波乱の2022年が幕を閉じた現在、投資家は金融引き締めがもうすぐ終わり、株式市場のボラティリティも収まることを期待している。だが、企業業績はまだ移行期にあり、スムーズな回復を期待するのは難しい。こうした中、株式投資家がリスクを軽減するためにはどんなことができるだろうか?

2022年の株式市場のボラティリティは、主にインフレと金利をめぐる不透明感によって押し上げられた。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、利上げを停止する時期は明示していないが、今後は利上げペースが緩やかになることを示唆している。フェデラルファンド(FF)金利の到着点が見えてくれば、株式市場はエンジン全開で前進するかもしれない。しかし、その見方は正しいだろうか?

必ずしもそうとは限らない。

持続的なリスクが市場に打撃を与える可能性

2019年のパンデミック以前に市場の安定を支えていた要因は、その多くが消失しており、市場は依然として新しい現実に適応しようとしている。このことは必ずしも2023年も2022年のような乱高下が繰り返されることを意味するわけではないが、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では、持続的なインフレや金利上昇、テクノロジー・セクターの成熟化といった、引き続き市場のボラティリティを高める恐れのある要因への警戒を怠らないことが、良好な長期的パフォーマンスを獲得するためには重要だと考えている。

まず、インフレから見てみよう。

ガソリン価格の下落や消費者物価の伸び率鈍化など、インフレが減速しつつある兆しは現れているものの、インフレが過ぎ去ったと言うにはほど遠い。2022年12月の米消費者物価指数(CPI)は前年比で6.5%上昇し、市場予想どおりの伸びとなったが、インフレ懸念を払拭するほどではない。FRBが物価動向を判断する上で重視している個人消費支出(PCE)価格指数も、上昇は緩やかではあるものの継続していることを示している。ユーロ圏と英国でも、足元のCPIは依然として10%近い伸び率を示している。

たとえ2023年に引き締めサイクルが終着点に到達したとしても、世界各国の中央銀行が過去数十年で最も速いペースで利上げを進めていることには変わりない。米FRBは引き締めサイクルの第2段階にあり(以前の記事 『次のステージへ進む米国の利上げサイクル』ご参照) 、2023年も25ベーシス・ポイントの利上げを数回行う可能性が高い。インフレがいずれ鎮静化しても、高金利と成長鈍化という新たな現実に企業や市場が適応するには時間がかかりそうだ。投資家はこのプロセスが進む中、ボラティリティがさらに高まる可能性に備えておく必要がある。

成長の先駆者ではなくなったテクノロジー株 

2022年の市場下落局面では、テクノロジー株がボラティリティの震源地となった。テクノロジー株はそれまで数年にわたり好調であったが、投資家はもはやすべてのテクノロジー株が永遠に上昇するわけではないことを認識している(以前の記事 『Beyond the FAANGs: Technology Stocks and Downside Protection』(英語)ご参照) 。だがABでは、テクノロジー・セクター全体に対し悲観することもまた的外れだと考えている。

20年前のテクノロジー企業は、飛躍的な成長を遂げつつも成熟化や収益性といった面では問題を抱えていた。それが今や、ソフトウェア、半導体、決済サービスなどの分野では、市場が拡大すると同時に収益性も目に見えて向上している。

人気のテクノロジー銘柄など高成長企業はコロナ禍の中で株価が急伸したが、2022年の市場混乱時には投資家から背を向けられた。テクノロジー・セクターがアンダーパフォームした主因は、収益性の低い企業の評価が引き下げられたことだ。これに対し、2020年と2021年はともに、収益の裏付けがない成長志向のテクノロジー企業の多くで、株価バリュエーションが非常に高い水準に押し上げられていた。2022年に入り市場の関心が成長から収益性に転じたのに伴って、これらの銘柄は大きく売り込まれた。

収益性の高いテクノロジー企業はボラティリティも低い

だが、目立たないながらも、クオリティが高く収益力のあるテクノロジー企業の多くは、消費者と直接向き合っている有名巨大企業ほど大きなリスクには直面していない。見落とされがちなのは、例えば持続可能なビジネスモデルと潤沢な経常的収入源を持つ、地味なテクノロジー分野のイネーブラー企業や決済サービス会社などである。直感に反するかもしれないが、こうした特性を持つ一部のテクノロジー銘柄はディフェンシブな特性を備えており、市場のボラティリティ急謄によるポートフォリオへの影響を和らげることができる。

ソフトウェア業界は興味深いケーススタディとなる。急成長を遂げていたものの中期的に黒字化を達成する見通しが立たないソフトウェア企業の多くが、2021年には株価が信じがたいほどの高値に跳ね上がった。だが2022年に入り、市場がより収益力に注目するようになると、これらの銘柄は急激に反落した。一方、それまで注目されていなかった高クオリティで安定的な銘柄の多くは、ジェットコースターのような株価変動を免れることができた。全体的により変動率が低く、長期的な観点からより高い複利効果が得られるのは、こうした企業であるとABでは考えている。

こうした銘柄に加え、ヘルスケアや生活必需品といった伝統的なディフェンシブ・セクターも、概して景気悪化局面における業績面のリスクが相対的に少ない(図表1)。 

クオリティ、安定性、割安度が不透明な時期を乗り切るカギに

では、市場のボラティリティをうまく乗り切れそうな銘柄を見つけ出すにはどうすればいいのだろうか?ABでは、クオリティ(Q)・安定性(S)・株価の割安度(P)という3つのファクター(QSP)を重視した低ボラティリティ投資のアプローチを規律正しく運用することが、市場下落局面のリスクを軽減しながら、長期的な上昇による利益を得ることにつながると考えている。

まず、クオリティは、インフレによる影響を和らげる効果がある。代替が困難で強い価格支配力を有する質の高い企業は、インフレ環境下でも安定した収益力を維持できる場合が多い。こうした企業は、公益事業や生活必需品など、伝統的なディフェンシブ・セクターに数多く見られる。

また、安定性は成長鈍化の影響を相殺することができる。安定した企業は、伝統的な成長企業よりもベータ値(市場全体に対する感応度)が低いため、市場の下落局面でも下値抵抗力がある。企業のファンダメンタルズを深く掘り下げるリサーチを用いれば、金融、エネルギー、情報技術など幅広いセクターで優れた安定性を持つ企業を発掘することができる。

ABのリサーチでは、クオリティと安定性の双方で高い評価を得ている企業は一般にバランスシート上に多額の現金を保有する一方で負債が少なく、伝統的なディフェンシブ銘柄と比べても遜色ないことが示されている。実際、1970年1月1日から2021年12月31日までに起きた20回の市場下落局面において、S&P 500指数構成銘柄のうちQSPに関する上位20%の銘柄群は市場全体と比べ良好なパフォーマンスを示している(以前の記事 『Turning Less into More: Revisiting Equity Risk in a Volatile Year』ご参照)。

2022年の市場では、クオリティのみが高い銘柄のパフォーマンスは低調だったが、それに安定性が加わっている銘柄は良好なパフォーマンスを示し、リスクを軽減する効果が見られた。テクノロジー・セクターでは、このパフォーマンス格差がとりわけ顕著に現れた(図表2)。伝統的なディフェンシブ銘柄や、テクノロジー、金融、エネルギーなどのセクターにおけるボトムアップ型の銘柄選択を通じてリスクとリターンのバランスを図る低ボラティリティ戦略は、ボラティリティをしっかり管理することができた。

もちろん、このようなクオリティが高く、ショックに対する抵抗力が強い企業を実際に探し出すのは容易ではない。そのような企業でありながら、市場で十分に評価されていないために株価バリュエーションが魅力的な銘柄を発掘するためには、確信度の高いアプローチによるアクティブ運用が大きな役割を果たし得るとABでは考えている。

こうした銘柄選択の枠組みは、投資家が下落局面における損失を抑えつつ、回復局面で株価上昇の恩恵を最大限に受けることにつながると考えられる。また、たとえインフレ率やボラティリティが高止まりしても、パフォーマンスのパターンがよりスムーズであれば、投資家が市場の下落局面でも踏みとどまり、長期的に優れたリターンを獲得するのに役立つであろう。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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