- 株式市場は天気と同様に複雑なシステムであり、短期的な市場予測や直近のトレンドを将来へ単純に延長することには限界がある。
- 過去に高パフォーマンスだった銘柄や投資テーマは、その後も継続して市場をリードするとは限らず、勝ち組と負け組の入れ替わりは頻繁に起こる。
- AI関連銘柄への市場集中が進む中でも、市場に見過ごされている収益性の高い企業に投資機会が存在する可能性がある。
- 投資家にとって重要なのは市場ローテーションを当てることではなく、ファンダメンタル分析を通じて長期的に逆境に強い企業を発掘し、分散投資を行うことである。
市場がどのような状態にあったとしても、企業リサーチは確信度の高いポートフォリオの構築に役立つ。
株式市場は天気と同じくらい予測が難しいものの、それでも多くの投資家は、将来的な市場リターンのパターンが直近の市場動向の延長線上にあると考えがちである。一方、市場環境が激しく変動する今日、人工知能(AI)という厚い雲が企業利益の長期的な予測を困難にしている可能性がある中、投資家がそうした予測に確信を持つためには、ファンダメンタル・リサーチが有効であるとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考える。
気象学者でありカオス理論の第一人者でもあったエドワード・ロレンツは、1960年代に北半球の日々の気象パターンに関する詳細な調査を行った1。同調査においてロレンツは、北半球1,000地点の気象を5年間にわたって検証し、気温、気圧、降水量といった初期条件が非常によく似た大気状態の組み合わせを特定した。さらに、計測開始日以降、それらの状態がどれほどの速さでかい離していくかを測定した。
指数関数的に高まる天候の不確実性
そのデータを見たロレンツの画期的な発見は、極めて小さな予測誤差が指数関数的に増幅することもあり、そうした天候の不確実性は、約2.5日ごとに倍増する可能性があるというものである。簡単に言えば、計測開始日の気象状況に関する詳細な情報を持っていたとしても、その地点におけるわずか2週間後の天気がどうなるか、そこから予測することはできなかったということである。それはまた、ABの計算によれば、計測開始日から15日目の天候状態には、1日目と比較して約64倍の幅があったということでもある(図表1)。

また、テクノロジーの進化も天気の予測にはそれほど役立っていない。測定精度や衛星画像、さらには計算能力がたとえ向上していても、2週間後の天候予測がまったく信用できないことに変わりはなく、それは無数の要因が複雑に絡み合うのが天気であり、そうした複雑さを完全に克服することはテクノロジーをもってしても難しいためである。ただ幸いなことに、多くの人々はそこまで先の天気を事前に知る必要もないだろう。
一方、投資の世界においては多くの場合、2週間よりもはるかに先の予測が必要となる。それにもかかわらず、株式市場もまた天気と同じく、多くの独立変数がそのパフォーマンスを左右する、複雑なシステムなのである。そして株式市場においても、より多くの投資家がより早く情報を手に入れる上では、テクノロジーが大きな役割を果たしていると言える。しかしながら、テクノロジーの進化が投資家の確信度を高める可能性はある一方で、株式市場の予測はそれでも実際には、容易になっていないとABは考えている。
良好なパフォーマンスは長く続かないことが多い
株式市場のけん引役は長続きせず、過去のどの年を見ても、最もリターンの高い銘柄群がその翌年も市場をリードし続ける可能性は、他の銘柄群よりもわずかに高いだけである(図表2)。例えばモメンタム・ファクターについて見てみると、1999年と2000年は過去のパフォーマンスに基づく順位で上位10分位に入るリターンを上げたものの、その後の3年間は下位グループへと転落する結果となっている。また、ABのリサーチによれば、市場全体で見た場合、リターンが最も高かった銘柄群と最も低かった銘柄群のそれぞれ約30%が、翌年も同じ傾向を維持したのに対し、多くの銘柄は翌年は正反対の結果となった。それが株式のリターンにおける非対称性であり、過去の負け組企業であっても復活を遂げれば大きなリターンを上げる可能性がある一方で、過去の勝ち組企業はその成功がすでに株価に織り込まれているため、その後の期待リターンは低下するかもしれないのである。

人間は本質的に過去の実績に魅力を感じてしまうものであり、だからこそ常に「過去の実績は将来の成果を保証するものではありません」という注記が必要になるのだ。それにもかかわらず、投資家は自身がよく知る企業に自然と魅力を感じるものであり、そうした企業は通常、最も大きな注目を集める最も顕著な勝ち組企業であることが多い。例えば最近では、多くの投資家が流行りのAIトレードの波に乗り、実績に裏付けられた収益性よりも将来的な成長期待を追い求めている。
確かにこの数年、それは有効な戦略であったと言える。なぜならば、2024年以降はテクノロジー株が力強いリターンを上げ続けており、市場のパフォーマンスを支配してきた。その結果、市場の主導権が特定の銘柄群に異例なほど集中する状況を生み出している。
しかしながら、市場のモメンタムは熱しやすく冷めやすいものでもあり、今日では良いニュースも悪いニュースもすぐに株価に反映される。実際、2026年7月はテクノロジー・セクターにとって、極めて厳しい月となった。また、企業の株価というものは、ファンダメンタルズが示唆する以上に大きく上昇したり下落したりすることも多いのである。
市場のローテーションを予測するのは難しい
株式市場の転換点を正確に予想するのはおそらく不可能である。また、市場の転換点においてポートフォリオの力になるのは、過去の勝ち組銘柄ではない。そうした銘柄の代わりに、長期的な収益成長を支える魅力的なファンダメンタルズを有しながら(以前の記事『変動する市場でグロース株に投資し続けるべき3つの理由』ご参照)、互いに相関性の低い多様な企業群を、割安な価格で取得して保有することがポートフォリオの安定につながるのだとABは考える。元本の保全と資産成長の双方を重視する投資家にとっては、そうした分散投資こそが、リスク調整後リターンの安定性を長期的に高めるための最善の戦略であるとも言えるだろう。
そのためABの見方では、株式リサーチにおいては現在、深い思慮と先見性がこれまで以上に重要になっている。超大型テクノロジー銘柄の中にも優れた企業はあるものの、投資家はそうした企業の将来性に対して、高すぎる対価を支払わないよう注意すべきであるとABは考える。優れたリサーチに必要なのは、企業のクオリティや持続性、あるいは将来の絶対的な収益力に対する市場の評価が、大きく誤っていると考えられる状況を見極めることである。また、投資家はそうしたリサーチを重視することで、リスクに見合った投資成果が得られるか否かを評価できるようになるのであり、そのためには投資先企業の基本的なビジネスモデルを理解することが求められると言える。そして市場には現在、収益性は高いにもかかわらず、パフォーマンスの低迷が続いたことで、株価が割安となっている企業も多くあるとABは見ている。
企業リサーチにおける多角的な視点
市場を予測するには集団の動きを読む必要があるため、すぐに陳腐化してしまう可能性がある。一方、それとは対照的に企業リサーチは、企業の基本的な収益構造や競争力、さらには戦略的な選択肢を理解することを目的とした、継続的な規律に基づくプロセスであると言える。また、市場予測はひとつの具体的な結果を示すものであることが多い一方、企業分析は本質的に確率論に基づいており、より多くの情報をもとに幅広い長期的な可能性を評価するのに有効であると考えられる。
長期的な成長性が高い魅力的な企業であっても、現在はその多くが、ごく限られたAI分野の勝ち組企業の陰に隠れてしまっている。こうした傾向がこの先も続く可能性はあるものの、歴史が示しているように、極端な市場の集中が起きた結果、それまで見過ごされてきた分野に投資機会が生まれることもよくあることだ(以前の記事『半導体ブームが変える米国グロース株のリスク地図』ご参照)。安定的なポートフォリオの構築を追求する投資家であれば、AIブームの陰に隠れた健全な企業に対しても、十分なエクスポージャーを維持するべきであるとABは考える。
質の高いファンダメンタル分析は、株式運用において投資家がコントロールすることができる、数少ない要素のひとつである。そして、そのようなリサーチの目的は、市場のローテーションを毎回正確に予測することではなく、予測不能な市場の風がどちらに吹いたとしても、そうした時の試練に耐えられる、逆境に強い企業を発掘することである。
1 エドワードN・ロレンツ著「Atmospheric Predictability as Revealed by Naturally Occurring Analogues(自然に出現する類似物で明らかにされる大気の予断性)」Journal of the Atmospheric Sciences(大気科学ジャーナル)の26巻4号636~646ページ(1969年7月)
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