【ESGに関する取り組み】

役員報酬はインセンティブを高める強力な要因であり、投資家は、それが事業上の目標と完全に一致しているかどうか確認する必要がある。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では、意義のある環境・社会・ガバナンス(ESG)目標を役員報酬制度に組み入れている企業は事業にとって重要なESG要因をよく理解しているほか、具体的な主要パフォーマンス指標(KPI)を活用しており、それらを達成する可能性が高いと考えている。

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役員報酬に対する投資家の目は厳しさを増している。報酬と成果を合致させる適切な方法を見つけ出すのは複雑な作業である。しかし、ESG目標を報酬のインセンティブに組み入れている企業は、ステークホルダーとの約束を責任ある形で果たすことができる可能性が高い。

役員報酬はインセンティブを高める強力な要因だが、投資家は、それがビジネスの目標と完全に一致しているかどうか確認する必要がある。今日、ESG要因は企業が直面するリスクや機会を適切に評価する上で不可欠なものとして広く認識されている。そのため、ABは、投資リサーチのプロセスと役員報酬の評価基準の双方にESGを組み込むことが不可欠だと考えている。それを通じ、リスク、機会、目標設定に関する全体像を適切な視点で把握することができる。ABは、意義のあるESG目標を役員報酬制度に組み入れている企業はビジネスにとって重要なESG要因をしっかり理解しているほか、具体的なKPIを活用しており、それらを達成する可能性も高いと考えている。

効果的な報酬制度には適切な目標が必要

役員報酬の総額はここ数年で急激に増加しており、特に米国では1965年以降、最高経営責任者(CEO)と一般労働者の所得比率が20倍以上拡大した(図表)*。報酬プロセスにおけるいくつかの問題点を指摘する声もある。その例としては、報酬委員会が報酬の引き上げのみを目的に行う競合他社比での評価、一貫性のない/自分に都合のいい財務指標の使用、定義が曖昧な戦略目標や個人目標といった非財務指標の組み入れ、などが挙げられる。これらの非財務指標は、投資家が評価しにくいスコアカードに一体化されるケースも多い。

米国企業のCEOの所得は一般従業員をどれほど上回っているか?.png

CEOと労働者の所得比率は米証券取引委員会(SEC)から開示が義務付けられているが、いくつかの弱点がある。注目すべき点は、労働者の中間賃金と企業規模が、セクターによって大きく異なることである。例えば、一般消費財セクターには、物流部門に携わる多くの低賃金スタッフを抱える巨大企業であるアマゾンが含まれている。さらに、企業はCEOの給与水準と比較する中間賃金の従業員を柔軟に選ぶことができる。役員報酬コンサルティング会社のパール・マイヤーによると、「SECは、その方法が『合理的』で、委任状に明示されている限り、統計的サンプリングや合理的な推定値を使用したり、容易に特定できる具体的な報酬(例えば、額面給与や手取り額)を選択したりすることを企業に認めている」。こうした違いは、意味のある比較を難しくしている。

いくつかの要因が役員報酬の長期的な上昇サイクルを引っ張っていることは間違いない。今日の投資家にとって重要なことは、役員報酬が適切な目標に連動していることを確認することである。

明確な目標が優れたパフォーマンスの原動力に

指標に基づく役員報酬が望ましいと考える理由は単純である。それは、報酬は企業の長期的な価値向上につながるような成果に連動させるべきだという考え方だ。しかし、それを効果的なものにするには、報酬制度には企業の戦略的方向性に合致した具体的なKPIに裏打ちされた明確な目標が必要となる。

ラッセル3000指数を構成する企業の2020年の1株当たり利益(EPS)についてABが検証した結果、明確な目標の重要性が浮き彫りになった。この分析では、2020年の実際のEPSと、役員報酬制度に組み入れられたEPSの絶対目標を比較した。その結果、株価パフォーマンス上位1%の企業では、実際のEPSと目標に大きな違いがないことが判明した(かい離は平均で約5%)。推測するに、アウトパフォームする企業は戦略的方向性についてより明確な考え方を持っており、それがKPIに反映されていると思われる。逆に、株価パフォーマンス下位1%の企業は、実際のEPSと目標に大きなかい離が見られた(かい離は平均で200%以上で、大半の企業で2020年のEPSが目標を大幅に下回っていた)。

同様に、ABは全社的なエンゲージメント・キャンペーンを通じ、自社の事業にとって重要なESG要因を明確に理解している企業は具体的で意味のある役員報酬目標を設定しており、それは、その企業が次の段階に進む上で大きな効果を発揮していることを把握した。例えば、ABがエンゲージメントを行った企業のいくつかは従業員の定着とダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を組み合わせた数値目標を設定している。単に多くのマイノリティ人材を雇用しようとする一時的な努力ではなく、真に多様性に富むインクルーシブな労働力を創出及び維持しようとする企業の意欲を示すものである。同じように、電力会社のアメリカン・エレクトリック・パワー・カンパニーは、総発電量に占める非温室効果ガス(GHG)排出量の比率を今後3年間の各年度ごとに引き上げることを役員報酬の目標に設定している。こうした非常に具体的なアプローチは、実行すべき行動計画を具体的に示さずに複数年または期限を定めない目標を設定している同業他社とは対照的である。

ESGに関するKPIは、企業の長期的価値を高めるという本来の目的から逸脱しているという懐疑的な見方もある。しかし、そうした考えにはABは同意できない。企業の長期的な将来に対するESG要因の重要性を正しく理解すれば、役員報酬目標の明確性と有効性を改善することができる。ABの見方では、役員報酬を分かりにくくしているのはESGではない。ラッセル3000指数構成企業を対象としたABの分析によると、下位1%の企業は調査対象期間の8割もの間、事前に設定した利益目標や他の財務指標を達成できなかったばかりでなく、戦略目標や業務目標といったESGとは必ずしも関係のない非財務的な指標を用いて、年間の役員賞与を押し上げる方策を見つけ出している。

効果的な報酬プログラムを構成する4つの要因

AB独自のデータ分析とエンゲージメント活動に基づくと、効果的な役員報酬プログラムには4つの重要な要因があると考えられる。

  1. 正確なインセンティブ指標:企業の戦略的重点や方向性が反映されているもの
  2. 役員の真剣な努力:基本となるKPIは、高い報酬の見返りとして役員の並々ならぬ努力を必要とする、十分に強力かつ能力を試すようなものでなければならない。
  3. 「棚ぼた式」報酬の防止:または他の過剰報酬支払いを防ぐ手段。それには、うたわれた成功が幻想であることが判明した場合の包括的な報酬返還条項や、会社の所有権が移転した場合の支払い制限などが含まれる。
  4. 明確なベンチマーク:役員報酬を適切な比較対象に対して決定する明確な手法が必要である。報酬委員会が直近の高い報償だけをベンチマークとして報酬の引き上げだけを目指すことのないようにすべきである。

役員報酬に上限を設定する

賃金の公平性は厄介な問題である。現実的には、投資家が役員報酬を制限するメカニズムはほとんどない。例えば、米国では「say on pay」と呼ばれる、株主が役員報酬について投票できる制度があるが、企業が経営陣に支払うことのできる絶対的な金額は規制されていない。SECがCEOと従業員の給与比率について報告を求めているのは極端に高い役員報酬を明らかにすることが目的だが、それを直接コントロールすることはできない。

だからこそ、投資家にとっては、コストや人材管理の観点から報酬の効率性を評価し、明確で具体的な目標に基づく成果報酬の必要性を主張することが非常に重要となる。役員報酬プログラムに影響を及ぼすことは、投資家が企業に対しプレッシャーをかけるために使用できる数少ない手段の1つである。投資家は事業が効果的かつ責任ある形で、長期的な視点で管理されていることを確認するため、その力を行使しなくてはならない。長期的な成功は本来、株主、従業員、顧客などさまざまなステークホルダーの利益を総括するものである。一部のステークホルダーを無視すれば、結果的にその企業の存続そのものが脅かされることになる。

ESGを役員報酬制度に組み入れる

ニューヨーク大学スターン・センター・フォー・サステナブル・ビジネス(以下、「スターン」)が最近実施したリサーチは、ESGの目標やKPIを役員報酬体系に組み込むことの重要性に関するABの見解を裏付けている。

スターンの2020年メタ研究(2015年から2020年までに発表された1,000以上の研究を集約したもの)では、財務的なパフォーマンスと、投資戦略におけるアクティブなESGインテグレーション(単なるネガティブスクリーニングではなく)の間に、正の相関関係があることが判明した。それによると、株主資本利益率、総資産利益率、株価収益率などの指標に焦点を当てた基本的な企業リサーチの58%で正の相関関係が見られた一方、それらの影響が中立的だったのは13%、まちまちだったのは21%(同じ調査でプラス、中立、マイナスといったさまざまな結果が出た)、負の相関関係が見られたのはわずか8%だった。

役員報酬プログラムにESG関連指標を取り入れている企業を対象としたAB独自のスクリーニングは、スターンの調査結果を裏付けている。ABはESG関連指標を具体的かつ戦略的な方法で報酬プログラムに組み込んでいる企業を把握するため、米国と英国の広範なセクターに属するさまざまな時価総額の企業を調査した。そして、そうした企業を曖昧なESG関連KPIを採用している企業と比較した。その結果、具体的で実行可能なESG目標を設定している企業は、曖昧なESG関連KPIを設定している企業に比べ、CEO、CFO及びそれ以外の報酬上位3人の経営幹部に支払う合計額が総売上高対比で低いことが判明した(それぞれ0.31%、0.40%)。それは、ESGをより意識している企業の方が、規律ある経費管理を行っていることを明確に示すものである。

優れた実例がベストプラクティスを生み出す

ABの全社的なエンゲージメント・キャンペーンは、ESG目標の設定に関する優れた実例を生み出している。

ゲレシェイマー:ABは2020年に全社的なエンゲージメント・キャンペーンの一環として、役員報酬プログラムにESG指標を組み入れようとする同社の計画について対話を始めた。2021年のフォローアップ会合では、同社はE、S、Gのそれぞれについて明確な行動計画と目標を定めた1つの指標を設け、ESGを短期的なインセンティブの修正要因として組み入れる計画を明らかにした。ABは引き続き同社との対話を通じ、ESG指標の厳密性や、役員報酬全体への影響について評価していきたいと考えている。

ダナハー・コーポレーション:ABは同社の経営陣に、現在のGHG排出量削減目標をどのように達成する計画なのか質問した。彼らはすでに、特にエネルギーと廃棄物の最小化の度合いを測定するため社内のダナハー・ビジネス・システム(DBS)アナリティクスを活用するという計画の大枠を策定していた。ABはDBSアナリティクスを利用したGHG排出量削減に関する長期目標について、ESGインテグレーションに向けたより戦略的なアプローチを促すため、年間ボーナスプランにおける定性的目標の一部として重要な測定基準の1つになると提案した。

XPOロジスティクス:同社は2020年のエンゲージメントにおけるABからのフィードバックを受けて、ESGの評価基準を非常に具体的なスコアカードを用いたアプローチにアップグレードした。この評価基準は長期的なインセンティブの25%を占めており、そのうち80%は定量的指標で構成されている。残り20%の非定量的指標については、「認定されるには、事前に定められたハードルまたは2つのマイルストーンを達成する必要がある 」と定められている。

ESGのインセンティブ指標は進化し続ける

役員報酬をESG目標と合致させる作業は、今まさに進められている。資産運用業界を含めて、一部の業界は遅れをとっている。しかし、適切な目標を設定し、さまざまな業界のベストプラクティスを学ぶことから始めれば、迅速かつ効果的に追いつくことができる。ABはすでに役員報酬プログラムにD&I関連の目標を組み入れており、重要なESG分野に関する独自のガバナンスを進めながら計画を進化させている。他の多くの企業も後に続いてくれると確信している。

*出所:経済政策研究所、ローレンス・ミシェル、ジュリア・ウルフ(2019年8月14日)

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