一般的な認識とは裏腹に、政治的な不透明感が必ずしもヘルスケア・セクターに深刻なリスクをもたらすとは限らない。

米国では2024年11月に、大統領選挙、連邦議会選挙、そして数多くの州及び地方レベルの選挙が行われる。投資家は多くの場合、選挙の年にはヘルスケア銘柄はリスクが高くなると考えがちだが、過去の実績を見れば、そうではないことが分かる。今回は、大統領の所属政党と議会を支配する政党が異なる分割政府になるという見通しが、ヘルスケア銘柄を下支えする可能性がある。

政治勢力にわずかな変化が生じただけでも、ヘルスケア銘柄に重大な影響をもたらす新たな法案の制定につながる可能性がある。一見すれば、2024年も例外ではなさそうだ。薬価は注目の話題で、与野党双方の議員が高価格の処方薬に狙いを定めている。

認識 現実:ヘルスケア銘柄と政治

政策がヘルスケア銘柄に影響を与えうることは間違いないが、政治的な不透明感が必ずしも市場の混乱を招くわけではない。実際、ヘルスケア・セクターのリターンが選挙の年に毎回同じようなパターンを示したり、ボラティリティが極端に跳ね上がったりしたことはない(図表1)。

認識と現実はなぜ食い違っているのか?

その理由の一つは、グローバルに事業を展開する米国企業が、必ずしも米国における特定のヘルスケア事業に縛られているわけではないからだ。それに加え、ヘルスケア支出は世界の国内総生産(GDP)の10%を占めている。これは構造的な追い風で、政策が短期的に変更されたとしても、人口の高齢化が進むにつれて、その勢いは増していくだろう。米国国内の事業比率が高い企業でも、米国の規制や診療報酬に関するリスクからある程度守られたビジネスモデルを持っている可能性がある。例えば、医薬品開発企業、医療機器メーカー、病院などに不可欠な製品やサービスを供給するような、裏方で活躍する有力企業がそれに当たる。

診断薬やソフトウェア・サービス(以前の記事『ヘルスケア・セクターへの投資:医薬品の枠を超えた成長の発掘』ご参照)は、特に医療システムのコスト削減に寄与するため、政治的な圧力に直面する可能性は低い。ヘルスケア企業はまた、患者や医療システムの効率を高めるため、人工知能(AI)の活用方法を模索し始めており(以前の記事『ヘルスケアにおけるAI導入は、投資家にとってどのような意味を持つか?』ご参照)、そうしたトレンドが政治によって妨げられることは考えにくい。

大統領の所属政党と議会の多数派政党が異なる「ねじれ」状態となる可能性も現実味がある。今もそうだが、11月の選挙後も再びそうなる可能性がある。大統領の属する政党が議会を支配していない場合、重要な法案を議会で可決するのが難しくなりがちで、特に選挙の年にはそうした傾向が強まる。一方、米国食品医薬品局や国立衛生研究所のような主要政府機関への資金拠出を脅かしかねない予算削減が実施される可能性は抑えられる。

法律がヘルスケア支出を左右する可能性

新たな法律が成立しても、それが必ずしもヘルスケア・セクターに大きな影響を与えるとは限らない。ここ数年の例を振り返ってみよう。

2022年に制定されたインフレ抑制法(IRA)は、高齢者向け公的医療保険のメディケアに薬価について交渉する権利を与える一方で、メディケア利用者のインスリン費用については月35米ドルを上限とし、製薬会社による値上げに歯止めをかけるものとなった。

大手製薬会社は当初、この法律がイノベーションを妨げると警告していた。しかし、バイオ医薬品の研究開発支出に関する予測では、IRAの成立後も旺盛な投資が続きそうなことが示されている。製薬会社は新薬を開発するためゲノムやAIの進歩を活用しようとしており、研究開発支出は今後数年間に少なくとも4~5%拡大すると見込まれている(図表2)。

また、独占禁止法の観点から監視が強化されかねないとの懸念があるにもかかわらず、治療薬分野における買収・合併(M&A)もこのところ活発化しており、大手製薬会社が製品パイプラインの拡充や売上高のさらなる拡大を目指し、小規模なバイオテクノロジー企業を買収している。こうしたM&Aは、バイオテクノロジー業界の資金調達を容易にし、投資家心理を改善させている。

リスクを注視しながらも焦点はビジネスモデルに

もちろん、賢明な投資家は規制や政策に関する環境に留意し、政策が転換される可能性をヘルスケア企業のファンダメンタル分析に組み入れる必要がある。現在、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では貿易をめぐる米国と中国の対立や、バイオテクノロジー企業をめぐり国家安全保障上の懸念が高まっていることに注目している。この2つの問題が解決されなければ、規制強化や新たな貿易制限につながる可能性がある。そして当然ながら、大統領選挙が行われる11月が近づくにつれ、市場のボラティリティが高まる可能性もある。

だが最終的には、投資家は予算をめぐる闘いよりもビジネスモデルに焦点を合わせる方が望ましいとABでは考える。強力なファンダメンタルズ、継続的な収益源、質の高い成長ドライバーを持つ銘柄に注目することで、投資家は市場が混乱したとしても、ヘルスケア銘柄へのアロケーションを維持することができる。ヘルスケア業界で効率化を目指す企業は、選挙結果を受けて医療制度改革が進められたとしても、その影響を乗り切ることができるだろう。

ヘルスケア・セクターの中には、歴史的に見てバリュエーションの魅力度が高い分野がいくつかあることにも注目したい。不透明感が払しょくされ、連邦議会の構成も決まれば、短期的に市場が混乱したとしても、それは質の高い銘柄を買い入れるさらなる魅力的な機会を生み出す可能性がある。

米国の医療保険制度は長年にわたり、数多くの政権交代を乗り越えてきた。11月が近づくにつれ、投資家は短期的な政治の雑音に惑わされることなく、長期的な投資目標を堅持する必要がある。厳選された株式ポートフォリオを通じてヘルスケア銘柄に投資することで、気まぐれな政治的センチメントよりもはるかに持続力があるとみられるセクターが生み出すさまざまなリターン源にアクセスすることができるとABでは考える。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
オリジナルの英語版はこちら

本文中の見解はリサーチ、投資助言、売買推奨ではなく、必ずしもアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)ポートフォリオ運用チームの見解とは限りません。本文中で言及した資産クラスに関する過去の実績や分析は将来の成果等を示唆・保証するものではありません。

当資料は、2024年2月27日現在の情報を基にアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーが作成したものをアライアンス・バーンスタイン株式会社が翻訳した資料であり、いかなる場合も当資料に記載されている情報は、投資助言としてみなされません。当資料は信用できると判断した情報をもとに作成しておりますが、その正確性、完全性を保証するものではありません。当資料に掲載されている予測、見通し、見解のいずれも実現される保証はありません。また当資料の記載内容、データ等は作成時点のものであり、今後予告なしに変更することがあります。当資料で使用している指数等に係る著作権等の知的財産権、その他一切の権利は、当該指数等の開発元または公表元に帰属します。当資料中の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。アライアンス・バーンスタイン及びABはアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーとその傘下の関連会社を含みます。アライアンス・バーンスタイン株式会社は、ABの日本拠点です。

当資料についてのご意見、コメント、お問い合せ等はjpmarcom@editalliancebernsteinまでお寄せください。

「株式」カテゴリーの最新記事

「株式」カテゴリーでよく読まれている記事

「株式」カテゴリー 一覧へ

アライアンス・バーンスタインの運用サービス

アライアンス・バーンスタイン株式会社

金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第303号
https://www.alliancebernstein.co.jp/

加入協会
一般社団法人投資信託協会
一般社団法人日本投資顧問業協会
日本証券業協会
一般社団法人第二種金融商品取引業協会

当資料についての重要情報

当資料は、投資判断のご参考となる情報提供を目的としており勧誘を目的としたものではありません。特定の投資信託の取得をご希望の場合には、販売会社において投資信託説明書(交付目論見書)をお渡ししますので、必ず詳細をご確認のうえ、投資に関する最終決定はご自身で判断なさるようお願いします。以下の内容は、投資信託をお申込みされる際に、投資家の皆様に、ご確認いただきたい事項としてお知らせするものです。

投資信託のリスクについて

アライアンス・バーンスタイン株式会社の設定・運用する投資信託は、株式・債券等の値動きのある金融商品等に投資します(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)ので、基準価額は変動し、投資元本を割り込むことがあります。したがって、元金が保証されているものではありません。投資信託の運用による損益は、全て投資者の皆様に帰属します。投資信託は預貯金と異なります。リスクの要因については、各投資信託が投資する金融商品等により異なりますので、お申込みにあたっては、各投資信託の投資信託説明書(交付目論見書)、契約締結前交付書面等をご覧ください。

お客様にご負担いただく費用

投資信託のご購入時や運用期間中には以下の費用がかかります

  • 申込時に直接ご負担いただく費用…申込手数料 上限3.3%(税抜3.0%)です。
  • 換金時に直接ご負担いただく費用…信託財産留保金 上限0.5%です。
  • 保有期間に間接的にご負担いただく費用…信託報酬 上限2.068%(税抜1.880%)です。

その他費用:上記以外に保有期間に応じてご負担いただく費用があります。投資信託説明書(交付目論見書)、契約締結前交付書面等でご確認ください。

上記に記載しているリスクや費用項目につきましては、一般的な投資信託を想定しております。費用の料率につきましては、アライアンス・バーンスタイン株式会社が運用する全ての投資信託のうち、徴収するそれぞれの費用における最高の料率を記載しております。

ご注意

アライアンス・バーンスタイン株式会社の運用戦略や商品は、値動きのある金融商品等を投資対象として運用を行いますので、運用ポートフォリオの運用実績は、組入れられた金融商品等の値動きの変化による影響を受けます。また、金融商品取引業者等と取引を行うため、その業務または財産の状況の変化による影響も受けます。デリバティブ取引を行う場合は、これらの影響により保証金を超過する損失が発生する可能性があります。資産の価値の減少を含むリスクはお客様に帰属します。したがって、元金および利回りのいずれも保証されているものではありません。運用戦略や商品によって投資対象資産の種類や投資制限、取引市場、投資対象国等が異なることから、リスクの内容や性質が異なります。また、ご投資に伴う運用報酬や保有期間中に間接的にご負担いただく費用、その他費用等及びその合計額も異なりますので、その金額をあらかじめ表示することができません。上記の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。