新興国市場は岐路に立っている。新型コロナウイルスが新興国の抱える問題を悪化させているのだ。しかし同時に、コロナ危機に堅実に対処できている国ではより安定的な経済基盤の構築が可能になっている。

新興国の当局は重要な政策決定に直面している。コロナ危機以前から続く景気停滞トレンドは、今や加速しつつある。急速な脱グローバル化と、さらなる債務の増加は避けられないだろう。これらの世界的なトレンドに歯止めをかけることは難しいが、新興国市場の中期的な成長予想や勝者と敗者の選別においては、新興国の対応策のスピードと質が非常に重要な視点となるとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では考える。

新興国の性急な経済再開の可能性

コロナショックの予測不可能な特性と深刻さゆえ、前例のない政策支援が正当化されている。コロナショックは人の命と生活に直接的な影響を及ぼす。新型コロナウイルスがもたらす経済負荷に対処する能力が限られている多くの貧しい新興国にとっては、この2つは密接に関連している。

つまり、新興国では、経済ロックダウンのコストが新型コロナウイルス感染拡大の抑制によるメリットを上回る時点が、先進国よりも早いタイミングで到来し得る。その結果、新興国は比較的早いタイミングで経済を再開する可能性があるとABでは考えている。尚早な経済再開はリスクを伴うかもしれないが、同時に、新興国諸国が相対的に力強い経済成長を達成する可能性が出てくる。

コロナ危機の初期段階では、世界的に深刻な景気後退と未曾有のパンデミックで新興国が対応を誤り、批判の的となった。流動性危機を緩和するための初期の政策の中には、曖昧かつ異色で非現実的なものがあり、状況を悪化させたものもあった。しかし、その後すぐに、国際社会による迅速な支援や公的な二国間債務の短期的救済策、スワップ契約による米ドル供給の促進、そして各国独自の政策対応を行ったことで流動性は改善した。

そして足元では、頼もしいことに、高利回りソブリン債の発行体が国際資本市場に戻り始めている。ただし、新興国経済がロックダウンから回復するのに伴う短期的なリスクは残る。全体としては新興国資産の中期的なバリュエーションは非常に魅力的であるが、国ごとに状況が異なるため、個別の分析が必要となるだろう。

債務救済の効果的な実施

新型コロナウイルス対応として、国際通貨基金(IMF)は多数の大規模な緊急融資プログラムを提供し、債務を抱える新興国の支援を強化した。G20の二国間債務救済措置では、対象となる低所得国に対し、追加的に一時的な返済猶予を認めることとなった。

しかし、G20は民間債権者に対しても同様の支援提供を要請していることから、投資家の間では若干の波紋が広がっている。法的・実務的に困難なだけでなく、意図しない結果を招くリスクもある。債務者の視点から見れば、信用格付けの引き下げや市場へのアクセス喪失の可能性もその1つである。そのためか、2020年5月下旬時点で二国間債務における返済猶予を要請した国は約 30%にとどまった。

しかし、貧困国の債務救済に関しては心強い前例がある。IMFと世界銀行は、貧困国が超過債務に陥らないことを目的として1996年に「重債務貧困国(HIPC)」イニシアチブを立ち上げた。その結果、債務返済負担が軽減され、経済成長が進み、社会支出のための財源が確保された。

今回の債務救済措置と同様に、HIPCイニシアチブへの民間債権者の参加は任意である。HIPCイニシアチブでは民間債権者の参加は多くなく、今回の債務救済措置でも同じように参加者は少数にとどまることが予想される。

包括的な多国間支援と公的な二国間債務救済措置は最良の解決策であるとABでは考えている。迅速に流動性を確保し、説明責任の基準を統一し、モラルハザードの防波堤を強化するからだ。このような基盤が整えば、民間債権者も新発債を購入し、新興諸国への流動性の供給に前向きになるであろう。

新興国中央銀行による慎重な政策選択の必要性

新興国の中央銀行は通貨安への対応として政策金利を引き下げている。過去最大規模の景気後退予想、強いディスインフレ圧力、多くの国で財政政策よりも金融政策に取り組み余地があることなどに鑑みると、賢明な判断であるといえる。また、先進国中央銀行が積極的な利下げを続けた結果、名目金利が下限のゼロに達したことでさらに政策の幅を広げようとしている状況においては、新興国中央銀行はより多くの金融政策余地を有しているといえる。

新興国の中央銀行が国債購入という未知の領域に踏み込むケースが増えていることは賛否があるところである。この手段を講じる動機はおそらく2つある。1つ目は、増大する財政赤字を補填することである。もう1つは、投資資金の制御不能な流出による債券市場の混乱を一時的に緩和するためである。

強気な観点からは、国債買入れが一時的なプログラムであれば、為替市場を中心にリスクプレミアムは縮小すると考えられる。しかし、より弱気な見方をすれば、このような異例の戦略が金融政策と財政政策の境界線を曖昧にすることで経済見通しは暗くなるだろう。ここでのリスクは、当初は技術的な専門知識に基づいた判断であったものが、政治的ツールに変わる可能性があることである。そのため、今回の債券購入プログラムが最終的には中央銀行の独立性の試金石になり得る。

量的緩和は今や先進国中央銀行にとって一般的な政策手段となっているが、金融政策と財政政策の協調がより困難である新興国で試みるにはリスクが高いと考える。中央銀行の債券購入プログラムへの意欲とその実施期間が、新興国域内の通貨の相対的なパフォーマンスを大きく左右すると考えられるからだ。

コロナ危機は革新への契機であり分岐点

新型コロナウイルスが経済に与える影響を完全に数値化するには時期尚早である。なぜなら経済再開のスピードと効果は不透明であり、また、既に経済停滞の長期的なトレンドが急速に進行している可能性が高いからである。

新興国経済は以前と変わらず先進国経済の動向に端を発するものとなるだろう。しかし、新型コロナウイルスは新興国に特異な課題をもたらしており、政策対応の質がこれまで以上に問われるかもしれない。政策の誤りは結果として格付けや資産価格におけるかい離を拡大させる可能性がある。

コロナ危機をきっかけにイデオロギー的な束縛から脱却する新興国では状況が好転する可能性があるが、同危機を隠れ蓑にして債務救済策に不当に便乗したり、リスクの高い異例の政策を採用する新興国では既存の問題が再発する可能性が高い。新興国の好転に懐疑的な投資家は潜在的な敗者には注目し続けているが、潜在的な勝者には十分な注意を払っておらず、このことが投資機会を生み出しているのではないだろうか。

 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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