医薬品メーカーがヘルスケア・セクターのポートフォリオを独占する必要はない。株式投資家は、イノベーションとその成長を見出すために、このセクター全体で広くアンテナを張り巡らすべきである。
ヘルスケア分野では、とかく製薬会社が脚光を浴びがちである。新型コロナワクチンからアルツハイマー治療薬まで、画期的な医薬品は人々が抱える苦悩を癒やし、生活の質を向上させることを目指し開発される。投資家は、難病を克服し、健全な利益をもたらす画期的な新薬の可能性にしばしば熱狂するものである。
大手製薬会社はヘルスケアの中で最大の比重を占めているため、グローバル株式ポートフォリオや厳選投資などでは、このセクターの組み入れ銘柄の大半を占めることが多い。しかし、医薬品に集中しすぎると、ポートフォリオの可能性を狭めてしまうことにつながりかねない。世界中の最も切迫した医療問題に対処するための診断薬や医療技術、機器などを製造する企業は、ヘルスケア・セクターの進歩にとって、ますます重要になってきている。
過去20年間におけるヘルスケア指数の変遷は、こうした変化を如実に反映している。MSCIワールド・ヘルスケア指数に占める製薬会社のウェイトは、2000年の82%から現在は41%にまで低下している(図表1)。他の業種が目立つようになり、株式投資家はライフサイエンス・ツール&サービス、テクノロジー、医療機器などの分野において、幅広い投資機会が得られるようになった。
診断やライフサイエンス・ツール&サービス:これらの分野は、医療プロセスにとって治療と同じくらい重要である。高度な検査や画像診断により、医療関係者は疾患をより早い段階で発見し、治療効果や回復の可能性を高めることができる。また、ヒトゲノムの塩基配列の解読は、新薬の可能性をさらに広げ、疾患の早期発見に役立つだろう。
製薬会社が新薬の試験を行う場合、通常は臨床試験を外注する。ルクセンブルクに本社を置くユーロフィン・サイエンティフィックは、米国外では最大手の検査会社で、臨床試験から環境・食品検査に至る幅広いサービスを提供している。日本のシスメックスは、患者の血液型を特定する簡便な検査から、がんやアルツハイマー病を検出するための液体生検まで、血液を分析する診断機器を販売している。
バイオテクノロジーの研究開発では、遺伝子治療やmRNAワクチンなどの分野における画期的な医薬品開発プロセスは、歴史的に見ても非常に資本集約的なものである。バイオテクノロジー企業は、色々な場所で生物学的製剤を製造するために多くのタンクを必要としていた。ドイツのザルトリウス・ステディム・バイオテックは、バイオテクノロジー企業が使用するスチールタンクを再利用可能にするシステムを製作し、研究開発プロセスのコストを抑えると同時に、環境面でもさらなる配慮を行った。
テクノロジーと人工知能(AI):他の分野に比べ、ヘルスケアはハイテク社会の中では新しいテクノロジーの活用は出遅れていた。しかし、状況は変わりつつある。新しいテクノロジーの導入に成功した企業は、ケアの提供や提供の方法を飛躍的に変革することができるが、そのような企業はこのセクターでもこれまでとは異なるところで見出されている。
米国のヴィーバ・システムズやアイルランドのICONなどの企業では、AIが業務用ツールとして導入されつつある(以前の記事『ヘルスケアにおけるAI導入は、投資家にとってどのような意味を持つか?』ご参照)。AIの性能が向上し、疾患の診断に幅広く利用されるようになれば、ヘルスケア向けのソフトウェアをサービスとして提供する企業の需要もさらに増すことになるとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)ではみている。ヴィーバ・システムズや日本のエムスリーは、臨床試験から在宅健康モニタリング、さらには医薬品販売のためのマーケティング・ソフトウェアまで、さまざまなソフトウェア・サービスの提供を行っている。
医療機器・用品:世界的な医薬品メーカーから掛かりつけの医師に至るまで、ヘルスケア製品やサービスを提供するための機器やツールは常に変化している。救命処置に使用される最新機器は、患者の医療結果を改善することができる。経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)を製造するエドワーズ・ライフサイエンスを考えてみよう。同社の報告によると、TAVR機器のグローバル市場は、2024年の70億米ドルから2028年には100億米ドルにまで成長することが見込まれている。
外科医にとって、技術革新は急速に進展している。今日、外科医の間では、体内で手が届きにくい場所でも高精度で低侵襲な切開を行い、合併症の発生を抑えながら術後の回復時間を短縮するロボット・ツールを使用する手術が増えている。米国のインテュイティブ・サージカルは、米国の手術室で普及しているロボット外科手術システムの製造を行っているが、米国外でも勢いを増しており、欧州、日本、中国でも大きな成長機会があるとABでは考えている。
健全な成長を決定づける3つの特徴
各業界にはそれぞれ違うダイナミクスがあるが、投資家はセクターを問わず有望なヘルスケア事業を見分けるために3つの特徴を見出すべきとABでは考えている(図表2)。
その3つとは、1)患者の医療結果を改善する製品やサービスを探す、2)資金難にあえぐ医療システムのコスト削減を支援できる企業は、大きな需要を獲得できる可能性が高い、3)治療成績の改善とコスト削減を実現する製品は、事業に利益をもたらす点である。
これら3つの特徴を備えた企業は、エコシステムの好循環の中で事業を展開していると言える。健全なエコシステムのダイナミクスがあれば、企業はキャッシュフローを有益に再投資し、継続的な利益拡大を支えることができる。株式投資家がヘルスケア銘柄を選ぶ際には、科学的な成果を見ようとするのではなく、常に事業のファンダメンタルズに焦点を当てるべきだとABでは考える。
確かに、健全なエコシステムの基準を満たす製薬会社は、ヘルスケア銘柄の分散投資の中に含めるべきだろう。しかし、製薬メーカーをヘルスケア・ポートフォリオの中核に据えるのではなく、進化する医療製品やサービスがどこにあろうと、質の高いビジネスモデルを探すことから始めるべきである。
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