米国の地方債の投資家は、景気後退に陥ればそれぞれの州の財政が痛手を受けかねないと懸念している。市場規模が4兆米ドルに上る米国地方債市場では、州が最大のセクターで、全体の14%を占めており、他の地方債発行体にとっても重要な資金調達源となっている。そのため、州が抱える財政上の問題が効果的に処理されなければ、さまざまな分野に悪影響が広がる可能性がある。しかし、各州の財政状態は良好で、その堅実な財政運営により、ほとんどの州は今後予想される景気悪化を乗り切ることができそうだ。

景気後退に対する入念な準備

景気後退に見舞われたとしても、それは州当局にとって驚くことではない。これまで何十年も、景気後退の可能性は最も話題に上ってきた問題の1つだ。しかも、地方債の発行体は、そうした事態を乗り切るための財政力や予算ツールを持っている。

各州の財政はここ数十年で最も健全な状態にあり、長年にわたる安定した歳入、保守的な姿勢を強めている予算編成、パンデミックで連邦政府から受けた救済基金のうち未使用の残高、2008年以降の年金積立の改善などが財政を支えている。2022年の資金残高は過去最高の3,430億米ドルに達し、それは支出額の32%に相当する(図表1)

各州は膨らむ財源を支出に回すよりも銀行に預ける傾向が強いため、緊急時に備えた資金は2022年に過去最高の1,345億米ドルに達した(図表2)。つまり、2008年の世界金融危機の直前よりも各州は多くの資金を保有していることになる。また、財政が健全な州は傘下の自治体に対する財政支援を削減する可能性が低いため、市や郡、学区なども健全な州財政状況に直接的な恩恵を受けている。

歳入見通しが州財政の健全性を押し上げ

州財政の健全性は、「銀行にある資金」のほか、収入の面でも測定できるが、収入は大半の州で堅調に推移しており、一部の州では極めて明るいように見える。州レベルの税収は2022年に伸び率が鈍化したが、それでも中央値ベースで前年比10%増加した。しかも、49の州は2022年の税収が平均で計画を20%上回り、これまでの報告によれば、2023年も同じ傾向が続くことが見込まれる(図表3

各州の収入源はそれぞれ異なっているため、財政の健全性を測る上では、それらを区別することが重要になる。実際、2023年7月1日から始まる2024会計年度には、各州は収入源によってそれぞれ異なる問題に直面することになる。

例えば、テキサス州では売上税が主な財源で、ここ数年は歴史的な高インフレを受け、課税対象となる商品やサービス価格の上昇が税収を押し上げている。そのため、同州は春の予算編成にあたり、収入と手元資金が過去最高に達すると見込んでいる。

それとは対照的に、カリフォルニア州では収入の大半を所得税で得ており、特に高額所得者の所得税とキャピタル・ゲイン税に依存している。しかし、賃金の高いハイテク業界での人員削減、住宅市場の低迷、金融市場の混乱など、いくつかの予測できない要因が財政を圧迫している。その結果、2024年度の財政収支は225億米ドルの赤字と、支出の約10%に相当する額に達すると予測している。もっとも、この赤字額は確かに大きいが、見た目ほど深刻ではなさそうだ。実際、カリフォルニア州を含め、すべての州は効果的に財政を管理できる多くのツールを持っており、債券発行体として高い信用力を維持することが可能だ。

ベルトの引き締めから締め切り延長まで:州が持つさまざまなツール

特に財政難に直面している州をはじめとする各州は、困難な経済環境を乗り切るため、多くのツールを活用することができる。項目別の支出調整、現金準備、増税、人員削減や一時解雇、優先事項やプログラムの変更及び延期、借入権などは、州の裁量で活用できるツールのごく一部に過ぎない。そればかりか、各州はどのツールをどの程度使うか、柔軟に対応することができる。そのため、たとえ資金不足に直面しても、大恐慌以来、デフォルト(債務不履行)に陥った州はない。また、特に過去21カ月は、格付け機関による信用格付けの引き上げが引き下げを上回っており、地方債市場全体の質を引き上げる上で大きく貢献している(図表4)

ここでも、カリフォルニア州は、柔軟な行動で財政難に対処できることを示す好例だ。大半の指標は、カリフォルニア州の収入が減少する見通しを示唆しているが、同州はそれを克服する準備を整えており、実際にそれを実行することができる。例えば、同州は360億米ドルの財政準備金を保有しているが、赤字を補てんするためそれに手をつけるつもりはなく、将来の緊急事態に備えて準備金をそのまま残しておく計画だ。むしろ、交通機関の整備や干ばつ・山火事対策など、予定しているプロジェクト向け支出の先送りによって赤字を埋める計画だ。

米国地方債市場にとって2022年は暗い1年だったが、2023年ははるかに良い年になりそうだ。当然ながら、地方債の投資家にとっては短期的なハードルがいくつか残っており、景気の落ち込みによる影響を各州がどれだけ回避できるかなどを見極めなくてはならない。景気後退に陥るのか、もしそうならいつになるか、といった点もはっきりしない。しかし、各州には不況に備える十分な時間があり、いつもどおり、何が起きてもそれに対処できる体制が整っていると考えられる。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら
 

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