様々な報道や誤解が原因で企業の利益成長ドライバーが見えにくくなることは少なくない。特に、ボラティリティの高い2025年のような年はその傾向が強い。
膨大な量の報道によって投資先企業に対する見方が変わり、当初の投資判断が揺らぐことはあるものの、アクティブ運用の投資家にはこうした情報の波に流されずに冷静さを保つことが求められる。日々押し寄せる情報の中からノイズ(雑音)を排除し、各企業に投資を行う中核的な理由を見極めるには、高い集中力が必要となる。
2025年前半はまさにそのような局面にあったといえる。関税の話題がニュースを席巻し、関税による企業への影響の大きさを分析した記事が多くなる中、それ以外の重要なテーマが取り上げられることは少なかった。ブルームバーグによれば、2025年前半の企業の決算説明会では「関税」と「貿易戦争」という単語の使用頻度が他のビジネス・経済全般の単語に比べて急上昇した(図表)。

グロース投資家にとっての生命線
では、株式投資家はどうすれば日々のニュースに振り回されずに済むだろうか。情報過多の状況に対処する上で最も有効なのは、投資の基本原則を維持し、企業の基礎的な利益成長ドライバーに目を向けることであるとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考える(以前の記事『長期視点での成長株投資が教えてくれること』ご参照)。成長企業の利益とキャッシュフローは長期的にわたって加速度的に拡大する可能性を秘めており、これこそが成長株投資の魅力といえる。そのため、投資家は日々のニュースに一喜一憂するのではなく、長期的な視点を持つことが必要であるとABは考える。
投資家がそのような長期的な視点を持つには特別な発想が必要であり、企業のオーナーと同じように考えることが求められる。そうすることで、投資家は持続的な成功につながる企業や経営陣の資質を見極めることが容易になる。こうした資質を見抜くことができれば、不安をあおるニュースや市場の混乱も、健全な投資判断を揺るがす脅威ではなく、質の高い成長企業に魅力的な株価で投資する好機となり得る。
優れた企業オーナーが重視する企業の資質とは?
- 優れた競争優位性。優れた企業は長期的に大きく成長する可能性を秘めているが、そうした可能性は過小評価されていることも多い。また、経済環境の変化による影響を受けにくい構造的な成長ドライバー(先端技術、医療イノベーション、工業オートメーション、エネルギー移行など)が企業の強みを支えているケースも多い。さらに、大型設備投資の必要性や技術・性能面での優位性といった参入障壁の高さが、企業の強みにつながっているケースもある。
- 成長機会を広げるグローバルな視点。代表的な成長企業には米国企業が多いものの、成長機会が大きい魅力的な企業は世界中に存在し、その株価は割安であることも多い(以前の記事『欧州株式:厳しい世界経済環境の中、再評価への動き』ご参照)。
- 企業文化の健全性。健全な企業文化を持つ企業には明らかな利点がある。優秀な経営陣は、その経営判断に対して、結果の良し悪しにかかわらず説明責任を果たそうとする。意思決定と説明責任が各事業部門に委譲された分散型の経営体制は、優良企業の特徴であるといえる。
- 強い企業を作り上げる優秀な経営陣。長期的な視点を持った企業オーナーは、強い企業を作り上げることができる。例えば、欧州企業の多くは事業の分散化を進めることで、関税を含む世界的なショックによる業績への悪影響を緩和している(以前の記事『欧州株は米国新政権の「米国第一」の影響を克服できるか?』ご参照)。そうした分散化の例には、事業拠点の世界的な分散化、意思決定の分散化、複数の国やサプライヤーにまたがるサプライチェーンの分散化、さらには関税の影響を受けない現地生産体制の構築などがある。
- 経営陣ではなく株主のための企業買収。企業のM&A(合併・買収)は、失敗すれば株主価値を毀損することが多いため、買収に積極的な成長企業には特別な能力が求められる。つまり、買収候補の絞り込みに時間をかける必要があり、目先の利益を高めるためだけに話題性の高い大型案件に飛びついてはならないということである。特に、市場が細分化されている場合には、戦略的な買収を複数組み合わせることで、自社の競争力を高めることができる。それは例えば、現地の小規模な競合他社を最初に買収し、その後地域全体や世界全体に買収候補を広げていくといったやり方である。このように、規模が比較的小さい企業を連続的に買収できる成長企業をABは高く評価している。そうした買収戦略が企業の規模や購買力の拡大、さらには本業の成長や競争力という「堀」の強化につながるためである。
- 強みになり得る「退屈さ」。優秀な企業オーナーは、短期的な刺激ではなく、長期的な成果を追求する。利益が安定している企業の多くは比較的退屈に見えるかもしれないが、その退屈さは強みになり得る。例えば欧州では、それほど目立たないニッチ市場において、一部の工業メーカーが驚くほど堅調な成長を長期にわたり実現している(以前の記事『欧州成長株:成長の源泉となる工業セクター』ご参照)。本業の安定的な成長、資本規律を重視した慎重な買収戦略、投資に見合った健全なキャッシュリターンといった特性は、注目されることは少ないものの、概して企業の持続的な成功を支える重要な要素である。
変動の激しい世界でノイズを見極める
質が高く事業が安定している企業には大きな成長が期待できるものの、そうした企業に関する報道が良い内容ばかりとは限らない。多くの場合、金融メディアは企業の業績悪化を強調するセンセーショナルな見出しで話題性を高め、クリック数を稼ごうとする。そうした行動が、貿易戦争やマクロ経済上の問題、さらには地政学的な緊張をめぐる不透明感に拍車をかけている。それでも、企業の本質を正しく理解している投資家であれば、情報の霧の先にある世界を見通し、確信をもって5年先や10年先を予測することができるだろう。
偏った報道が有害なストーリーを作り出し、ネガティブな報道に基づく誤解が株価のボラティティを高めることもある今日の世界において、投資家は優れた企業に対してさえも自信を持てないことがある。ノイズの多い報道が飛び交う中、投資の基本原則を維持することは、企業の真の実力を見極めるのに役立つだけでなく、市場の混乱を戦略的に利用して株価の持続的な上昇を捉えることにも役立つとABでは考える。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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