現代奴隷は社会悪であり、投資上のリスクになるという認識は高まる一方だ。投資家はさまざまな業界におけるこのリスクを把握し、根絶する上で重要な役割を担っている。特に世界の鉱山業界はとりわけ厳しい立場に置かれている。この業界で働く人々は大きなリスクにさらされており、そのリスクはますます高まっている。テクノロジーやアパレルなど、消費者との距離が近くリスクの高い業界と比較しても、リスクがうまく管理されているとは言い難い。

鉱山業界は、移民や少数民族など、特に弱い立場の人々を多く雇用している。また、多くの企業は、紛争が広がり、汚職がまん延し、司法制度が十分整っていない地域で事業を展開している。採掘作業そのものが危険であることに加え、外部委託や変動の大きい季節需要に依存しがちなビジネスモデルもリスクを高めている。

そのため、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では、事業運営やサプライチェーン全体について、鉱山業界を現代奴隷のリスクが高い業界であると位置づけている(図表1)。ABの見方では、そのリスクはますます高まっている。

リスクが高まっている一因は、政府や政府間組織による監視が強まっていることだ。米国ではすでに紛争鉱物に関する法律が施行されているほか、欧州連合(EU)では2023年1月5日に「企業持続可能性報告指令」が施行された。この新たな指令に基づき、EUで大きなプレゼンスを持つEU及びEU域外の大企業は、労働条件、平等、非差別、ダイバーシティ(多様性)及びインクルージョン(包摂)、人権、特定事業が人々や人の健康に及ぼす影響といった社会的要因に関する報告義務が課せられることになる。

欧州委員会は2022年2月に「企業持続可能性デューディリジェンス指令案」を発表した。これが立法化されれば、企業の人権や環境に関する義務が定められることになる。さらに、欧州委員会は2022年9月に「強制労働の規制に関する提案」を発表した。この提案は鉱山業界を名指ししてはいないが、強制労働に関与している企業を対象にしている。この提案が法制化されれば、対象となった企業の製品をEUが輸入、またはEUから輸出することが禁じられる。

国際連合(UN)の持続可能な開発目標は2030年までに現代奴隷を根絶することを目指しており、UNが支援する責任投資原則は2022年12月に、社会問題や人権について企業に働きかける取り組みを開始した。この取り組みは、同種の取り組みとしては最大規模であり、賛同している220社以上の資産運用会社の運用資産総額は30兆米ドルに上る。

この取り組みの最初のターゲットは、鉱業、金属、再生可能エネルギー業界である。これらの業界のリスクを高めている要因のひとつは地政学的な動きだ。再生可能エネルギーの利用拡大や、軍事技術の進歩により、一部の鉱物に対する需要が拡大している。企業だけでなく政府も比較的希少な資源の入手を競っていることから、競争は今後さらに激化する可能性がある。

こうした圧力が強まるにつれ、鉱山業界で働く労働者、特にサプライチェーン上で最も遠く、透明性の低い場所で働く人々にとって、人権が脅かされるリスクが高まることになる。また、投資家にとっても、投資ポートフォリオに含まれるリスクを特定し、管理する重要性が高まっている。こうした取り組みを効果的に行うにはどうすればいいのだろうか?

鉱山業界では地理的な条件が大きなリスク要因に   

重要な点は、投資家のポートフォリオに組み入れられている企業ばかりでなく、投資ユニバースに含まれるすべての企業について、現代奴隷に関するリスクを評価する強力なフレームワークを構築することだ(以前の記事『現代奴隷のリスクを評価するフレームワーク』ご参照)。ファンダメンタル分析と外部の専門機関によるリサーチを組み合わせれば、現代奴隷に関するリスク・エクスポージャーに応じて、企業や業界に優先順位を付けることが可能になる。

AB独自のフレームワークは、「リスクに対してぜい弱な人々」、「リスクの高い地域」、「リスクの高い製品やサービス」、「リスクの高いビジネスモデル」という4つの主なリスク要因に基づいて構築されている。鉱山業界の採掘事業とサプライチェーンにはこれらの要因すべてが当てはまる。

鉱山業界のリスクはなぜそれほど高いのだろうか?鉱業は経済にとって重要な産業で、新興国ではとりわけ重要性が高い。輸出の25%以上を燃料ではない鉱物が占めている40カ国のうち、75%は低・中所得国である。

鉱山業界は新興国に深く根付いているため、多くの地域で大きなリスクをもたらしている。例えば、安全対策が不十分なことが多く危険性の高い、職人的で小規模な採掘(ASM)は、主にこうした国々で行われている。国際労働機関によると、世界で約1,300万人がASMに従事しており、それによって生計を立てている人は1億人に上ると推定されている。

採掘が行われている多くの地域では、遠隔地での搾取的な作業や、時に強制的に行われる先住民の追い出し、犯罪組織や武力紛争との関わりなどが、リスクとなっている。将来的に需要が高まるとみられる鉱物の多くはこのような地域に存在しているため、今後リスクがさらに高まることが予想される。

エンゲージメントは理解と知見をもたらす 

現代奴隷リスクに関する広範なフレームワークは有用なツールだが、真の知見は、個々の企業のリスク・エクスポージャーを理解することによって得られる。鉱山業界は全般的にリスクが高いものの、その度合いは企業によって異なり、リスクの認識やそれを管理しようとする取り組みも一様ではない。

個々の企業の現代奴隷リスクに対するエクスポージャーを理解するには、強力なリサーチ・スキルや、ファンダメンタル・アナリストと社内の環境・社会・ガバナンス(ESG)専門家の連携に加え、リスク管理のベストプラクティスを明確に認識することが必要になる。

問題を特定し、それに対処するために企業と直接関わることも重要だ。知見と行動の両面からのエンゲージメントは、採掘事業やサプライチェーンに関わる従業員だけでなく、企業や投資家がさらされかねないリスクを軽減できる可能性がある。それは、現代奴隷リスクに対する企業の認識を高め、それを管理する効果的な方法の開発を支援する絶好の機会となる。

この問題を巡るAB独自のエンゲージメントの結果、鉱山会社のリスク認識度は高まりつつあるものの、リスクを管理するためにはさらなる行動を取る余地があることが判明した。例えば、ABがエンゲージメントを行った企業の多くは、人権や現代奴隷に関して適切な方針を掲げてはいるが、方針と実際の行動には大きな差がある。企業とのエンゲージメントで得られた考察のひとつは、この問題に関する社内のオペレーション及び調達担当者のトレーニングはかなり進んでいる一方で、サプライヤーのトレーニングはまだ始まったばかりだいうことだ(図表2

ABでは、企業が現代奴隷リスクに関する監査をサプライチェーンに導入するには、まだ長い道のりが必要だと考えている。従業員や地域住民が匿名で報告できるシステムは確立されているが、こうした仕組みによって問題が明らかになるには至っておらず、その有効性について大きな疑問が持たれている。

投資家はどのようにリスクを管理し、変化をもたらす
ことができるか

ABの評価に基づけば、世界の鉱山業界は本質的にリスクが高く、 リスクの認識や軽減に向けた取り組みはテクノロジーやアパレルなど他の業界よりも遅れている。

こうした問題を生んでいる要因のひとつは、業界構造が他の業界と異なっていることだ。テクノロジーやアパレル業界は消費者の意見に敏感で、彼らにとって何より重要な消費者の間で現代奴隷に対する意識が高まっている。鉱山会社は主に企業同士で取引しているため、小売業界に比べれば、消費者の意見からある程度隔絶されている。

しかし、そうした状況は長続きしそうにない。

鉱山業界の顧客である企業は、現代奴隷に関するリスクをますます意識するようになり、鉱産物を供給している鉱山会社に一段と厳しい要求を突き付けている。政府も鉱山会社やサプライチェーンに対する監視を強めている。短期的には、それは鉱山の運営や収益に逆風となり、投資家にとっても、どの企業が関心の高まりに効果的に対応しているかを見極めなくてはならないという圧力が高まっている。

投資家は考え抜かれたフレームワークや、適切なリサーチ、企業とのエンゲージメントを通じ、ポートフォリオにおけるこれらのリスクを把握及び管理することができる。同時に、投資家は鉱山会社が現代奴隷のリスクをもたらす慣行を改善するのを支援し、最終的には、この業界で働く多くの労働者の安全性の向上に寄与することができる 。

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