利回り水準が高く、企業財務が保守的な傾向を維持していることから、米国の関税政策を巡る不確実性の中にあってもハイイールド債は底堅く推移している。
株式市場が乱高下を繰り返す中、ハイイールド債は過去1年間安定したパフォーマンスを残している。各種債券の中でも、ハイイールド債は2025年前半のパフォーマンスが最も良い資産のひとつであった。健全なファンダメンタルズや高水準の利回り(以前の記事 『ハイイールド債:短期年限への投資が有効』 ご参照)、保守的な企業財務といった要因を背景に、この力強いトレンドは当面継続するとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では予想している。
米トランプ政権による「相互関税」の発表(以前の記事 『The Ripple Effect: Tariffs and Their Implications』(英語)ご参照)や貿易相手国に対する攻撃的な発言などに続いて、投資家は現在、予想を下回る雇用の伸びなど景気減速を示唆する経済指標を消化しつつある。こうした経済リスクはハイイールド債市場にとって波乱要因となってもよさそうなものだが、これまでのところ特に問題は生じておらず、今後も直ちに混乱が生じるようには見えない。その理由は次のとおりだ。
良好なファンダメンタルズが信用スプレッドを抑制
企業のファンダメンタルズは、米国、欧州いずれにおいても足元でやや弱まっているものの、依然としておおむね堅調だ。信用格付引き下げの件数が引き上げを上回っているほか、企業の利息支払い能力を示すインタレスト・カバレッジ・レシオや利益率を示すEBITDAマージンが悪化しているのは事実だ。しかし、これらの指標は、新型コロナ・パンデミック後の大掃除により業績不振の企業が一掃され、全体的な信用の質が向上した後の高水準から調整している段階で、図表1でも見て取れるように、長期平均に向けて少しずつ戻しているところだ。

現在のタイトなクレジット・スプレッド水準について、ABでは特に懸念していない。金利が上昇すれば、スプレッドが利回りに占める割合は小さくなる。そして、より重要なのは、リターンの主たるドライバーはスプレッドではなく利回りであるということだ。債券のスプレッドは、その時々の発行体の相対的信用リスクを反映しているが、イールド・トゥ・ワースト(期限前償還を考慮した最低利回り)の方が、ベースとなる国債利回りとクレジット・スプレッド双方から得られる債券の期待リターンをより良く反映している。
ABのリサーチによれば、イールド・トゥ・ワーストは、市場環境のいかんに関わらず、5年後のリターンを推定するための信頼できる指標となる(以前の記事 『ハイイールド社債:ボラティリティの高い環境でこそ真骨頂を発揮する』 ご参照)。イールド・トゥ・ワーストは現在、過去10年の実績レンジの上位25%付近で推移している(図表2)。こうした高利回りを考慮すると、今後数年間のハイイールド債のリターンは株式のリターンに対しても十分競争力を持つと予想できる。

もちろん、スプレッドが拡大するリスクはある。実際、2025年4月にはトランプ関税の発表を受けてクレジット・スプレッドは一時的に急拡大した。しかし、ハイイールド債市場は底堅さを見せ、スプレッドはほどなく反転縮小した。この事例は、長期間にわたりレンジ内で推移することも多いスプレッドの粘着性と、現在のハイイールド債市場の強固なファンダメンタルズの両方を浮き彫りにしている。
とはいえ、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ期待を受けてインフレ期待が再燃すれば、短期金利が上昇するため、スプレッドは拡大する可能性があるとABでは考えている。しかし、ハイイールド債は金利上昇の恩恵を受ける可能性が高いため、スプレッドが拡大してもハイイールド社債価格は上昇する可能性すらある。もう一つ留意すべき点は、関税問題を巡るリスクはすぐにはなくなるわけではないことから、スプレッドのボラティリティは引き続き高止まりするであろうことだ。
総じて、利回りはスプレッド拡大による債券価格へのマイナスの影響に対して緩衝材として機能し、ハイイールド債市場の底堅さを支えるであろうとABでは予想している。
関税問題による不確実性が企業支出を抑制
関税問題を巡る不確実性は、金融市場をかき回し、米国の貿易相手国を疑心暗鬼にさせた反面、企業のバランスシートを強化するという意図しない効果ももたらした。混沌とした事業環境の中では予算を立てることが難しいため、ハイイールド債の発行体企業は運転資金を強化するとともに債務を保守的な水準に保つことで関税や貿易を巡る混乱の行方を見守ることを選択した。
こうした保守的な財務アプローチは、欧州や米国の債券市場における純新規発行の抑制傾向や調達資金の使途の両方に反映されている。仮に新規発行が急増しており、しかもレバレッジド・バイアウトやM&A活動の資金として使われていたら、市場にとって大きな懸念材料となっていただろうが、これまでのところそうはなっていない。
実際には、新たに発行された債券の資金使途は既存の借り入れや債券の借り換えが大部分を占めている(図表3)。こうした発行体の行動は、スプレッドの粘着性を維持し、ハイイールド・ユニバースを比較的クリーンに保つことに寄与している。外的なショックが生じた場合でも、市場にはバブル的な要素があまりないため、ABではハイイールド債市場が崩壊するとは予想していない。

通商摩擦問題は、債券発行体が債務管理をより慎重に行うよう迫っていることに加え、過去30年間にわたり市場にくすぶってきた債券の大量償還に関する懸念を和らげる効果ももたらした。市場ではしばしば債券の満期が集中することに対する不安が高まるが、現在は発行体が静かに借り換えを進めていることや、残存期間の短い債券には比較的高品質なものが多いことなどから、大量償還に関する懸念は高まっておらず、この傾向は今後も続くものと見るられる。
無論、ハイイールド債も今後世界経済に混乱が生じれば影響は免れ得ないし、景気減速にも左右されるであろう。それでも、クレジットの質が良好で利回りも高水準にあることに加え、発行体がバランスシートを慎重に管理している現状では、地味なハイイールド債こそがグローバル資本市場の不安定な局面を乗り切るための最適な戦略となるかもしれないとABでは考える。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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本文中の見解はリサーチ、投資助言、売買推奨ではなく、必ずしもアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)ポートフォリオ運用チームの見解とは限りません。本文中で言及した資産クラスに関する過去の実績や分析は将来の成果等を示唆・保証するものではありません。
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当資料は、2025年8月15日現在の情報を基にアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーが作成したものをアライアンス・バーンスタイン株式会社が翻訳した資料であり、いかなる場合も当資料に記載されている情報は、投資助言としてみなされません。当資料は信用できると判断した情報をもとに作成しておりますが、その正確性、完全性を保証するものではありません。当資料に掲載されている予測、見通し、見解のいずれも実現される保証はありません。また当資料の記載内容、データ等は作成時点のものであり、今後予告なしに変更することがあります。当資料で使用している指数等に係る著作権等の知的財産権、その他一切の権利は、当該指数等の開発元または公表元に帰属します。当資料中の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。当資料中の格付けはABの定義に基づきます。アライアンス・バーンスタイン及びABはアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーとその傘下の関連会社を含みます。アライアンス・バーンスタイン株式会社は、ABの日本拠点です。
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