クレジット市場にはサイクルがあり、デフォルトは必ず起こる。それでもプライベート・クレジットには、ストラクチャーの交渉や貸し手のプロテクション、さらには長期の資金に支えられた独自の強みがある。

プライベート・クレジット市場はここ10年急速に成長しており、成長に厳しい視線はつきものだ。最近相次ぐ企業の破綻を受け、クレジット市場の一部では過熱への懸念も高まっている。

一方、クレジット市場には当然サイクルがあり、市場が一直線に成長することや予測可能な動きをすることはほとんどない。パブリック市場にもプライベート市場にも拡大期と縮小期があり、クレジット市場は融資基準が緩めば拡大し、厳しくなれば縮小する。こうした動きがあるのが正常なクレジット市場であり、市場は投資家のリスク許容度や経済環境、さらには資本の獲得競争によっても変化する。

デフォルトは市場の破綻を予期するものではなく、市場が正しく機能していることを示す証拠であるとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考える。真に重要な問題は、デフォルトが起こるかどうかではなく、起きたときの対応であり、デフォルトが投資家の損失につながるかどうかである。

規律に基づくプライベート・クレジット運用は、投資及び市場全体の双方の観点から、金融分野における最も強力なリスク抑制策のひとつになりうるとABは考える。

その理由は以下のとおりだ。

プライベート・クレジットは複雑な融資を実行するためにあり、避けるためにあるのではない。ABが考えるプライベート・クレジットとは、銀行やパブリック市場が提供できない、あるいは提供しようとしない、資金調達ソリューションを提供するためのものである。また、プライベート・クレジットにおいて重要なのは、デューデリジェンスの徹底、ストラクチャーのカスタマイズ、さらにはプロテクションの交渉であり、それらがプライベート・クレジットの価値やリスクを決定づけると考える。

プライベート・クレジットの貸し手は、コベナンツ(財務制限条項)や報告義務を借り手と交渉することで、借り手に問題が起きた場合でも能動的な対応を取ることができる。例えば、借り手の財務レバレッジが事前に定めた基準を超えれば、貸し手は資産の売却や資本の注入を借り手に求めることもできる。また、ファンドにロックアップ期間を設けることで、運用会社はパニック的な融資の引き揚げを避け、時間をかけて借り手の問題を解決することができる。

一方、プライベート・クレジットのストラクチャーは借り手にとって、資金の安定性と貸し手とのつながりを表すものであるとABは考える。プライベート・クレジットの借り手が求めているのは、シンジケートされた貸し手や情報の透明性ではなく、自社の事業を理解し、サイクルを通じて変化に対応することができる、借り手と同じ考えを持った単独の貸し手である。また、そうした継続的な関係性は、借り手にとっても貸し手にとっても説明責任の強化につながると考えられる。借り手は柔軟な融資を事業の持続性向上につなげることができ、貸し手は融資を通じて借り手のビジネスをより明確に理解し、それに影響を与えることもできるためだ(以前の記事『パブリック市場に近づくプライベート市場と流動性の限界』ご参照)。

経験豊富な運用会社を利用し、こうした運用を行うことで、プライベート・クレジットの複雑性は、弱みから強みに変わるとABは考える。

プライベート・クレジットは一般的にレバレッジが低く、返済順位も高い。プライベート・クレジットの原資は預金や短期資金ではない。つまり、預金や短期資金であれば市場のストレス時には引き揚げのリスクがあるものの、プライベート・クレジットにはそうした「取り付けリスク」や流動性のミスマッチはないということだ。

銀行によるノンバンク向け融資が増えており、そうした融資にはプライベート・クレジット・ファンド向けのシニア担保付融資も含まれる。ファンドの投資対象は通常、より複雑で流動性の低いローンであり、それらを運用できるのはプライベート・クレジットの運用会社だけだ。その意味では、銀行は運用会社を通して、適切なリスクのもとで様々な借り手に広くローンを提供しているとも言える。

プライベート・クレジット市場では、投資家層も広がりを見せており、レバレッジをかけない保険会社による投資も増えている。こうした動きは、プライベート・クレジットにとっては規制された長期投資家へのリスクの移転を意味する一方、保険会社にとっては高い期待リターンと負債とのマッチングの追求を意味する。こうしたリスクは、これまでであれば複数のトランシェに切り分けられ、より幅広く資本市場全体に行き渡っていたであろう。

さらに、プライベート・クレジットは決して画一的ではなく、その融資対象は企業、不動産(以前の記事『From Conference Room to Kitchen: How Reuse Can Reshape Real Estate』(英語)ご参照)、インフラストラクチャー、さらにはアセット・ベースド・ファイナンス(スペシャルティ・ファイナンス)(以前の記事『スペシャルティ・ファイナンス:プライベート・クレジットの次世代を担う魅力的な分散投資先』ご参照)と多岐にわたる。また、各セクターにはそれぞれ独自のサイクルがあり、そうしたばらつきがポートフォリオの相関やシステマティック・リスクの抑制に寄与するとABは考える。

そして、市場がストレスに見舞われても、逃げずに立ち向かうのがプライベート・クレジットであると言える。つまり、プライベート・クレジットというロックアップされた長期の資金は、まさに伝統的な貸し手が融資を縮小するような局面で、借り手に流動性を提供し、経済活動を抑制するのではなく、支える役割を果たす可能性があるということである。

運用会社の経験や戦略の選定も重要だ。プレキン社の推定によれば、プライベート・クレジットの市場規模はその成長に伴い、企業向けダイレクト・レンディング関連の戦略だけでも、2024年の約2兆米ドルから2030年には4兆5,000億米ドルまで拡大すると見込まれている。一方、そのパフォーマンスは投資家ごとに異なり、環境が厳しくなるほど差が開くのが健全な市場の姿であるとABは考える。

また、ポートフォリオのリスク低減に寄与し得るとはいえ、プライベート・クレジットは無リスクではなく、そうしたリスクを管理するのが運用会社の役割であるとABは考える。運用会社の最も重要な役割は、規律に基づく融資先の選別によるデフォルト件数の最小化に加えて、融資のストラクチャー、管理、調整を通じたデフォルト時の損失の最小化であると言えるだろう。

クレジット市場のサイクルを避けることは誰にもできない。それでもプライベート・クレジットには、他の投資にはないプレミアム、すなわちその複雑性や低い流動性、さらには独自の問題解決能力がもたらす上乗せリターンを期待することができ、損失をより直接管理できる仕組みもある。

運用会社の経験は市場のパターンを理解し、リスクをその発生前に予期する上で役立つものと考えられる。またその一方で、ポートフォリオのさらなるリスク低減を図る上では、借り手やセクター、ストラクチャーの分散も重要だ。ABがこのように考えるのは、そうすることで、1件の融資がポートフォリオ全体のパフォーマンスに与える影響を抑えることができるためである。

市場のサイクルはスキルと運の違いを明らかにし、過去に市場の下落を乗り越え、そこから学んだ経験のある運用会社や投資家は、次の下落局面におけるアウトパフォームの可能性が高いとABは考える。

つまり、ABが考えるプライベート・クレジットの強さの土台は、運用会社の経験とポートフォリオの分散の組み合わせにあるということだ。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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