2022年の株式市場では、インフレが常に重要なトピックとなってきた。しかし、インフレはいずれピークに達するだろう。景気悪化による在庫の急増は 価格を押し下げる可能性が高いからだ。そして、そうなれば企業の利益や株価バリュエーションにも影響が及ぶであろう。
 
この2年間、消費者は値上がりしていない商品を見つけ出すのに苦慮してきたが、今や風向きが変わりつつある。世界中で在庫が積み上がり始めており、その処分に苦しむ企業は値下げを余儀なくされるだろう。このようにインフレ圧力が後退してくると、この1年ほど株式市場で株価バリュエーションを圧迫してきた要因が剥落する一方で、売上高を維持するために利益率を犠牲にせざるを得ない企業も出てくる。いち早くインフレがピークを打つセクターでは、こうした動きが投資に与える影響について考える時期が来ている。
 

自動車市場は正常化へ

その好例となるのが米国自動車業界である。自動車を購入する消費者は、販売店で価格を交渉し、メーカー希望小売価格から値引きをしてもらうのが長年の通例だが、コロナ禍前の平均的な値引き率は約5%であった(図表1)。しかし、ここ数年は半導体不足、コロナ禍による工場閉鎖、ウクライナ紛争などが相まって、広範なサプライチェーンの分断が生じ、自動車生産は世界的に大きく制約を受けた。
 

 
自動車販売価格はきわめて割高な水準に.png
 
ディーラー各社は儲かり過ぎて笑いが止まらなかっただろう。交渉を優位に進めることができるため、2021年の平均販売価格は、メーカー希望小売価格の102%であった。つまり、ディーラーは、在庫不足や市場調整を理由に、定価を上回る値段で販売できていたのだ。言い換えれば、消費者は全く同じ自動車に通常価格の7%増しの代金を支払っていたことになる。ディーラーが大きな利益を享受している一方で、この傾向はインフレに拍車をかけてきた。
 
では、供給不足が解消すればどうなるのだろうか?最も起こり得ることは、販売価格がメーカー希望小売価格以下に戻り、ディーラーの利益率が低下するというシナリオである。自動車業界は、市況がどのようにデフレに向かい、一部企業の利益を低下させ得るかを示す最たる例である。

 

在庫急増は価格下落の兆候

自動車業界では在庫不足が続いているにもかかわらず、価格下落圧力がすでに表面化し始めている。自動車以外の業界でも、在庫水準に関する各種指標からデフレの引き金となり得る動向が指摘されている。2021年は、サプライチェーン問題を背景に卸売業界・小売業界共に在庫が大幅に減少した(図表2)。
 
在庫積み上がりを受け、商品価格は下落に.png
 
 
しかし現在では、園芸用品から家電製品に至るまで、さまざまな分野において在庫はコロナ禍前を大きく上回る水準に回復している。そしてこの事実は、消費者の支出動向に急速な変化をもたらしている。
 
この2年間、消費者は自宅にこもらざるを得なかったため、さまざまな買い物にいそしんでいた。しかし現在、消費は2つの方向に分かれている。食料品、ガソリン、家賃、光熱費等の必需品で一定のインフレが継続しているのに加え、旅行・レジャーなどの体験型消費の価格もまた値上がりを続けている。主としてこの両端で支出が増加している一方、その中間に位置する一般消費財に対する需要は激減し、在庫が膨らんでいる。

 

株式市場に対する影響は?

在庫と需要のこのような傾向は、一般消費財の価格上昇が2023年にかけて大幅に減速することを示唆している。インフレには財よりもサービスの方が大きく影響するため、インフレ全体に関する確実な予想を行うことは困難であるものの、インフレは確実に鈍化している。インフレ率が低下すれば米連邦準備理事会(FRB)は利上げのペースを緩和させることが可能となるため、このところ株価バリュエーションを下落させてきた圧力は軽減されるであろう。
 
これは株式にとっては朗報である。しかし、企業の収益力は個別企業ごとに大きくかい離する可能性がある。
 
例えば、米国の小売業界を見てみよう。小売業者の多くはこの2年間、大半の商品を定価で販売してきた。その結果、利益は過去の水準を上回り、売上高も増加した。今後、売上が減速し、値引きによって利益率が低下した場合、業績の下方修正が広範囲で起こるだろう。
 
このシナリオは悲惨に聞こえるが、それでも勝者は常に存在する。例えばディスカウント・ストアは、こうした状況から恩恵を受けることになるだろう。従来型の小売業者が余剰商品を処分しなければならない時、ディスカウント・ストアは最も有利な取引ができ、高い利益率を得ることができるからだ。米国小売業界のレジェンドであるミッキー・ドレクスラー氏は最近、「覚えていないだけかもしれないが、これほど多くの商品がこれほど大きく値引きされているのを見たことがない」と述べ、現在の環境を端的に言い表した。
 
こうした状況下では、株式市場の投資家は厳選投資の姿勢を強めて行く必要がある。持続的な成長トレンドの恩恵を受け、質の高い経営陣を擁し、強力な価格決定力持ち、利益率が安定的ないし改善傾向にある企業は、経済活動がコロナ禍前の水準まで回復する中でさらに成長できる。一方、コロナ禍による一過性の追い風から恩恵を得受けていた企業に対しては、注意する必要がある。そうした恩恵はいずれ予期しない形で幕を閉じる可能性があるためだ。
 
2022年4-6月期の決算や下半期の業績予想を見ると、ウォーレン・バフェット氏の名言が頭に浮かぶ。「潮が引いてしまうと、誰が裸で泳いでいたかが分かる」というものだ。投資家にとって今は、インフレが引き潮に入った時にあわてなくて良いよう、ポートフォリオを見直すべき時であろう。
  

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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