グローバル株式の投資家は、関税が及ぼす影響をファンダメンタルズ分析にどのように織り込むことができるのか?
米国が大量の中国製品に新たに関税を課すことになり、貿易戦争が再び新聞の大見出しを飾っている。企業の長期見通しに基づいてリターン予想を作成しようとする投資家にとって、このような政策の動きは頭痛の種であり、リサーチ・プロセスで特殊な検討を行う必要が出てくる。
ジョー・バイデン米国大統領は2024年5月14日に、電気自動車(EV)や太陽電池を含む約180億米ドル分の中国からの輸入製品にかかる関税率を引き上げると発表した(ロイターの記事ご参照(英語、外部サイト))。この動きは、世界の二大経済大国間で貿易をめぐる緊張が高まる兆候であり、脱グローバル化が主導する地政学リスクの具体例である。
関税は製品の相対コストを変化させる。そして、そうした変化が需給を左右するほか、企業にも大きな影響を及ぼす可能性がある。政策判断を予想するのは難しいことが多いため、投資アナリストはそれを財務予想に織り込むのに苦労するかもしれない。しかし、変化していく環境を建設的に評価すべく、物事の本質と変数を分析することは可能である。
政治環境を理解する
まず背景にある政治環境を詳しく調べることが最初のステップとなる。例えば、米国が半導体の販売に対して課している制限は、テクノロジー保護やサプライチェーン確保に関連し、広範囲に及んでいるグローバル化の反動の一部である。米国ではそうした政治姿勢が何年間も超党派の幅広い支持を得ているため、関税率引き上げに向けた動きが続きそうである。
投資家は次に、リスクにさらされる企業と恩恵を受ける可能性がある企業を特定すべきであるとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では考える。アナリストはその時点で、企業の地理的な展開や商品が関税率引き上げから影響を受ける度合いを評価し、適切な対応をとるために情報を収集する。適切な対応とは、リスクにさらされるポジションを売却して減らすばかりではない。新聞報道などに対する投資家の一時的な過剰反応をうまく利用し、価格変化により恩恵を受けそうな企業に資産を配分する場合もある。
最も深刻なリスクを回避する
さらなる注意が必要なリスクもある。EVメーカーへの関税はそうしたリスクの一例で、すでに不安定になっている業界の動きに不透明感を与えるからだ。中国は欧米市場の至るところで比較的安価なEVを販売しており、一方では、欧米の自動車メーカーは、高品質の比較的高価なEVにシフトすることに自らの将来を賭けている。今後の展開を見通せない市場や政治力学により、株式投資家がEVメーカーに対して確信を持つのは非常に難しくなっているとABでは考える。
しかし、従来の内燃機関からEVへのグローバルかつ構造的なシフトが、政策の動きによって妨げられるとは思えない。その結果、貿易戦争が及ぼす予期せぬ影響を回避しながら、EV市場の成長ポテンシャルを捉えようとする投資家は、半導体やバッテリーといった必要不可欠な部品をEVメーカーに供給する企業「イネーブラー」に注目することができる(以前の記事『テスラの失速が語るEV市場への投資』ご参照)。業界環境や政治環境が厳しくなったとしても、EVイネーブラーは引き続き、旺盛な需要を享受する可能性が高いとABは考えている。
構造の変化と政策の変化を区別する
不透明な政策環境で起きている構造的なシフトの例はEVだけではない。エネルギーの移行やエネルギー安全保障について考えてみよう(以前の記事『Finding Hidden Value in the Future of Global Security』(英語)ご参照)。米国ではインフレ抑制法が主導する形で、エネルギー移行への投資が盛んに行われている。それにもかかわらず、米国の11月の選挙結果や、エネルギー移行への参画企業に現在提供されているインセンティブに選挙結果がどのような影響を及ぼすのかは、誰にも予想できない。
ただし、政策によるサポートの有無にかかわらず、エネルギーの移行は続く可能性が高いとABは考えている。現在、長期的な変革が進んでいる産業電化などの領域では、経済性の向上がエネルギーの移行を主導しているからだ。投資家はそのため、エネルギー移行の恩恵を受ける企業や、補助金の有無にかかわらず利益成長をもたらすことができる優れた事業で、エネルギー移行を実現する企業を探すことができるだろう。インセンティブが引き続き実施される場合は、これらの企業をさらに後押しすることになる。
関税に打ち勝つことができる企業を見つける
同様に、製品の需要が時間の経過とともに関税の圧力に打ち勝つことができる場合もある。中国が欧州のコニャック及びブランデーに対して課す関税がその好例である。2024年5月初めのフランス・中国間の協議では、予想されていた中国によるそれらのアルコール飲料への関税賦課が、実施されないかもしれないと示唆していた。投資家はこの場合、関税賦課が実施されうるタイミングや、それが輸出入バランスをどの程度変動させるかについて、実際には予想できない。
ただし、コニャックに対する関税は年月とともに増減する傾向がある。ABの見解では、投資期間が少なくとも3~5年という長期間にわたる投資家は、流動的な関税環境にもかかわらず魅力的な利益成長を実現する能力がある高級品メーカーを厳選し、それらの事業分析モデルを作成することができる。
業績やパフォーマンスの振れ幅を考慮する
確かに貿易戦争や関税により、企業が実現しうる業績や投資家が達成しうるパフォーマンスの振れ幅は大きくなる。リスクが深刻すぎる場合、投資家はそうしたリスクを避けるため、貿易をめぐる予想不能な動きから直接影響を受けやすい業界や企業を回避すべきである。
それ以外の場合はリスクを分析に織り込むことができる。関税に対して脆弱だが、その点を除けば堅実な事業を営んでいる企業については、そうしたリスクを認識したバリュエーションを反映すべく、適切な割引率を適用することができる。その上で、長期的に創出しうるリターンがそうしたリスクを相殺するかどうかについて、評価することが可能である。また、ポートフォリオ内のポジションの大きさを調整し、企業が関税をめぐる動きから影響を受けやすい点を反映することもできる。
貿易戦争は地政学リスクの側面の1つにすぎず、地政学リスクは明らかに多方面で高まっている。そうしたリスクに対処する思慮に富んだアプローチを持つ株式投資家は、変わりやすい政策環境に対応する態勢を整えて、政治的なハードルに時間の経過とともに打ち勝つ可能性が高い構造的な成長トレンドから、十分なリターンを創出するだろう。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら
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