体が環境の改善に向けて好ましい貢献をしていることを示すもう1つの基準として捉えられるほか、特にグリーン・ボンドをはじめとするESGラベル付き債券を評価するために運用者が用いる基準の枠組みを強靭なものにしている。運用者はグリーン・ボンドの潜在力をより正確に把握することで、従来型債券の利回りと比べ、グリーン・ボンドの利回りがどれだけ低いかを示す「グリーニアム」の価値をより適切に評価することができる(以前の記事 『グリーン・ボンドの下値抵抗力を検証する』ご参照)。

カーボンハンドプリントを通じてあらゆる資産の評価が可能に 

カーボンハンドプリントはまださほど注目されていないが、それに基づく企業のGHG排出量に関する情報は、債券投資の上で役立つと考えられる。気候ソリューションのタイプによって、カーボンハンドプリントを定量化する方法は異なっているが、ABの分析が基軸としている統一的な原則は、どれだけ多くの炭素排出を回避しているかという点だ。この指標は、カーボンハンドプリントを特定及び評価する際の基準となる。例えば、クリーンエネルギー企業はゼロカーボンエネルギーの生成量で評価され、資源効率を改善する企業は他の企業や事業体が使用するエネルギーを節約する能力でランク付けされる。

カーボンハンドプリントは、グリーン認証を受けた大規模な新工場の建設や、エネルギー効率の高い照明の設置など、さまざまなものから生み出すことができる。ABは、2030年までに太陽光発電、風力発電、断熱材、電気自動車(EV)が、GHGの排出回避に最も貢献する、つまり、カーボンハンドプリントが最も大きくなると考えている。

カーボンハンドプリントは、排出が防止または回避されたCO2がメトリック・トンで表示されるため、企業が排出を防いだ量よりも多くのCO2を排出しているかどうかが分かる。例えば、断熱材メーカーが製造時に1メトリック・トンのCO2を排出しても、それを使う顧客が200メトリック・トンの排出を回避するとすれば、フットプリントに対するハンドプリントの比率は実に200倍に達する。この比率は、特に企業のタイプによって大きく異なり、セクター内でもバラつきが見られる。そのため、フットプリントに対するハンドプリントの比率が比較的小さい企業でも、業界内における炭素排出回避に大きく貢献している可能性がある。

ハンドプリントは経済性に基づいて評価できる

ABの分析では、炭素排出を削減または回避するためのコストは、製品や業界によって大きく異なることも明らかになった。例えば、商業用ジェット機の製造では、炭素繊維が圧倒的に安価な素材として使用されている。その主な理由は、強度が極めて優れているうえ、軽量なためエネルギー節減効果が高いためだ。一方、バイオ燃料や低温貯蔵は今のところ、カーボンハンドプリントを高める手法としては、経済性がかなり劣っている。しかし、将来的に技術革新が進めば、電気自動車やグリーン建設資材と同様に、現在の高いコストが今後10年間のうちに低下していくと予想される。

炭素削減のコストは、炭素集約的なセクターばかりでなく、債券のリサーチにも幅広く影響を与える。あらゆる業界の企業がカーボンハンドプリントを改善したいと願うかもしれないが、そのためのコストが課題となる。企業は、LED照明、断熱材、炭素繊維など、より費用対効果の高いハンドプリントのソリューションを重視する傾向がある。ABのコスト調査は、こうした需要から利益を得られる企業を発掘するうえで役立つと考えている。

ハンドプリントは債券を比較するツールに   

カーボンハンドプリントは比較ツールとして、気候問題への意識を持つ債券投資家が投資機会を選別する際に利用することができる。特に、グリーン・ボンドではカーボンフットプリントとハンドプリントを投資家が一つ一つ比較できるよう、より詳細な情報開示が義務付けられており、投資家にとって活用しやすいものとなっている。例えば、ブルックフィールド・リニューアブル・パートナーズとスター・エナジーは比較的似通った発行体で、どちらも信頼性の高いグリーン・ボンドの枠組みや環境に配慮した資産を保有しており、両社とも再生可能エネルギーを用いた電力会社として気候改善に向けた取り組みを支持している。しかし、2段階の分析を用いると、片方のカーボンハンドプリントが他方よりも大きいことが分かる。

まず、ブルックフィールドがグリーン・ボンドを通じて調達した資金と年間の発電量に基づくと、生産するエネルギー1単位当たりの投資額はスター・エナジーをわずかに下回り、炭素排出量(カーボンフットプリント)は24%も少ない。しかし、もう少し掘り下げてみると、スター・エナジーのカーボンハンドプリントはブルックフィールドに比べ大きく、年間70万メトリック・トンを超すCO2の排出を回避している。しかも、1メトリック・トン当たりの排出回避コストはブルックフィールドのほぼ半分だった。その結果、フットプリントに対するハンドプリントの比率は約110倍という高水準に達した(図表)。

各国はようやく気候に関する共通の目標に向けて協力するところまで到達したが、COP27で得られた広い認識は、地球温暖化が依然として喫緊の脅威であるということだ。経済を繁栄させるためには、企業もその役割を果たさなくてはならない。

企業セクターがスケジュールどおりにネットゼロの目標を達成するためには、脱炭素技術への支出を今後10年間に飛躍的に拡大する必要がある。こうした大規模な支出は、社内で排出量を削減するだけでなく、バリューチェーン全体で排出を回避する脱炭素化ソリューションを手掛ける企業に追い風となるほか、債券投資家にとっても魅力的な投資機会を提供することになろう。

ご参考記事: カーボンハンドプリント-炭素排出をどれだけ回避したか?気候変動の改善に着目した新しいアプローチご参照)

*ネットゼロカーボン経済とは、パリ協定で示された、2050年までに1.5度の気候変動温暖化目標に合致したに合わせる経済と定義されています。

†カーボンフットプリント:加重平均炭素強度

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