概要
  • 米国長期金利の上昇はインフレ期待の不安定化ではなく、AI主導の設備投資拡大と生産性向上への期待を背景とした成長見通しの改善が主因の一つ。
  • 米国の政府債務拡大と財政赤字の高止まりにより国債発行が増加し、利払い負担も拡大していることが長期的な金利上昇圧力となっている。
  • FRBや財務省の政策運営に対する不透明感が市場のボラティリティを高め、ターム・プレミアム上昇を通じて国債利回りを押し上げている。
  • AI関連企業による大規模な社債発行増加が投資資金の競争を強め、米国債が投資家を引き付けるためにより高い利回りを必要とする状況を生んでいる。

米国国債利回りを押し上げている主要な要因は、近いうちに緩和される可能性は低い。

米連邦準備制度理事会(FRB)は9月の会合で政策金利を25ベーシスポイント引き上げた。これにより債券市場には一定の安心感がもたらされた。しかし、長期債利回りはここ数カ月で大幅に上昇しており、政策当局者や投資家の注目を集めている。米国国債利回りの上昇を招いている要因の中には、市場の懸念が行き過ぎているものもある。一方で、長期間続く可能性が高い要因も存在する。投資家は、今後数カ月にわたり長期金利が高止まりすることも視野に入れておくべきである。

FRBによる利上げに対し長期金利が低下で反応したのは一見すると不思議に思えるかもしれない。しかし、このケースでは理にかなっているとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考えている。今回の利上げは、それによって中央銀行の信認が強化されるためである。市場がFRBのインフレ抑制能力やその意思に疑念を抱けば、長期金利は上昇するはずである。今回の利上げは、FRBがインフレとの戦いに断固として取り組む姿勢を改めて示すもので、それにより、債券市場への圧力要因の一つは軽減された。この信認の向上は、経済や政策の観点からも好ましいニュースである。インフレ期待が安定していることは、物価上昇圧力の加速に対する懸念が後退していることを示唆している。

インフレ期待やFRBへの信認が米国国債利回り上昇の主因ではないとすれば(図表1)、何が背景にあるのだろうか。利回り変動の説明は常に複雑である。多くの要因が絡み合っており、それぞれの寄与度を正確に測定することは不可能である。しかし、ABは主なドライバーとして4つの要因があると考えている。

要因① 米国の経済成長期待の高まり

明るい材料として、長期金利の上昇は経済成長期待の高まりを反映しているとみられる。人工知能(AI)を巡る設備投資ブームが足元の成長を押し上げており、将来的な生産性向上への期待は、より高い成長軌道を示唆している。これは、金利も趨勢としてこれまでよりも高い水準で推移することを意味する。AIが長期的な成長を押し上げるかどうかを断定するには時期尚早である。しかし、ABは、市場と同様にAIが長期成長を後押しするとおおむね楽観視している。もっとも、その効果が十分に表れるまでには時間を要する可能性がある。

要因② 米国の債務拡大と利払い負担の増加

好材料ばかりではない。米国の連邦政府総債務残高は最近40兆米ドルを突破し、国内総生産(GDP)の120%を超える水準に達している(図表2)。債務負担が不安定化する明確な転換点が存在するわけではないが、この数字は依然として非常に大きい。さらに重要なのは、その推移である。財政赤字は依然としてパンデミック前の水準を大幅に上回っており、改善の兆しはほとんど見られない。高水準で恒常化した財政赤字を賄うためには、より多くの国債発行が必要となる。

米国連邦政府の債務負担は大きい

長期金利の上昇は米国の債務問題を悪化させる。新たな国債発行コストが高まり、利払いのためだけにより多くの資金が必要となるためである。米国政府の利払い費はGDP比でも連邦政府予算比でも急速に増加している(図表3)。あしもと、増税や、社会保障関連給付の削減が実現する可能性も低そうだ。そのため、財政赤字、政府債務、そして債務返済コストは今後も高水準で推移する可能性が高い。直ちに債務危機が迫っているわけではないが、国債発行額の増加は債券価格の下落要因となる。債券市場では価格の下落は利回りの上昇を意味するため、債務増加はさらなる金利上昇圧力につながる可能性がある。

米国政府債務の利払い負担は増大している

要因③ 政策運営の不透明性

金利上昇を示唆するもう一つの要因は、政策の不透明性による市場の変動である。FRBの信認の問題はさておき、ケビン・ウォーシュFRB議長のコミュニケーション戦略は、これまでの慣行から大きく逸脱している。通常、FRBは経済見通しや、それに対して金融政策をどのように運営するかについて市場に示唆を与えてきたが、ウォーシュ議長はそのいずれにも慎重だ。同氏は、FRBのガイダンスによる影響を受けていない資産価格からのシグナルを得ることの方が重要だと考えている。

ABは、FRBが金利の将来経路について明確な約束を行うべきだとは必ずしも考えていない。しかし、市場に対しては少なくとも政策の反応関数を説明すべきだと考えている。つまり、どのような経済環境や条件が金融政策の判断材料となるのかを示すべきである。しかし、ウォーシュ議長はそれさえも明らかにしておらず、その結果、債券市場の変動性が高まっている。市場がこの疑問に対するより明確な説明を得られない限り、高いボラティリティは続く可能性が高い。それは、投資家が債券保有に対して求める追加的な補償である「ターム・プレミアム」が高止まりすることを意味し、結果として債券利回りも高い水準にとどまることになる。

財務省もまた、金利上昇に伴い市場への関与を強めることで、政策の不透明性を高めている。財務省は日本の通貨防衛を支援するため、円を買いドルを売る為替介入を実施した。さらに、財務省はこれまで掲げてきた「定期的かつ予見可能な」国債発行・買入れ方針から逸脱し、長期国債の買戻し予定額を3倍に増やした。こうした国債買入れの増加は一時的に利回りを押し下げたものの、ABでは、今後より頻繁な市場介入が行われれば、むしろ利回りを押し上げる可能性が高いと考えている。国債買入れが不規則で予測しにくいのであれば、逆に国債消化へのサポートが減少する可能性も織り込むためだ。このことは、米国国債利回りにおいてより高いリスク・プレミアムが求められることを示唆している。

要因④ AI関連企業の債券発行増加

AI関連企業は、社債発行を大幅に増加させている。特に、巨大なデータセンターネットワークを保有する大手クラウドサービス企業、いわゆる「ハイパースケーラー」においてその動きが顕著である。こうした大規模かつ急速な社債発行は、米国国債利回り上昇の一因となっている可能性が高い。AI関連企業による社債発行の急増により、投資家側から見れば米国債以外の選択肢が広がり市場の競争が強まった。その結果、米国国債が引き続き投資先として魅力を維持するためには、本来よりも高い利回りを提供する必要がある。

金利は当面高止まりし、財政問題は深刻化へ

上記の要因の多くは、今後もしばらく続くとみられる。そのため、ABでは利回りが過去数年間と比較して高い水準で推移すると予想している。もちろん、これは急ピッチの金利上昇を必ずしも意味するものではないが、近い将来に大きな政策転換がない限り、以前の低い金利水準まで低下する可能性は下がったとみている。

一般的に、金利上昇は経済成長を鈍化させる。しかし、ABは米国経済が今後数四半期にわたり高金利環境に十分耐えられるだけの強さを持っているとみている。特にAI関連の設備投資は、資本調達コスト上昇の影響を受けにくいと考えられ、今後も経済活動を支える要因となる可能性が高い。

リスク要因としては財政政策が最も危ういとみている。資金調達コストの上昇は、時間の経過とともに連邦政府予算をますます圧迫する見込みである。また、米国中間選挙を経ても、ワシントンが本格的な財政規律強化に動くと考える理由はほとんどない。米国は今後も財政問題への対応を先送りし続けることは可能だろう。しかし、その先送りのコストはますます大きくなっていくと考えられる。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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