投資機会とリスクを十分に理解するためには、多面的な視点が欠かせない。
2026年の中間地点を過ぎ、経済成長は底堅いものの、リスクは根強く、スプレッドもタイトな水準にあることから、保険会社のポートフォリオは複雑な投資判断に直面していると言える。各国のマクロ環境に差が生じ、自己資本規制も変化していく中、保険会社には大まかな資産クラスの分類を越えた視点が求められるとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考える。保険会社が重視すべきは担保の質や流動性、さらにはキャッシュフローの変動性のほか、リスクとバリュエーションが引き続き見合うと考えられるセクターである。
世界経済は底堅いがダウンサイド・リスクには注意が必要
世界経済はここまでよく持ちこたえてきたものの、足元ではダウンサイド・リスクが高まっている。中東紛争による原油価格の上昇がインフレの高止まりにつながる一方で、経済成長の鈍化は各国中央銀行の方針にばらつきを生み、金融政策のかい離を広げる可能性がある。
地政学リスクと人工知能(AI)の普及は、いずれも重要なファクターである。イラン紛争が早期に終結すれば、原油価格が落ち着く可能性はあるものの、ショックが長引けば、2022年よりもぜい弱な今日のマクロ環境がさらに混乱する恐れもある。また、AIの普及による生産性の向上は、インフレを伴わない経済成長を後押しし得る一方で、雇用市場に悪影響を及ぼす可能性もある。そしてAIに関しては、巨額の設備投資に見合った成果が得られないかもしれないというリスクもある。
米国については、金利の低下が必要となる可能性があり、それはコアインフレ率の上昇リスクよりも、経済成長や金融環境の悪化リスクの方が高いと思われるためである。米国10年国債の利回りは、インフレ率が9%であった2022年の水準を引き続き上回っており、イールドカーブもまた、特に短期ゾーンの利回りが想定していたよりも高く、ゆがんだままの状態にあると言える。一方、欧州については、大きな混乱があった2022年とは出発点がまったく異なっており、現在はインフレの落ち着きに加えて、超緩和から引き締めもしくは中立への金融政策の変更、さらにはガス価格の大幅な低下がみられる状況にある。
保険会社各社のバランスシートを調査する
レラティブ・バリューの追求が難しさを増す中、保険会社は創造的なバランスシート・ソリューションを模索していると言える。ABの見方では、住宅用不動産はキャッシュフローの変動リスクを許容することができる保険会社にとって、引き続き魅力的な投資対象であると考えられる。また、投資機会の評価にあたっては、パブリック市場とプライベート市場にまたがる包括的なアプローチが、強みを発揮するとABは考える。その上で、保険会社は資産と負債のデュレーションを引き続きマッチさせる必要もあり、そうしたALM(資産・負債の総合管理)の重要性は、自己資本規制が厳しさを増すアジアにおいて、より重要となる可能性が高い。
バランスシートの負債サイドについて言えば、北米では堅調な株式市場を背景に、2025年は個人年金保険、なかでも登録指数連動型年金(RILA)や伝統的な変額年金(VA)の販売が急増した。一方、2026年1-3月期の年金販売は、全体としてはより横ばいに近く、VAの販売が引き続き大きく伸びる中、定額年金の販売がそれを打ち消す以上の落ち込みを見せている。また、連邦住宅貸付銀行(FHLB)やFA(ファンディング・アグリーメント)担保証券(FABN)を通じたスプレッド融資がインカムを補完したものの、そうした融資に対しては、全米保険監督官協会(NAIC)や格付機関の厳しい目も向けられている。そして、英国では高金利を背景に、年金保険への需要が2026年も継続する可能性があり、欧州では保険金のインフレや再保険コストの上昇にもかかわらず、損害保険会社が引き続き安定した利益を上げると考えられる。また、中国については、2029年にかけて生命保険料の大幅な上昇が見込まれる。
ABの見方では、保険会社は今後も代替的な資本調達源を模索し続けるものと考えられる。「サイドカー」と呼ばれる再保険取引が増加し、多くのパートナーシップに資本が流入する中、資産運用会社も独自のオリジネーションや資産特化型のカスタマイズ・ソリューションの提供に力を入れている。なかでもアジア地域の債務に特化したサイドカー取引については、今後も増加を続けるとABは見ている。
保険会社におけるポートフォリオ構築の評価に際しては、資産の裏付けとなるリスクを企業、商業用不動産、住宅用不動産、消費者の4つに分類し、その上で5つの主要なリスクについて判断するのがよいとABは考える(図表1)。

デフォルト・リスクは低いがセクター間の差は拡大しつつある
デフォルト・リスクは比較的低水準にとどまっているものの(図表2)、次の段階としては、セクター間の差が広がる可能性が高いと考えられる。そうした中、ABはコーポレート・クレジットに対して、中立の見方を維持している。企業のバランスシートが安定し、借り換え圧力への対応負担も低下する中、2025年に上昇したハイイールド債のデフォルト率は、その後予想どおりの低下を見せている。

商業用不動産についても、ABの全体的な評価は中立であり、市場全体がデフォルト・サイクルに入るリスクよりも、個別銘柄リスクの方がおそらく高くなると考えている。それに対して、消費者ローンはよりぜい弱な状況にあるものと思われる。家計のファンダメンタルズが悪化し、低所得層への圧力が高まる中、デフォルト率は上昇に向かう可能性が高いと考えられる。そのため、消費者ローン・セクターについては、強気の見方から選別的な見方へと見通しを変更した。
一方、住宅用不動産については、相対的な魅力が際立っていると考える。デフォルト率が低い上に住宅市場のファンダメンタルズも追い風となっており、住宅価格の上昇が続いていることや中古住宅在庫が依然として歴史的な低水準にあること、さらには家計の純資産が過去最高水準にまで増加していることがその背景にある。一部の地域で市場への圧力が生じ始めるなど、いくつかのリスクはあるものの、市場全体の状況は比較的健全であると思われる。
格付け変更リスク:セクターごとに微妙に異なる動きとなる可能性
ABでは、格下げが市場全体に広がることはなく、格付けの動きはセクターごとに微妙に異なる可能性の方が高いと考えている(図表3)。米国企業に関して言えば、2025年は「ライジング・スター」よりも「フォーリン・エンジェル」の方が多かったものの、投資適格社債の格付けは総じて向上しており、指数全体のクオリティも高まっている。2026年は格下げ圧力が強まると見ているものの、実際の動きは今のところまちまちとなっている。ぜい弱性が見られるセクターもある一方で、社債や商業用不動産担保証券(CMBS)の格付けはよく持ちこたえていると言えるだろう。

コーポレート・クレジット全体については中立の見方を維持するものの、巨額のAI投資が必要な企業、財務レバレッジが過剰な企業、あるいはビジネスモデルがAIによる破壊的な変革の影響を受けやすい企業に関しては、レバレッジや格下げ圧力がさらに高まる可能性があると見る。また、AI分野のハイパースケーラー企業が、社債の供給過剰を引き起こすリスクもあると考える。一方、消費者ローンはさらに厳しい状況にあると思われ、ファンダメンタルズの悪化、ヘッドライン・リスクの高まり、さらにはタイトなバリュエーションのほか、不透明な貿易環境や消費財への関税圧力も引き続き逆風となっている。
商業用不動産については、クオリティの低いコンデュイット型に対して最も慎重な見方をする一方で、SASB型や商業用不動産ローンには投資妙味があると見る。また、住宅用不動産については、ファンダメンタルズが引き続き最も底堅く、キャッシュフローの変動リスクを許容できる投資家にとっては、バリュエーションも魅力的であると言えるだろう。全体として見れば、今後は格上げの動きも格下げの動きも正常化に向かう中、市場全体の悪化よりも発行体ごとの個別要因の方が、格付けに影響を与えるようになるとABは考えている。
キャッシュフローの変動リスクに関するシナリオ・テスト
2026年は金利変動の大きい環境が続いており、そのため金利感応度の高いセクターについては、複数のシナリオをベースにキャッシュフローへの影響を検証することが極めて重要となっている(図表4)。また、借り換えや当初想定された加重平均残存期間の延長が可能な構造を特徴とする資産も増えており、それらが満期一括償還型の伝統的な資産からシェアを奪っているとも言える。そうした中、投資家は金利変動による影響の評価に際し、金利変化とスプレッド変化の双方を見る必要がある。そして、資産間の相関や保険商品の負債特性も考慮した上で、キャッシュフローの変動リスクを分析するためには、適切なツールの活用が重要になるとABは考える。

保険会社のポートフォリオの大部分は引き続き債券が占めているものの、債券の流動性特性には変化も見られる。また、債券の構成比率は保険会社全体で低下しており、例えば米国の生命保険会社では、この10年で約76%から70%へと低下した。その一方で、プライベート債券の組み入れが拡大しており、市場のストレス局面や迅速なリバランスが必要な局面におけるポートフォリオの柔軟性は、低下している可能性があると言えるだろう。
投資家が考えるべき重要な問題は、「流動性が高い」とされる債券の実際の流動性、とりわけ市場のストレス局面における流動性である(図表5)。不安定な市場環境下では非流動性プレミアムが拡大する傾向があり、直近の2026年3月とは異なり、2025年4月には流動性が高い債券と低い債券のスプレッドに5ベーシス・ポイントの差が生じたこともある。そうした環境下では、クオリティが高い短期の資産担保証券(ABS)のほか、FHLBや連邦農業抵当公社(ファーマー・マック)、あるいはFABNなどの債券やコマーシャル・ペーパーの組み入れが、流動性の向上に役立つ可能性がある。また、売却候補資産のリストを常に更新するとともに、市場構造の変化に合わせて流動性プレミアムを定期的に見直すことが、ますます重要になっているとABは考える。

足元のヘッドライン・リスクを評価する
ここ最近はネガティブなニュースも聞かれるものの、プライベート・クレジットへの需要は引き続き底堅いと見られ、それは保険会社からの需要が落ち着いたとしても変わらない。確定拠出年金を含む一部の投資家は、プライベート・クレジットの組み入れが相対的にはまだ足りていないと考えられる。また、プライベート・クレジット関連のニュースはミドルマーケット向けダイレクト・レンディングをめぐるものが中心であり、デフォルトの多くは保険会社が選ぶことの少ない投資適格未満のローンに集中しているとも言える。
一方、米国経済の「K字」化(二極化)リスクについてもABは注視しており、ガス価格の高騰がそうした二極化に拍車をかける可能性があると考える。所得の伸びは「K字」の上の部分、すなわち所得が最も高いグループを除いて鈍化しており、個人消費やテクノロジー分野への民間投資の約半分は、そうした高所得層によって支えられている。また、2025年の経済成長を支えたのもそうした高所得層であり、非組合員のホワイトカラー職はAIの普及による影響を受けるリスクが最も高いと考えられるものの、それでも引き続き経済の主要な原動力となる可能性がある。
バリュエーション:スプレッドと構造が魅力的なセクター
現状、最も魅力的な投資機会は、住宅関連と消費者関連のリスク分野にあると思われる。欧州ではソルベンシーIIの枠組みが改正され、トランシェの優先度やクレジットの質、さらにはデュレーションの違いをより明確に反映する格好で、キャピタル・チャージ(リスクに対して求められる資本の量)のリスク感応度が高まることが見込まれる。その結果、一部のセクターの資本負担が軽減し、厳選された証券化商品のコーポレート・クレジットに対する魅力が高まることも考えられる。
ローン担保証券(CLO)は、その構造が投資家のメリットとなり得るセクターの好例である。担保となるローンのデフォルト率は上昇しており、ローン自体に対するABの見方は慎重であるものの、CLOについては、構造が安定しており、スプレッドも米国社債より魅力的であると見ている。また、政府系MBSについても、ポートフォリオに組み入れる価値があると考える。ここ最近のアウトパフォーマンスにもかかわらず、政府系MBSのスプレッドは依然として投資適格社債よりも魅力的であると思われ、銀行や米国外の投資家、さらには政府支援機関(GSE)などが、政府系MBSへの需要を支える可能性もある。そしてさらに広く見れば、住宅ローン・セクターの利回りは、米国社債全体よりも高い水準にあると言えるだろう。
セクターによってリスクは異なるものの、市場の底堅さが投資機会を生む可能性はある。ただし、スプレッドはタイトな水準にあり、より選別的にリスクを取ることが、保険会社にとっては有効な戦略かもしれない。保険会社は担保資産の分析や流動性の管理、さらには資産と負債のマッチングを慎重に行うことで、複雑な市場環境下でも魅力的な投資機会を発掘することができるとABは考える。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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当資料は、2026年7月29日現在の情報を基にアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーが作成したものをアライアンス・バーンスタイン株式会社が翻訳した資料であり、いかなる場合も当資料に記載されている情報は、投資助言としてみなされません。当資料は信用できると判断した情報をもとに作成しておりますが、その正確性、完全性を保証するものではありません。当資料に掲載されている予測、見通し、見解のいずれも実現される保証はありません。また当資料の記載内容、データ等は作成時点のものであり、今後予告なしに変更することがあります。当資料で使用している指数等に係る著作権等の知的財産権、その他一切の権利は、当該指数等の開発元または公表元に帰属します。当資料中の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。アライアンス・バーンスタイン及びABはアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーとその傘下の関連会社を含みます。アライアンス・バーンスタイン株式会社は、ABの日本拠点です。
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