人工知能(AI)がヘルスケア企業に恩恵をもたらす可能性はある。しかし、企業の持続的な成長にとって本当に重要なのは、その企業のファンダメンタルズであって最新の科学技術ではない。
2025年のヘルスケア株は低調なパフォーマンスが続いているものの、ヘルスケア企業は成長に向けて新たな原動力を獲得しつつあり、それは投資家にとって明るい材料となるだろう。AIの活用がヘルスケア・セクター全体のイノベーションを後押ししており、うまく活用した企業にとっては、企業利益や株式リターンの向上につながる可能性がある。
ヘルスケア企業における日々の業務はデータ管理や高い科学技術に依存する部分が大きく、技術の進歩はヘルスケア・セクターとって、常に変化をもたらす要因となってきた。AIはまさに次の波と言えるものであり、薬品の承認にかかる期間の短縮や患者体験の向上、さらには手術支援ロボットや腕に貼るだけでがんを検出できるパッチなど、幅広い分野でAIが活用されつつある。ヘルスケア・セクターにおいては、こうした技術の活用を積極的に進めている企業はまだ比較的少ないものの、決算説明会でAIに言及する企業の割合は増えている(図表)。ヘルスケア企業にとって、AIは差別化の原動力となるものであり、今後数年にわたり、より大きなビジネスの成功や企業の成長、さらには株式リターンの向上につながる可能性があるとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は見ている。

AIの新たな力を示す強いバイタルサイン
ヘルスケア企業が抱える切実な情報収集ニーズや情報交換ニーズの解決に向けては、AIが既に新たな道を切り開いている。例えば、オープンエビデンス(OpenEvidence)と呼ばれる医療情報プラットフォームは、医療従事者向けに特化したAI活用型のデータソースであり、急速な勢いで医療分野におけるオープンAIと言えるものになりつつある。
オープンエビデンスは、そこにいくつか質問を入力するだけで、拡大を続けるデータベースから情報を集め、それらを可視化し、回答を生成してくれるプラットフォームである。また、データベースには最高水準の医学文献や学術研究が蓄積されており、十分な情報に基づく意思決定にはこうしたプラットフォームが欠かせないと言える。
医療におけるAIを活用した初期の成功事例
映画「スター・ウォーズ」に登場する「R2-D2」のようなロボットが、実際の患者に大きな手術を施すというアイデアを実現するには時間がかかる。それでも、人間の助けを必要としないロボット手術の進歩に向けた取り組みは、新たな境地を切り開きつつあると言える。例えば、ジョンズ・ホプキンズ大学の研究チームは、ロボットのトレーニングに総合的な教育動画を導入することで、患者そっくりの人体模型を使った8回の胆のう手術実験において、100%の成功率を収めた(ジョンズ・ホプキンズ大学のサイト(英語、外部サイト)ご参照)。これは、2025年7月のサイエンスロボティクス誌に掲載された研究概要によれば、「自動手術システムの臨床開発に向けた大きな節目」となる成功であった。
また、この分野においては、インテュイティブ・サージカルが、順調な滑り出しを見せていると言える。インテュイティブ・サージカルは、その確かなビジネスモデルを背景に、ロボット支援手術機器やデータ生成サービスの分野において、他社をリードする存在となっている。AIが新たな原動力となり、インテュイティブ・サージカルの技術ラインナップがさらに拡大することで、患者の選択から回復に至るまで、手術のプロセス全体が変わっていく可能性もあるとABは考える。
ウイルスに打ち勝ち、顧客を効率的に管理
AIはまた、創薬の加速化のほか、ゲノム(DNA)の調査や臨床研究にも役立つ可能性がある。ただし、成功事例は今のところ限られていることも確かだ。フィナンシャル・タイムズの最近の報道によれば、創薬の過程において失敗の確率が革命的に低下すると期待するのは大げさであり、AIによって発見された新薬のうち、後期の臨床試験まで進んでいる例はまだほとんどない。
それでも一部の企業では、病気の進行に関するシミュレーションや分子の最適化、さらには個別治療のカスタマイズにおいて、高度解析技術やデジタルツイン(仮想モデル)技術が活用されている。例えば、体外診断薬を専門に扱うビオメリューでは、臨床現場における薬剤耐性の検出のほか、感染症検査や新型コロナウイルスの流行状況の監視にAIを活用することで、それらの方法を進化させている。
ヘルスケア・セクターではまた、AIの商業利用も着実に進んでいる。例えば、ライフサイエンス分野のクラウドソフトウェアを提供しているヴィーバ・システムズでは、製薬会社の臨床試験管理や規制対応業務にAIを活用し、その効率化を図っている。
優れた患者対応:AIの人間的な側面
一方、一部の人々は引き続きAIを脅威と見ており、特に自らの雇用への脅威を感じている。しかし、AIは気づかないうちにそうした人々の命を救うことになるかもしれない。例えば、GEヘルスケアでは、X線撮影をより鮮明かつ短時間で行うためにAIを活用し、放射線被ばく量を全体的に抑えつつ、画質や正確な診断の可能性を高めている。
AIはまた、新たな治療法や治療手段をより早く患者に届けるのにも役立っている。例えば、自宅にいながらにしてがん細胞を発見したり観察したりすることができるようになったのは、まさに超音波パッチが発明されたおかげである。これ以外にも、患者にとっての潜在的なメリットとしては、遠隔医療における専門医間のコミュニケーションの向上が挙げられる。複雑な症例において、腎臓専門医、心臓専門医、内分泌学者の3者がAIを通じて会話し、より早い診断や対応を行うことで、患者が病院に行かなくても済むようなケースを想像してみてほしい。これは患者にとって良いだけでなく、ヘルスケア業界全体のコスト削減にもつながる可能性があるのである。
AIの急成長がヘルスケア・セクターにもたらす影響の評価
AIは多くの点でヘルスケア業界を進歩させると考えられるものの、投資家にとって重要なのは、AIが個別企業にもたらす真のメリットに着目することである。有望なイノベーションへの投資は賢明な行動ではあるものの、深刻な問題を抱えた企業が、そうした投資だけで変わるとは考えられない。
ヘルスケア企業への投資においては、科学技術ではなく事業の中身に着目するよう、ABが常に主張してきたのはそのためだ。これと同じ考え方は、初期のインターネットから医薬品やワクチンの開発に至るまで、これまでの他の飛躍的な進歩にも当てはまってきた。最も成功している破壊的な技術でさえ、開発過程における多くの失敗の上に成り立っているのであり、どんなによく考えられたアイデアも、それが広まるのには時間がかかることもある。
ヘルスケア銘柄への投資においては、AIがその企業のキャッシュフローや収益性、さらには競争力に加えてビジネスモデルにどのように寄与するか、注意深く見る必要があるとABは考える。また、その企業に持続力があり、利益を再投資することで資本コストを上回るリターンを上げることができているか、検討すべきでもある。堅実な企業であれば、AIへの投資に失敗しても成長することはできる。その上で、本当に優れたヘルスケア企業にとってAI活用の成功は、ビジネスモデルをさらに強くし、企業利益や投資家により良い影響をもたらすものに他ならないと言うこともできるだろう。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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