英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)を巡る話題が欧州メディアを賑わす中、株式投資家にとっては厳しい市場環境が続いている。打たれ強いポートフォリオを構築するには、欧州企業の長期的な見通しに関する明確な見解が必要であると同時に、目の前にある大きな政治的不透明性も考慮する必要がある。
政治リスクは、長年にわたり欧州市場には付きものだった(以前の記事『Does Political Risk Matter for European Stocks?』(英語)ご参照)。最近はイタリアの財政赤字を巡る対立からフランスの暴動に至るまで、政治的なノイズが一段と高まっている。だが、株式投資家にとっては、おそらくブレグジットを巡る混乱が政治面で最大の頭痛の種となっている。
では、政治リスクが短期的な見通しを曇らせている中で、投資家はどうすれば欧州株式に対する長期的な信頼感を高めることができるだろうか? そのカギを握るのは、さまざまな政治的な出来事がそれぞれ個別企業の収益にどのような影響を与える可能性があるかを理解し、それぞれのシナリオに対して過度のエクスポージャーを取ってしまうことを避けるためにその分析を用いることである。
ブレグジットに関する3つの主なリスク
ブレグジットは企業に3つの大きなリスクをもたらしている。その1つは貿易の混乱だ。合意なきブレグジットが起きた場合、英国の国境を越えて部品や最終製品を移動させなくてはならない企業は、一時的にせよ、混乱による深刻な影響を被りかねない。
為替リスクも大きな懸念材料だ。英国に拠点を構える多くの企業はグローバルな事業を展開しており、英国経済へのエクスポージャーは比較的小さい(図表)。その結果、2016年の国民投票でブレグジットが決まった直後のように、英ポンドが急落すれば利益が押し上げられるほか、ブレグジットを巡る懸念が高まれば株価にとっても追い風となり得る。しかし、最近はこの関係性に変化が生じており、合意なきブレグジットやブレグジットに伴う混乱のリスクが高まると、英ポンド相場や英国の大型グローバル企業の株が売り込まれるようになった。
3つ目のリスクは英国の経済成長に関するものだ。最悪のシナリオでは、合意なきブレグジットが回避できず、英経済が景気後退に陥る恐れがあると多くの専門家が指摘している。たとえ最終的な結果がより穏やかなものとなったとしても、持続的な不透明感を背景に投資が先送りされたり、消費者心理が落ち込んだりする可能性がある。主に英国で事業を展開する銀行や消費関連企業は、こうしたリスクに最もさらされやすい。
銘柄選択において考慮するポイント
ABでは、英国や欧州全体の株式についてリサーチする際、まず特定のリスクに企業がさらされていないかどうか確認している。そして、それらのリスクが将来のキャッシュフローに影響しないか、影響するとすれば、それがどれだけ株価に織り込まれているかを評価している。
ブレグジットの影響を最も大きく受ける可能性のある企業の一部は、そもそも英国株式市場には上場していないかもしれない。例えば、フランスのプジョー(グループPSA)は英国で車を生産しているほか、欧州の主な競合相手と比べ英国における販売も多い。そのため、ポートフォリオ・レベルでリスクを分析する際には、ブレグジットが英国以外の企業に与える影響についても考慮することが重要である。ブレグジットに対するポートフォリオのエクスポージャーを判断する上では、英国株のウェイトだけに目を奪われてはならない。
ブレグジット後の反発はどうなる?
ブレグジットのリスクには両面がある。投資家は、ブレグジットに関する好ましい合意が成立した場合に何が起きるかについても考えなくてはならない。場合によっては、英国は最終的にEUから離脱しないかもしれない。そうなれば、ブレグジット懸念で割安な価格になった英国株が反騰する可能性があるほか、最近のリスク回避傾向が逆風となってきた欧州の景気敏感銘柄も恩恵を受けそうだ。欧州株の投資家は、ブレグジットの悪影響を受けそうな銘柄に対する過剰なエクスポージャーを避けると同時に、ブレグジットの行方次第では株価が上昇する可能性のある銘柄へのエクスポージャーを引き下げ過ぎないように留意しなくてはならない。
実際、ブレグジットのリスクにさらされている企業の中にも、魅力的なリターンを得られる可能性があるケースは多い。例えば、ジョンソン・マッセイを見てみよう。自動車の排ガス基準が強化されるのに伴い、同社の自動車触媒原材料に対する需要が拡大しつつある。食品・衣料・家庭用品小売りのマークス・アンド・スペンサーでは、新経営陣が業績回復に必要な手段を講じている。英国以外の企業でも、プジョーは既存の部門と2018年にゼネラル・モーターズから事実上無償で買収した部門の双方でコスト削減を続けている。
欧州の課題:ポピュリズム、抗議デモ、欧州議会選挙
もちろん、ブレグジットは今日の欧州市場にのしかかっている政治リスクの1つに過ぎない。フランスの路上デモや、ハンガリーやポーランドをはじめとする一部の国の政府など、欧州で再び広がっているポピュリズムの波がEUの価値基準を試練にさらしている。今年5月の欧州議会選挙が近づくのに伴い、反エスタブリッシュメント政党がさらに躍進すれば、EUの組織としての安定が損なわれかねないとの懸念が投資家の間で広がる可能性がある。
ABでは、そうした懸念は行き過ぎであると考えている。イタリア政府が最近、先のギリシャの例に続いてユーロ圏の財政ルールに従う姿勢を示したことは、野党のポピュリスト的な主張が政府側の現実主義に屈するケースが多いことを物語っている。ユーロ圏内にとどまろうとする政治的意思は引き続き市民の強い支持を得ていることを世論調査は示している。
それでも、投資家は、これまでに述べた例ほどには騒ぎにはなっていないものの、企業業績に重大な影響を与えかねない政治リスクにも留意する必要がある。例えばスペインでは、中道左派の連立政権が最近実施した税制変更で一部の銀行が影響を受けたほか、カタルーニャの分離独立を求める動きにより2019年の予算案成立に向けた取り組みが複雑なものとなる可能性がある。
政治リスクは欧州株を一律に避けるべき理由とはならない。今日の欧州市場では、ファンダメンタル分析に基づくボトムアップ方式の銘柄選択を行う投資家にとって、多くの投資機会が生じている。しかし、現在のような緊張に満ちた市場環境においては、全体像を把握し、投資に関する確信を強めるためには、慎重に政治リスクの分析を重ねることが不可欠である。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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