企業ブランドの毀損リスクや不透明な規制環境など、人工知能(AI)の拡大がさまざまな投資上の課題をもたらす中、投資家はこの先どう進んでいけばよいのだろうか?
AIの拡大は多くの倫理的な問題をはらんでおり、それらは消費者や企業、さらには投資家にとって、リスクにつながりかねないものである。また、AIをめぐる規制の動きは地域によってまちまちであり、そうした状況が投資家の不透明感に拍車をかけている。投資家にとって重要なのは、透明性と説明可能性を重視することであるとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考える。
AIの倫理的問題やリスクは、AIの開発企業に端を発し、そこからAIをビジネスに取り入れる開発企業の顧客、消費者、さらには社会全体へと広がっていく。そのため、AIの開発企業や利用企業への投資は投資家にとって、そうしたリスク連鎖の川上と川下双方へのエクスポージャーを意味しているのである。
AIリスクをめぐるさまざまなルール
AIは今も急速な進化を続けており、その拡大はAIに対する多くの人々の理解をはるかに超えている。そうした中、世界各国の規制当局や立法機関も近年、AIの進化に追いつこうとその動きを急速に活発化させている。また、多くの国々が国家AI戦略を発表しており、主要地域のいくつかでは、単なる戦略から法的拘束力のあるルールへの移行も進んでいる(図表1)。

国や地域ごとに異なるAI規制への取り組みは、国際的なビジネスを複雑なものにしている。各地域の規制アプローチはその型も範囲もさまざまであり、例えば欧州連合(EU)のAI法では、リスクの高いAIシステムに厳しい要件を課す、リスクベース・モデルが採用されている。一方、米国ではイノベーションや競争力を重視したセクター別のアプローチが採用されており、中国では、国家管理やデータ主権、さらには包括的なモニタリングが重視されている。
こうした規制環境下において、国際的な企業は規制の動向を注視していく必要があり、これは投資家にとって、規制にとどまらず様々なAIリスクの増大を意味する。
データリスクが企業ブランドの毀損につながる可能性
AIのビジネス導入には多くの場合、文章やビデオ、あるいは音声などの生成ツールに加え、大規模言語モデル(LLM)が活用されている。また、LLMを活用したアプリケーションには、チャットボットやコンテンツの自動作成、さらには大規模データ解析などが含まれる。
一方、多くの企業は、AIによるイノベーションが企業ブランドの毀損につながりかねない可能性に気づき始めた。LLMが学習に用いるデータに偏見が内在している場合があることが原因で、例えば銀行が住宅ローンの承認プロセスにおいて、マイノリティーを差別してしまったようなケースがこれにあたる(フォーブスの記事ご参照(英語、外部サイト))。また、米国のある医療保険会社に対する集団訴訟では、同社によるAIアルゴリズムの活用が、高齢患者への長期療養保険金支払いの不当な拒否につながったかどうかが争われている(フォーブスの記事ご参照(英語、外部サイト))。
AIの学習データそのものからリスクが生じることもある。アンソロピックは2025年9月、同社がAIの学習に海賊版書籍を無断利用したとして訴えられた集団訴訟において、約15億米ドルの和解金を支払うことで合意した(コピーライト・アライアンスの記事ご参照(英語、外部サイト))。また、生成AIをめぐっては2025年末現在、「ニューヨーク・タイムズ対オープンAI及びマイクロソフト」「ディズニー及びユニバーサル対ミッドジャーニー」「ゲッティイメージズ対スタビリティAI」など、70件を超える著作権訴訟が提起されている。このように、AIの学習データに関するリスクは、企業の財務リスクとして、ますます数値化できるものになりつつある。
偏見、差別、そして学習データに関する問題は、投資家が関心を持つべき重大な規制リスクであり、知的財産権やデータプライバシーに関しても同様だ。投資家はまた、AI開発企業によるリスク緩和措置の実施状況、具体的にはAIモデルの性能、正確性、安定性に関するテストのほか、利用企業への透明性の提供やAIソリューションの導入支援などについても厳しくチェックする必要がある。
AI規制への理解を深める
AIに対する規制アプローチは地域によってさまざまであり、そうした違いは投資家にとって重要な意味を持つ。EUにおいては、包括的かつリスクベースの枠組みを採用したAI法が、2024年から順次施行されている。それに対して米国のアプローチは、ひとつの総合的な枠組みではなく、既存の連邦機関や任意の枠組み、さらには州レベルの法律を活用したものとなっている。また、英国においては、プリンシプルベース(原則主義)のアプローチが採用され、包括的な立法は先送りされている。そして中国は、特定の分野に焦点を絞ったルールの導入を急いでおり、それらは特に、コンテンツの管理や社会の安定、あるいはデータの主権に関するものとなっている。
こうした違いは、投資家にも実質的な影響を及ぼすものである。グローバル企業に適用されるルールは市場によって大きく異なる可能性があり、投資先企業が最も力を発揮できる地域はどこかを考えることがますます重要になっている。
そうした中、投資家は各地域のAI規制をただ調査するだけではなく、それ以上の掘り下げを行う必要があるとABは考える。データ侵害を扱う著作権法やAIの影響を受ける労働市場における雇用法制など、既存の法的枠組みがAIの拡大にどのように対応しているかについても、理解する必要があるということだ。
ファンダメンタル分析とエンゲージメントが鍵
投資家がAIリスクを評価する上で役立つ経験則のひとつに、AI戦略やAIポリシーの開示に積極的な企業は、新たな規制への備えも十分である可能性が高いというものがある。また、ファンダメンタル分析に加え、投資先企業とのエンゲージメントもAIリスクの調査において重要となる。
ABの考えでは、ファンダメンタル分析の対象は個別企業レベルのAIリスクだけでなく、ビジネスチェーン全体や規制環境全体とすべきであり、責任あるAIの基本原則に照らしてリスクの本質を見抜くことが重要となる(図表2)。

また、投資先企業とのエンゲージメントにおいては、事業運営という視点からだけでなく、環境・社会・ガバナンス(ESG)の視点からも、AI問題について議論する必要がある。
AIチェックリスト:取締役会と経営陣への質問
投資先企業の取締役会や経営陣に対して、投資家が投げかけるべき質問には以下のようなものがある。
- AIの導入状況:投資先企業の事業戦略全体にAIはどのように組み込まれているか?投資先企業におけるAIの具体的な活用事例にはどのようなものがあるか?
- 取締役会による監督とその専門知識:投資先企業の取締役会はAI戦略とその実行状況を効果的に監督できるだけの専門知識をどう確保しているか?そのための具体的な研修プログラムや取り組みはあるか?
- 責任あるAIに関するコミットメントの公表:投資先企業は責任あるAIに関する正式なポリシーまたは枠組みを公表しているか?そのポリシーは業界のスタンダードやAIをめぐる倫理的配慮、さらにはAI規制とどのように整合しているか?
- 積極的な透明性の追求:投資先企業は規制による将来的な影響にも耐え得る積極的な透明性向上策を講じているか?
- リスク管理とアカウンタビリティ:AI関連リスクの把握と軽減に向け、投資先企業はどのようなリスク管理プロセスを導入しているか?そうしたリスクを監督するための権限委譲は行われているか?
- LLMにおけるデータ課題:LLMが学習に用いるインプットデータをめぐるプライバシーや著作権の問題に対して、投資先企業はどのような対応を取っているか?インプットデータがプライバシー規制や著作権法に準拠していることを担保するため、投資先企業はどのような措置を講じているか?インプットデータに関する制約や要件に投資先企業はどのように対処しているか?
- 生成AIシステムにおける偏見と公平性:AIシステムによる生成物に含まれる偏見や不公平性といった課題に対して、投資先企業はそれらを防止、あるいは軽減するため、どのような対策を講じているか?投資先企業はどのようにして、生成AIシステムによる生成物が公平かつ偏りのないものであり、いかなる個人やグループに対しても差別や悪影響をもたらすものではないことを担保しているか?
- 各地域における法令遵守:投資先企業は常に最高水準のグローバル・スタンダード、あるいは地域ごとの法令に従っているか?
- インシデント(事故)の調査とその報告:投資先企業はAIの導入または利用をめぐって発生したインシデントについて、どのような調査と報告を行っているか?そうしたインシデントに対処し、そこから学びを得るための仕組みにはどのようなものがあるか?
- 評価指標と報告体制:投資先企業はどのような指標を用いてAIシステムのパフォーマンスや効果を測定しているか?それらの指標は外部の利害関係者にどのように報告されているか?投資先企業は適切なデューデリジェンスをどのように維持し、AIアプリケーションが規制に沿ったものであることを監視しているか?
結局のところ、投資家がAIをめぐる倫理と規制の迷路を抜け出すには、常に地に足をつけ、懐疑的な姿勢を維持するのが最も良い方法である。投資家は明確な答えを常に求めるべきであり、分析対象企業による込み入った説明に、いたずらに感銘を受けるべきではないということでもある。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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