経済成長の鈍化よりも航空機の供給不足の方が影響は大きい。
民間航空機による移動はこの数年、旅行の抑制につながった世界的なパンデミックや航空会社にとってはコストの上昇要因となる米国の関税政策など、多くの困難に直面してきた。また、知名度の高い航空会社が経営破綻に陥った例もいくつかある。それでも、現役の航空機を必要な航空会社にリースするという投資戦略の先には、今でも晴れた空、すなわち明るい未来が広がっているとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考える(以前の記事『航空機ファイナンスへの投資機会』ご参照)。
ABの見方では、航空機ファイナンスは投資家にとって、安定したキャッシュフローを生むとともに、上場民間航空会社の株式も含めた幅広い市場インデックスとは異なるリターン特性を有する、引き続き魅力的な投資手法であると言える。こうした特性の背景にあるのは、航空機ファイナンスが持つ世界経済の成長や新興国の個人消費への長期的なエクスポージャーであり、とりわけ新興国市場においては、所得水準の上昇に伴い、観光旅行への支出も増加していく余地があると考えられる。
また、航空業界は再編を繰り返しており、そうした中で航空機ファイナンス戦略には、極めて必要性の高い流動性を航空会社に提供できるチャンスがあるとABは考える。そして、近年のいくつかの変化が示唆しているのは、固有の価値を有する実物資産である航空機のポートフォリオをグローバルに保有し、それらを航空会社にリースすることで、貿易や世界経済への懸念が高まる中でも、魅力的なリターンを得られる可能性があるということだ。
航空機の供給制約をチャンスに変える
第一の変化は単純なものであり、使用可能な航空機が不足しているということだ。現在就航中の民間航空機の数は、世界全体で3万機を下回っており、その約半数はリースである。エアバスとボーイングがパンデミック期に生産を縮小したことで不足が悪化し、新規の生産機数は今もまだパンデミック前の水準をはるかに下回っている。こうした減産は、「失われた世代」とも呼ばれ、3,000機分に近い生産がその間に失われることにつながった。また、ABの推定では、航空機の発注から納入までの期間は現在、6年に及ぶこともある。
こうした結果、旅行需要や人々の所得水準も高まる中、世界ではこの先さらに10年、航空機の不足が続く可能性があると業界専門家は見ている。また、国際航空運送協会(IATA)の見通しによれば、世界の旅客数は年率平均にして3.6%のペースで2043年まで拡大を続け、アジアや中東からの利用客の増加がその主な原動力になるとのことである。
一方、航空会社ではこうした需要に応えるため、航空機の使用年数を延ばしており(図表1)、そうした動きが航空機の更新サイクルの乱れにつながっていると言える。

古い機体の魅力を高める米国の関税措置
米国のドナルド・トランプ大統領による輸入品への大規模な関税措置は、グローバルなサプライチェーンへの依存度が高い航空機の生産にも影響を及ぼしている。米国でボーイング737を1機生産するためには、何百ものサプライヤーから部品を調達する必要があり、その多くはカナダやメキシコのサプライヤーである。新たな航空機の導入コストが上昇していることで、航空会社にとっては、古い機体をより長く使用し続ける理由がさらに増えたと言える。
こうした航空機の使用年数の長期化は、航空機のポートフォリオをグローバルに保有し、それらを必要とする航空会社にリースすることができるレッサー(航空機の貸し手)にとって、有利に働くものと考えられる。また、投資家もこうしたリースを通じて、特定の航空会社に過度に偏ることなく、グローバルな航空セクターに投資することが可能になると言える。それは、仮にある航空会社が経営難や経営破綻に陥ったとしても、航空機は別の航空会社にリースし直すことができるためである。
注目すべき最近の経営破綻事例
米国においては、格安航空会社(LCC)が抱える問題が世間を騒がす経営破綻へと発展しており、例えばスピリット航空は先日、2025年内2度目となる破産法の適用を申請した。こうした傾向は、航空機リースにおける枠組みの転換を示唆している可能性がある。つまり、レッサーにとっては、資金繰りが必要な航空会社に流動性を提供する見返りとして、最新のナローボディ機(単通路型旅客機)を割安な価格で手に入れられる可能性が高まっているのである。
また、一部の航空会社の経営難を受け、航空業界では経営統合の動きが加速していくとABは見ている。米国における航空会社の数は、2010年頃までは20年間にわたり着実な増加が続いていたものの、その後は減少に転じ、2024年には1990年並みの水準にまで落ち込んだ。こうした業界再編は、ABの見方では、航空会社のクレジットの質を高めるものと考えられる。またその一方で、同じ期間について見ると、年間の出発便数は増えていることが分かる。

レッサーも市場から撤退している
新たな航空機の供給が少なくなったことで、航空機のレッサー間でも経営統合が進んでいる。また、新型の航空機を購入することができなくなった大手レッサーの多くは、航空会社から中古の機体を買い取ることで保有機数を増やした上で、それらを航空会社にリースバックし、使用させている。
こうした取引は、関係者すべてに次のメリットをもたらす可能性がある。
- 航空会社は、機体の売却代金(大抵は当初の購入コストを上回る)を一括で受け取ることで、手元流動性を高めることができる。
- 大手レッサーは、世界の主要路線で使用される、最新型の航空機を保有することができる。
- 中堅レッサーは、多くの場合において、その汎用性と運用コストの低さから航空会社の主力機として知られる、経年が進んだナローボディ機を買い取ることができる。
また、売却のタイミングを迎えたナローボディ機は、複数の方法で現金化あるいは収益化することができ、そうした方法には売却のほか、他の航空機との交換や貨物機への転用などがある。
さらに、世界経済の成長鈍化や米国の関税政策に伴うコストの上昇によって、航空会社が新型機の発注を減らすことになれば、古い機体を多く保有するレッサーにもメリットが及ぶ可能性がある。
経済リスクと地政学リスクの評価
仮に世界が景気後退に陥った場合、航空機による移動は少なくなると考えられる。また、米国政府がビザに関する規制を強化した場合も、米国への渡航者数は減少するだろう。ただし、リスクが最も高いのは航空会社への投資であり、それは資本構成上、航空会社が最初に損失を吸収することになるためだ。一方、航空機は移動させることができる資産であり、レッサーは軟調な市場から堅調な市場へと、航空機の配置転換を自由に行うことができると考えられる。
また、ウクライナや中東における戦争の激化が、燃料価格の上昇や航空需要の低下を通じて、市場にさらなる悪影響を及ぼす可能性はある。それでも、地政学的な紛争が世界全体に広がらない限り、ABの見方が変わることはなく、世界経済の成長を捉える上で、航空機ファイナンスは魅力的な投資手法であると言えるだろう。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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