日本の金利が上がり始めて、はや4年になろうかとしている。円金利の復活は投資家にとり歓迎しつつ対応を要する環境変化であるが、本邦投資家と海外投資家で、その着目点は異なってくる。

ゼロ金利やマイナス金利下では、お金を放っておくことの機会損失がなかった。しかし、「金利がある世界」になると、時間の経過に伴い保有する富の価値が変わり、割引率が変わると投資対象の価値も変わるため、消費や投資のタイミングは以前より複雑になる。つまり、「金利のある世界」という言葉は、金融の世界を超えて、人々の行動にも影響を及ぼしうる社会的変化、というニュアンスをはらむ。これは大きな変革であり、資産運用においても影響を見極め、対応を進める必要がある。本稿では、本邦投資家の視点に立ち、円金利の上昇が債券投資に及ぼす影響に絞って論点を整理したい。

円金利復活で、投資の選択肢は増えたか?

元本確保意識の高い日本では、プラスの円金利(円建て債券)は有力な運用手段だ。イールドカーブ・コントロール政策下は厳密に管理されていた金利は、より実体経済を反映した水準となり、割安に円金利を購入する機会も増えていくだろう。 しかしながら、純粋に投資の観点に立つと、円金利の水準は十分に上昇したと言えるだろうか?図表1は、2026年6月末時点での各国の実質金利を示している。実質金利とは、物価上昇の目減り分を考慮した金利を指し、金利が十分に物価上昇を上回るリターンを産み出せるか否かの目安だ。ここでは金利から消費者物価指数(前年比上昇率)を差し引いて計算しているが、完全に無リスクの政策金利と、個人でも現実的な運用期間である5年金利の2通りを算出した(全て、市場が織り込む一年後の水準を使用)。図表1が示すとおり、この実質金利からは、まだ円金利は物価上昇率に対しては目減りする水準でしかないというのが現時点での評価だ。

円金利復活のメリットを先んじて享受する者

一方で、すでに円金利は十分魅力的と判断する投資主体もある。それは海外投資家だ。図表2のとおり、主要国の金利を円ヘッジ後ベースで比較すると、円金利の国際競争力はいまや明白だ。為替リスクを取り除くと、円金利は既に十分高いという評価になる。

円ヘッジ後の金利水準のみならず、長短金利差についても日本は他国を凌いでいる。すなわち、日本円のイールドカーブはロールダウンに富むという魅力があるのだ。背景には、日本特有の事情があり、長年にわたり利上げがなかったため短期金利上昇が手探りのペースになることと、高水準の政府債務が長期金利を押し上げる力学だ。円金利を投資対象として捉えた時の、、構造的な優位点といえよう。

日本人にとっては、自国のインフレリスクに対し円金利の水準はまだ不足との指摘をした。しかし、日本の物価動向とは無関係な海外投資家の目には、円金利復活は頼もしく映ることだろう。

円金利復活で、外債投資の魅力は色褪せたか?

過去、円金利がマイナスやゼロで動かなかった時代でも、国内外の金利環境の格差により、本邦投資家の外債投資ニーズは時に増減していた。恐れずに単純化すれば、為替ヘッジコストとクレジットスプレッドが重要な評価基準だ。

為替ヘッジコストは、内外短期金利差と需給環境で決まるが、長い目で見れば前者の要素が重要だ。円金利上昇の終着点はまだ見えていないものの、インフレが常態化する不安定なグローバル情勢を踏まえれば、日本がゼロ金利へ再び後戻りする蓋然性はかなり減っている。為替ヘッジコストが本邦投資家の極端な負担となるリスクは以前より穏やかになり、収益源としての外債投資は以前同様に投資家の重要なツールであり続けると考える。

高金利国からも外債に資産配分する理由

クレジットについては、従前から本邦投資家が外債投資を組み入れる1つの理由であった。円債市場における非国債の時価総額は全体の15%程度に過ぎず、先進国市場としてはかなり低い。その一方で、政府債務の高まりがリスク視される中で、投資対象の質的な分散は重要性を増した可能性がある。

ここで参考になるのは、海外の機関投資家だ。自国通貨で金利がある中でも、アセットの一部は非自国通貨建ての債券に振り向けられるケースが多い。その理由の1つが、自国通貨のぜい弱性回避だ。

2025年あたりからの『Sell America(米国離れ)』がイメージしやすいが、自国通貨債券への海外からの投資意欲が弱まると、通貨安と債券安(金利上昇)が連動して発生しやすい。こういった事態に対し、投資対象に外国政府など海外発行体を保有すれば信用力の保全に繋がり、為替オープンの投資があれば自国通貨安から収益を得て、リスク分散を図ることが可能だ。

ここ10年ほどで日本円のフローは以前の円買い圧力を失っており、政府債務も依然として世界有数の高水準であるため、金利の構成を国際分散させるメリットは、円金利水準にかかわらず高いといえる。

他方、直近の動きとして、AI設備投資関連の資金調達が急激に国際化しており、高格付のハイパースケーラーが魅力的なスプレッドで円建て外債を発行する動きがある。これらは、円金利ながら外債クレジットのリスク属性を持ち、魅力的な投資対象とみている。

投資における『フリー・ランチ』(コストなしでメリットだけを得る)

投資の世界では、リスクとリターンはトレードオフと言われる(いわく、リターンを得るには、相応のリスクを取る必要がある)。しかし、もしもフリー・ランチがあるとしたら、それは分散によるリスク低減だ。円債に興味を寄せる海外投資家が増加していることで、本邦投資家にとっても円債の価値は高まっているはずだが、その最も直接的なメリットは分散効果だ。 図表3は、債券指数のボラティリティの推移だ。グローバル総合指数(除く日本・円ヘッジ)で示す外債のボラティリティは、2025年以降は低下に転じている。しかし、円金利は「金利のある世界」への船出の道中にあり、債券市場のボラティリティは上昇を続け、落ち着きを見せていない。この異なる動態を見せる両者を組み合わせることで分散効果を高めることができる(グローバル債券の値動きは、「日本を含む」方が「除く日本」よりも低い水準となっている)。

冒頭で案内したように、円債の為替ヘッジ後の利回りは他の先進国に対して高い。つまり、多くの本邦機関投資家が「外債枠」のベンチマークとして参考にするグローバル債券指数(除く日本)は、円債を活用することでリスクを低減し、利回りを向上させることが可能だ。

円金利の上昇の背景にインフレが潜む以上、必ずしも円金利の上昇が収益の嵩上げを示すものでは無い。しかしながら、複数の経路を通じて、円金利の上昇はグローバルな目線をもった投資家の投資ユニバースの幅を確実に広げている。

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