2026年1月、日本国債の利回りは数十年ぶりの水準へと急騰した。投資家は長らく日本の債券市場を安定の象徴として扱ってきたため、とりわけ30年債と40年債における急速かつ大規模な値崩れが世界の市場に衝撃を与えた。今回の出来事が危機を意味するとはアライアンス・バーンスタイン「以下、「AB」」は考えていないが、投資家が学ぶべき示唆を含んでいると見ている。

サプライズ選挙が利回り急騰を引き起こす

1月23日、就任からわずか3カ月の高市早苗首相は突如として衆議院を解散し、2月8日の電撃的な総選挙を実施すると発表した。同時に大規模な財政刺激策を打ち出し、食品消費税(8%)を2年間ゼロに引き下げる案に言及した。この措置は年間5兆円の財源を失う可能性があり、すでにGDP比約250%の高い債務残高を抱える日本にとって財政規律への懸念が投資家の間で広がった。

財政規律に対する不安が長期国債の急激な売りの引き金を引いた。30年債利回りは約20ベーシス・ポイント上昇し、40年債利回りは4%に迫った。現在、日本国債のイールドカーブは他の先進国と比べても異例に長短金利の差が開いており、30年国債利回りがドイツ国債を上回って(図表1)、歴史的に低利回りを維持してきた日本にとっては驚くべき金利水準となっている。

日本国債が引き起こしたボラティリティは世界の債券市場にも波及し、米国財務長官スコット・ベッセントは市場の混乱に対し火消しに回ることになった。また、英メディアでは英国におけるトラス政権期の債券市場混乱との比較が取り沙汰された。

長期国債金利の急騰は、日本版「トラス・ショック」といえるのか?

日英で起きた国債金利急騰の比較は、一見もっともらしく見えるが、よく見ると似た現象とは言い難い。

2022年に英国のリズ・トラス首相の下で発生した危機は、レバレッジをかけた年金基金がマージンコールとポジションの強制決済に巻き込まれ、金利が急騰した事例であった。しかし、このトラス・ショックの混乱は最終的に英国の長短金利差を縮小させたという点で、典型的な信用危機のイベントの様相を呈していた。それに対し、日本の長期金利急騰時に長短金利差は逆に拡大している。さらに、日本の国債市場ではレバレッジを用いたLDI(負債対応投資)型の戦略は広くは採用されておらず、初期のショックを経て、利回りはすでに安定している。

しかしABの見方では、トラス政権と高市政権を比較するうえで最も興味深い点は、両国の債務発行における満期構成の違いにある。

英国では、国債借換リスクを最小化するため、数十年にわたり先進国の中でも最も長い加重平均満期(WAM)を維持してきた。しかし2022年、長期国債需要の慢性的な落ち込みにより、英国債市場のWAMは急速に短期化し、この傾向は今日も続いている(図表2)。一方、日本のWAMは一見すると驚くほど安定している。しかし、その見た目が必ずしも実態を反映しているとは限らない。

日本国債投資に潜むデュレーション・リスク

日本の財務省は過去10年間にわたり安定したWAMを公表している。しかし、2016年に日本銀行が大規模な国債購入を開始して以来、日本国債発行額の約半分を吸収してきた。これらの購入は10年までの年限に集中しており、その結果、民間投資家は相対的に超長期の国債を多く保有する構造になっている。

日本銀行保有分を除外してWAMを再計算すると、市場が実際に保有する日本国債の実効的な満期は、公式の数値よりおよそ3年長い(図表3)。言い換えれば、日本の公表されているWAMは、投資家が実際に負っているデュレーション・リスクをかなり過小評価しているということである。(なお、イングランド銀行のバランスシートは規模が比較的小さいため、英国債市場のデュレーション構成を大きく歪めることはない。)

公表値と市場ベースのWAMのかい離は、なぜ日本で最近起きた長期年限の国債の価格急落が大きな痛みを伴ったのかを説明している。つまり、投資家が負っていたデュレーション・リスクは自らが思っていたよりもはるかに大きかったということである。

投資家への教訓

日本の政策当局はすでにこのギャップへの対応を開始している。2024年以降、財務省は発行年限を短期化の方向へ調整し、日本銀行が国債購入を縮小していることから、日本の実効的なWAMは徐々に低下している。日本銀行のバランスシートが非常に大きいため進捗は緩やかであるが、満期構成の管理における日本の柔軟性を示す動きである。

今後を見据えると、財務省は発行の微調整を通じて市場が保有する国債の満期構成をさらに短期化させる余地があるとABは考えている。同時に、日本銀行はイールドカーブのフラット化を許容し、投資家のストレス緩和につながる対応を取る可能性が高い。

投資家にとって得られる教訓は明快である。表面的な数字を鵜呑みにしないことである。中央銀行が市場の大半を保有している場合、日本国債の公式の残存構成統計だけでは実態を誤解する可能性がある。日本の国債発行計画、日本銀行のテーパリング(資産購入縮小)のペース、民間投資家が保有する国債の実効満期を綿密に分析することは、今後のイールドカーブの変化を市場に先回りして読み取るうえで有用である。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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