過去10年間、パッシブ運用による株式運用戦略には多額の資金が流入した。その一因はアクティブ運用の低迷である。しかし、詳細に分析すると、アクティブ運用に全く背を向けるのは、大きな機会コストを払うことになりかねないことがわかる。
まず、これまでの歴史的な経緯を見てみよう。
1980年代初め、ベビーブーマー世代は所得のピーク期に入り始めた。そして、株式市場では史上最大の強気相場が始まった。1981年から1999年にかけて、S&P 500指数のリターンは年率換算で平均17%以上に達した(図表1)。所得増加と資産の蓄積が投資家に勝利の方程式をもたらした。
しかし、ちょうどベビーブーマー世代の最年長グループが退職年齢に近づいた頃、彼らは2つの大きな危機に見舞われた。ITバブルの崩壊とリーマン・ショックである。2000年から2008年まで続いたこの苦難の時期、こうした世代の投資家は退職を間近にして資産が目減りすることになった。
その結果、ベビーブーマー世代の多くは投資に対して新たな考え方をするようになった。一般的な考え方の一つは「アクティブ運用は市場の下落局面で資産を守るのに役立たなかった」というものである。
この考え方は、運用成績が低迷するアクティブ運用をさまざまな観点から見直す動きにつながった。そして、投資家はパッシブ運用に大量の資金をシフトすることになった。
アクティブ運用が低迷した理由は?
アクティブ運用が全体として長期にわたりアンダーパフォームしてきたことは事実である。しかし、各戦略が成功したかどうかは、投資の期間、投資対象がどのような株式なのか、どの程度アクティブ・ポジションを取っていたのかといった要因次第で、大きな違いが生じる。
アクティブ運用が全体として低迷した背景には、2つの構造的な理由があると考えられる。
第1に、アクティブ運用の資産や運用会社のスタッフ数が1990年代に大幅に増加したことだ。超過収益を追求する投資家が増えるのに伴い、アクティブ運用マネジャーは価値を創出することが困難になったのだ。第2に、運用資産が大きく膨らんだアクティブ運用マネジャーの多くは、かつてほど大きなアクティブ・ポジションを取らなくなった。彼らはベンチマークに近いパフォーマンスを目指すようになった。おそらく、運用成績が短期的にでも目立ってベンチマークを下回れば、せっかく強気相場の中で順調に増え続けていた顧客が離れて行ってしまうことを恐れたためだと思われる。
アンダーパフォーマンスに関しては、その数字を分析する多くの方法がある。よく知られている学術的研究の一つ(注) は、1990年から2009年までの期間について、運用戦略のベンチマークに対するアクティブ・ウェイトの度合いを、そのベンチマークに対する相対パフォーマンスと比較したものだ。全体として見れば、アクティブ運用は年間0.4%程度アンダーパフォームした(手数料控除後ベース)。
しかし、詳細に分析すると、アクティブ度でみた上位20%の運用戦略はかなり良好なパフォーマンスを達成した。トラッキング・エラーが低いにもかかわらずアクティブ・ウェイトの高い「ダイバーシファイド・ストックピッカー(分散度の高いアクティブ運用)」とでも呼ぶべき戦略は、パフォーマンスがベンチマークに対し年率1.26%上回った。優れた手法で銘柄選択を行う運用こそが超過収益の可能性を最も高めるというのが結論だと言える。
市場環境も大きな格差を生む
市場環境も大きな役割を果たす。市場全体が力強く上昇する、いわゆる「ベータ主導」の潮流の中では、個別のアクティブ運用戦略がどのようにボートを漕ごうとさほど重要ではない。ボラティリティが低く、銘柄間のリターン格差も小さくなりがちだからだ。こうした局面では、アクティブ運用者が避けるような銘柄が上昇してしまうことがしばしばある。株式市場のリターンが10%以上にのぼる相場では、ベンチマークを上回ったアクティブ運用戦略はわずか3分の1程度に過ぎない(図表2)。実際、アクティブ運用にとって最もやっかいなのは、市場が上昇し、株価バリュエーションが均一に拡大している時である。
しかし、市場全体のリターンが10%を下回る場面では、アクティブ運用戦略の半分以上がベンチマークをアウトパフォームした。つまり、上げ潮がそれほどでもなかったり、潮が引いたりしている時には、各戦略の運用者がどのようにボートを漕ぐのかがより重要になるのだ。
振り子の揺れ ?
こうしたことは、投資家にとってなぜ重要なのだろうか?
- 今後の市場環境はアクティブ運用に好ましいものとなりそうだ。株価バリュエーションがすでに高水準にあるため、企業収益が大幅に増加しない限り市場のリターンは低下するとみられる。リターンが低下し、ボラティリティが高まれば、個別銘柄のリターン格差が広がると見られ、優れたアクティブ運用にとっては差別化の機会が生まれることになる
- 市場全体が下落して投資家がドローダウンを経験するリスクが足元では高まっている。こうした市場環境では、歴史的にアクティブ運用がアウトパフォームする傾向があり、下げ相場からポートフォリオを守るのに役立つ
- アクティブ運用の急拡大が構造的問題を引き起こしたように、パッシブ投資の急増も問題を生み出しつつある。巨額の資金やあまりに多くのパッシブ運用ファンドが数に限りある株式を追い求めているため、一部の銘柄では過度に買い進まれたことによるリスクが増大している
この議論は、アクティブ運用とパッシブ運用のどちらが優れているかを考えることが目的ではない。重要なのは、いつどのようにアクティブとパッシブを使い分ければ、市場全体のトレンドへのエクスポージャーと、アクティブ運用による超過収益機会へのエクスポージャーの間で最も効果的にバランスを取れるかということなのだ。
(注)Active Share and Fund Performance, Antti Petajisto, 2013年
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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