インドでは長い間、劣悪なインフラや過度に煩雑な行政手続きが海外からの投資を阻んできた。だが、評判は本当の変化を見えにくくすることがある。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)が最近現地を訪れて調査した結果、インドは高速道路の整備や地下鉄建設を進めているほか、経済や株式市場の活性化を促し、投資の誘致を目指して効率性を高める取り組みに着手していることが判明した。

グローバル企業が中国からサプライチェーンを分散しようとする中、インドは中国の穴を埋めるための取り組みに出遅れている。インドの人口は中国を抜いて世界1位に浮上し、テクノロジー・セクターが活況に沸いているにもかかわらず、製造業の専門知識に乏しく、サプライチェーンの問題に苦しんでいることから、世界の次の製造業ハブとして注目を集めることができずにいる。

しかし、多国籍企業はインドへの関心を高めつつあり、サムスン、シーメンス、ペガトロンなどの企業がここ数年、インドに製造拠点を建設する計画を発表している。2023年3月には、アップルの主要サプライヤーである台湾のフォックスコンが2億米ドルを投じて中国以外で初のAirPods生産工場を建設する計画を発表し、インドへの信任票を投じた形となった。その結果、インドのエレクトロニクス製品輸出は2020年以降、急激に増加している(図表1

新興国の株式投資家は、そうした動きに注目すべきだ。インドに進出する企業が増えれば、上場株式への投資機会も拡大することになる。ABはインドがどのように変化しているのかを探るため、2023年初めに現地を訪れて徹底した調査を行い、消費者、小規模企業経営者、企業から多くの情報を得ることができた。

広い地域で進む交通網の整備

インドを訪れる人々にとって、移動は常に頭痛の種である。ムンバイは人口密度の高い広大な都市で、世界でも有数の交通渋滞に悩まされている。2,100万人の人口を抱えるこの都市には地下鉄が3路線しかないが、いたるところで地下鉄建設の動きを目にすることができた。現在は新たに5本の地下鉄が建設中で、2023年内に1本、残りが2025年までに完成する予定だ。交通網の拡充により、ムンバイでは住民、観光客、ビジネスマンの効率化を高める上で何より必要な都市機能の充実が実現することになる。

都市間の交通網も近代化されつつある。例えば、テクノロジー産業のハブであるバンガロールとマイソールはわずか140キロメートルしか離れていないが、道路網が貧弱なため、移動には3時間かかる。ABは今回のリサーチ旅行で、2023年内に完成予定の快適で近代的な高速道路を利用することができた。全面開通すれば、所要時間は半分の90分に短縮される予定だ。

お役所仕事が改善

交通網の改善に伴い、生活に関わる多くの分野でも効率化を高める取り組みが進められている。何人かの小規模企業経営者に話を聞いたところ、悪名高いインドのお役所仕事も改善されつつあり、さまざまな業界で政府の優遇措置が利用できるようになったとの声が聞かれた。

バンガロールでは、スナック菓子会社を創業したSuhasiniさんが、政府が融資や指導によって事業の立ち上げを支援してくれたと嬉しそうに語った。彼女によると、そのプロセスはとてもスムーズに進み、今後ビジネスを始める時にも、ベンチャーキャピタルの投資よりも、政府の助成金や融資を利用したいという。

マイソールでは、鉄鋼販売業を営んでいるSandeepさんが、過去10年間で売上高が急増したと語った。彼はその最大の理由について、政府との面倒なやりとりが減ったことだと説明した。起業家は、認可を得ればすぐに事業を始められるようになった。煩雑な手続きが簡素化される前は、事業主は30ヵ所以上から許可を得る必要があり、そのプロセスは数ヵ月かかることも多かったという。

一方、州政府は工業団地を建設し、鉄鋼販売会社のような企業をさらに後押ししている。ここ数年、バンガロールなどのティア1都市やマイソールなどのティア2都市に工業団地が次々と建設されている。その多くが空港近くにあり、企業や投資家がこれらの都市に進出する理由となっている。

こうした動きが何度も繰り返されることで、インドの競争力ランキングが改善している。国際経営開発研究所(IMD)の世界競争力センターによると、インドの経済競争力ランキングは、調査対象となった先進国と新興国63ヵ国のうち、2018年の44位から2022年には37位に上昇した。報告書はその理由として、政府の効率性、ビジネスの効率性、インフラが着実に改善しているためだと指摘している。

デジタル・インフラが急拡大

インドではお役所仕事や物理的インフラの改善と並行して、デジタル・インフラも急速な発展を遂げている。消費者から話を聞いたところ、最先端のスマートフォンや株取引アプリが人気を博していることが分かった。市場の屋台から家族経営の小さな店、電力会社まで、デジタル決済が広く普及している。

インドではデジタル決済が急増しており、小売売上高の35%がデジタルウォレットを通じて決済されている(図表2)。携帯電話の普及率は人口全体の66%と、まだ比較的低水準にとどまっているが、それだけに成長余地が大きい。ABは、インドではデジタル化がますます進展するのに伴い経済が新たな時代に飛躍し、新規投資を呼び込むもう1つの誘因になると考えている。

投資の可能性を秘めたインドの黄金機会

では、国際的な企業が中国への依存度を引き下げようとする中、インドはさらに多くの製造業企業を誘致できるのだろうか?それを判断するのは早すぎる。だが今のところは、新興国が中国からリショアリング(海外に移した生産拠点を再び自国へ移転すること)しようとするビジネスの獲得を競っている中、インドはリショアリングの高まりから大きな恩恵を受ける絶好の機会を手にしているとABではみている。

ABの見方では、インドではインフラの改善や業務の効率化が経済全体に広がり、多くの企業に好ましい事業ダイナミクスが生まれている。インドの国内銀行のほか、建設、商用車、セメント、鉄鋼、不動産などのインフラ関連企業がその恩恵を受ける可能性がある。具体的な投資機会を見つけ出すには、それぞれの企業のビジネスモデルに関する綿密なファンダメンタル・リサーチが必要になる。

マクロ経済データは経済の実態を反映するまでに時間を要するため、今後の動きを予想する上ではあまり役に立たない。インドが急速に変化するアジアのビジネス環境から利益を得るために自己改革を続けている中で、現地調査から得られる情報は、投資家がインド株式への意外な投資機会を発掘する上で役立つと思われる。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら
 

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