プライベート・クレジットならではの特性が借り手と投資家の利益につながることもある。
パブリック市場とプライベート市場の一体化、なかでもプライベート・クレジット市場のパブリック市場への融合が進んでいるとのニュースが、金融メディアを賑わせている。一方、そうした融合は新しい現象ではなく、この数十年続いてきたものだ。構造的な変化が起きているというよりは、長期的な傾向が今も続いているということである。
社債を公募する代わりに、少数の機関投資家に販売することで企業が資金を調達する投資適格私募債市場は、そうした傾向を示す良い例だ。投資適格私募債市場では、社債のプライシングやストラクチャーに関して、借り手企業により多くの選択肢と高い柔軟性が与えられている。
そして今では、レバレッジド・ファイナンス市場にも同じことが言える。プライベート・クレジット市場が急成長した結果、大規模な発行体の資金調達においては、超大型のプライベート・クレジット取引と広くシンジケートされたローンのどちらも利用できる状況が強まっている。借り手企業は、資本コストや実行のスピード、さらにはクロージングの確実性や柔軟性を比較し、どちらが最適な市場かを個別案件ごとに判断しているのである。こうした選択は極めて合理的なものであると言え、資金調達における借り手企業の選択肢がどちらか一方ではなく、より効率的につながり合っていることを示している。
アセット・ベースド・ファイナンス(ABF)市場の存在もまた、預金という安定した資金調達手段を持たないノンバンクや専門金融機関の選択肢をさらに広げている。ABF市場の柔軟性や規模の拡大を考えれば、最適な調達の実行と資金源の分散を追求し、特定の手段への過度な依存を避ける上で、プライベート市場を活用することは自然な選択肢であると言える。
借り手は今後、資金調達のコストと柔軟性、さらには実行のスピードとクロージングの確実性を考慮し、それらが最も優れた市場を利用していくことになるとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は見ている。
流動性があるかどうかは別問題
資金調達源の一体化が進んでいる可能性はあるが、プライベート・クレジット市場の流動性は依然として限られており、それにはもっともな理由がある。流動性の高いプライベート・ローンのセカンダリー市場というものを想像したくもなるが、そうした幻想はプライベート・クレジット市場の構造や強み、ひいては借り手や投資家から見たプライベート・クレジット市場の魅力とは相いれないものであるとABは考える。
ABの見方では、借り手はプライベート・デットの取引において、出所が分からない資金を求めているわけではない。借り手が求めているのは、実行の確実性やスピード、さらには単独の貸し手や同じ考えを持った少数の貸し手との利益の一致であると考えられる。それに加えて、借り手の具体的なニーズに合わせてローンの仕組みをカスタマイズできる点も、借り手にとっては重要であるとABは考える。プライベート・クレジット取引の多くが貸し手による債権譲渡を制限しているのは、こうした理由によるものであり、それらはプライベート・クレジットの欠点ではなく、特長であるとABは見ている。
結局のところ、投資家がプライベート・クレジットに求めているのは、利回りの向上とより優れたダウンサイド抑制効果(個別のストラクチャーに加えて、貸し手と借り手の強力な関係によるもの)、さらには低いボラティリティであるとABは考える。そして、こうした魅力の多くは、ローンを売買できるようにすることで、失われてしまう可能性があるものだとABは見ている。売買には書式の標準化やローンの時価評価が必要であり、市場へのストレスが投資家層の細分化につながる可能性もあるためだ。
プライベート・クレジットの借り手や長期資金の貸し手が、そのようなエコシステムを求めているとは思わない。
投資適格プライベート・クレジット:シンジケーションとオリジネーション
プライベート・クレジットを売買したいという希望は、セカンダリー市場を一般化することがその目的ではなく、長期保有が可能な機関投資家に向けて、大規模な投資適格プライベート・ローンをシンジケートしようとする試みの表れであるとABは見ている。
そうした試みには一定の需要があり、例えばエネルギー移行を加速させ、デジタル・サービスの推進に必要なデータセンターを支えていくためには、巨額の資金が必要となる。そのため、資本形成においては、「すべての選択肢」を組み合わせた戦略が求められるのである。仮にそうした技術を駆使する目的が、より効率的なリスクの分担と配分を実現し、巨額の資金需要に応えるためだとすれば、そこにはメリットもあると言えるだろう。しかし、それがOTDモデル(金融機関が組成した融資を証券化して販売する、オリジネート・トゥ・ディストリビュート・モデル)に近づけば近づくほど、パブリック・クレジットとの区別は難しくなってくる。そしてそれは、借り手がこれまでプレミアムを支払ってきた、柔軟性と信頼できる関係性という、プライベート市場の価値を低下させるリスクがあるとABは考える。
取引の規模と流動性コスト
さらに言えば、ローンは常に売買が可能というわけではなく、取引の規模が限られ、情報もより制限されたミドルマーケット(中規模企業向け市場)では、売買は非現実的と考えられる。例えば10億米ドル以上の超大型ローンなど、売買が可能なケースであっても、市場における取引は限られる。また、通常そうした大規模なローンを引き受けることがない投資家にとっては、ローンの取得に必要なデューデリジェンスが、取引の障害になり得るとABは見ている。
「ストラクチャーは機能に従う」
プライベート・クレジットの未来のかたちはひとつではなく、投資適格プライベート・ローンの流動性は緩やかに高まっていく可能性もある。一方、投資適格未満のミドルマーケット向けダイレクト・レンディングについては、その設計上、今後も流動性は極めて低いままにとどまるとABは考える。借り手にとっては、資金調達における選択肢の統合が進んでいるのかもしれないが、パブリック市場とプライベート市場を区別する基本的な特性の多くは、依然残ったままである。
借り手にとって価値があるのは、透明性、確実性、自由度という3つの要素であると考えられる。また、投資家にとっての魅力は、安定した利回りと低いボラティリティであると言える。そのため、流動性を高める努力においても、そうした現実を直視する必要があるとABは考える。そうでなければ、パブリック・クレジットに似ているというだけで、実はパブリックの強みもプライベートの強みも持たない、そうした商品を生み出してしまうリスクを市場は冒すことになるだろう。
流動性が悪いと言いたいのではない。ただ、プライベート・クレジットに関しては、流動性の低さは欠点ではなく、特長であると言いたいのだ。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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