企業文化がビジネスの成功に不可欠な要因であるという考えには大半の企業が同意するだろうが、企業文化がどのようなもので、何の目的に役立つかについては、企業によって大きく理解が異なるかもしれない。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では、それぞれの企業が自らの企業文化をどのように定義しているかにかかわらず、多くの企業にあてはまる本質を説明することは可能だと考えている。

例えば、ひとつの定義として、企業文化とはその企業の価値観を反映し、企業自体やそれぞれの従業員の行動を決定する信念や態度であると言うことができる。また、企業文化とは、中核的な価値観に基づく目的意識を事業戦略に反映させることによってビジネスを推進すると同時に、人材を惹きつけ、定着させることにも役立つものだとの見方にも、多くの企業が同意するだろう。

こうした考えの暗黙の前提となっているのは、企業文化が、その企業の中核的価値観に求心力を与えることで、市場や企業業績の好不調のサイクルを通して一貫性をもたらす持続的なフレームワークだという認識であろう。強固な企業文化や価値観を持っている企業は、中核的な信念を守りながら柔軟に環境変化に適応していくことができる。企業の伝統的な価値観と適応力との間には、必要なバランスと絶え間ない相互作用がある。強力な企業文化は、企業が正しい軌道を外れていないかを絶えず点検し、必要に応じて修正する力を持っている。

言い換えれば、企業文化は不変ではなく、進化していくものである。

二重のアプローチ: ボトムアップ型とトップダウン型

多くの企業は、異なる手法でそれぞれの企業文化を明確化し、その進化を管理しているようだ。ボトムアップ型の要素とトップダウン型の要素を組み合わせれば、強力な効果が得られる。ボトムアップ型の要素は企業の中核的価値観に由来するもので、顧客や他のステークホルダーとの日々のやりとりの中に現れる。トップダウン型の要素は、人事部門のリーダーを含む企業の経営陣や、企業全体に価値観を浸透・定着させるための仕組みから生み出される。

この2つのアプローチに共通する要素は「人」である。企業のあらゆるレベルにおいて、従業員はその企業文化やモデルを受け入れることや求められる行動を取ることを奨励され、そうする動機を与えられなければならない。これらの要素はすべて、企業が自社の企業文化を定義し、明確化し、変わりゆく環境にダイナミックに対応する能力を管理する上で重要な役割を果たす。

ABでは全てにおいて顧客利益を第一に考えることを信条としているが、それ自体は資産運用会社の中でも特別にユニークなことではなく、他社に対する差別化要因として捉えているわけでもない。ABの社員にとって、それは日々目指している目標として各自の行動を規定するものとなっている。それは、例えば、「顧客が部屋にいる」と考えることを通じて実践される。意思決定を下す必要があるときには、顧客が机の向かい側に座っていると想像してみると、特に重要な意思決定を行う際に、顧客の視点に立って考えるための優れた方法となる。

「顧客第一」の原則がABに深く根付いているのは、富裕層向けの資産運用サービスを提供する会社として創業された出自を反映している。長い年月を経て、企業文化の一部となっている。「顧客第一」というのは、優先課題として狭いように見えるかもしれないが、川の源流は下流の川幅よりも狭いという意味において狭いに過ぎない。何をするのか、どのような方法でするのか、自分たちの役割は何なのか、といったすべての考え方がそこから流れてくるからだ。

「カルチャー・キャリアー」に注目

中核的価値観を会社全体に浸透させるための鍵は、全てのチームや事業部門にわたりそれぞれの内部やそれらのグループ間で、目的、戦略、企業文化を一致させることである。これは、トップダウン型アプローチの重要な柱となる。

例えば、「ABの企業文化を促進し、包摂的な行動を示すこと」や「ABの価値観に合致した行動を取ること」と定義されている「カルチャー・リーダーシップ」要素は、従業員のパフォーマンスを評価し、昇進を決定するために用いられるABの「リーダーシップ・フレームワーク」を構成する5つの柱の1つとなっている。

ABの企業文化を最も積極的に支持してそれを受け入れ、率先して模範を示す「カルチャー・キャリアー」は、重要な役割を担っている。彼らは先頭に立ち、中心的な役割を果たす必要があり、社内で目立つ存在となる。また、彼らは日々の交流を通じて自分のコミットメントや情熱を他の従業員に伝え、耳を傾ける人々を増やすことで、その効果を増幅させている。

日々の活動以外でも、カルチャー・キャリアーの情熱を引き出し、トップダウン型のメカニズムを作り出すことによって、それを幅広く活用することが重要である。そのメカニズムを通じ、カルチャー・キャリアーは全社的に企業文化を浸透させ、それを長期的に強化するイニシアティブを開発することができる。メンバーは、バックグラウンド、スキル、会社における役割などからさまざまな異なる視点を持ち込み、ダイバーシティとインクルージョン(多様性と包摂性)を重視しなくてはならない。

それが、ABのカルチャー・アドバンスメント・チームの目標である。チームには人事部門のプロフェッショナルが加わっており、彼らは企業文化に基づく価値観を人材の採用、開発、長期定着といったあらゆる側面に取り入れる上で中心的な役割を果たしている。人事部門は採用プログラム、トレーニング、パフォーマンス評価、キャリア開発、従業員とのコミュニケーションなどを通じ、非常に大きな影響を与えているため、重要なインフルエンサーとなっている。これらすべての側面が、企業文化に関する要因と従業員を結びつける重要な役割を果たしている。

企業文化の継続性と進化

前述したように、企業文化の適応能力は、企業文化を永続させることと同じくらい重要である。どの企業の文化にも独自性があるが、企業が時間とともに進化していく過程においても、伝統的な遺産は強い影響力を持っており、安定をもたらす力となる。

ABの企業文化に目を向けると、機関投資家の伝統から生まれるチーム精神は、ABの投資プロセスを形成し続けるばかりでなく、職場や社会の変化を受け入れ、その恩恵を受ける一助にもなっている。ポートフォリオ・マネジャーやアナリストは、自らの才能や知見を発揮することを求められているが、重点は個人の成果ではなく、投資プロセス全体に置かれている。

ポートフォリオ・マネジャーは、活発で知的な議論を徹底的に行うことで、詳細な情報に基づく、確信度の高い投資判断を下し、優れた成果を生むことが期待されているが、このプロセスを後押ししているのはダイバーシティとインクルージョンである。上に挙げたのは運用部門におけるチームワークの一例にすぎないが、原理は多くの役割、企業、業界にわたるあらゆる共同作業にも当てはまる。

多様な観点が良い意思決定に

ABでは、これまでもさまざまなレポートで認識力やジェンダーに関するダイバーシティが資産運用にもたらす利点、あるいは好ましい意思決定や投資パフォーマンスにつながる可能性などについて記してきた。なお、ダイバーシティとインクルージョンに関しては、「ダイバーシティとはパーティーに招かれることで、インクルージョンとはダンスを求められることである」と考えると分かり易い。

ABでは、ダイバーシティを推進することは、より幅広い観点を持った人材を集め、より強力な投資チームを作り上げるのに役立つと確信している。しかし、同時にインクルージョンも取り入れなければ、ダイバーシティはうまく機能しない。顧客にとって良い運用成果を達成するためには、従業員が安心して自由に異なる意見を表明できなくてはならない。

また、掲げている企業文化(対面やソーシャルメディア等を通じ、社内外で表明しているもの)が、従業員や顧客の体験と一致したものであることも重要である。各個人のアカウンタビリティを重視し、あらゆる行動についてインクルージョンを優先する実力主義の企業文化を掲げているとすれば、従業員からのフィードバックはそうした体験を反映したものでなければならない。従業員が、これこそ自分の属する組織であると感じられるようでなくてはならない。

グローバルなアドバイザリーグループであるCoqualの調査によると、従業員が職場への帰属意識を感じるのに必要なのは、自分の貢献が目に見えるものであること、同僚とつながっていること、日々の仕事やキャリア構築に関し周囲にサポートされていると感じられること、組織の価値に誇りを持っていることなどである。

ABの企業文化が持つこうした側面をモデル化することで、ポートフォリオ・マネジャーは、チーム内の会話をより良いものにし、顧客に優れた成果をもたらす可能性を高めることができる。また、ダイバーシティやインクルージョンに関するABの慣行は、企業文化やビジネス全体を長期にわたり意義あるものに保つための重要な手段でもある。

コミットメントを行動で裏付ける

企業のリーダーは、企業文化の基盤となる価値感を常に自らの行動に反映させる必要がある。インフラストラクチャー、リーダーシップの構成要素及び枠組み、主なイニシアティブの実践は、企業文化の価値と一致し、それが促進されるように、常に指針に基づいて実施され、モニターされていなくてはならない。業界を問わず、すべての企業にとって、こうした整合性を実現する必要がある。

徹底したダイバーシティとインクルージョンを浸透させるためにABが取ってきた行動としては、取締役会を人種的に多様性のある構成とする方針の決定や地域コミュニティにおける社会貢献プロジェクトに加え、民族・性別・セクシュアリティ、その他の属性や関心などに基づく多数の社員リソース・グループなどが挙げられる。

ABは最近、ダイバーシティ及びインクルージョンの責任者をオペレーティング・コミッティーのメンバーに加えた。その目的は、会社の戦略的決定に重要な見解を反映させることにある。さらに、アジア太平洋地域の最高経営責任者(CEO)と人事部門の責任者を加えることによって、顧客重視の姿勢やリーダーシップのさまざまな側面に関するオペレーティング・コミッティーの分析能力を強化した。

ABはテネシー州ナッシュビルに本社を移転することで、従来とは異なる地域から採用した多くの新入社員に対し、企業文化を伝える必要性が生じた。企業文化は継続性を生み出す源泉で、将来の発展に向けた基盤となるほか、幅広い人材を引き寄せるリソースとなる。帰属感、価値観、地域社会へのコミットメント、経営陣の容易なアクセスなどを通じ、企業文化を共有し、進化させることを優先課題に据えてきた。

耐久力と柔軟性:将来のカギに

企業の移転は、間違いなく企業の耐久力に加え、企業文化の適応力が必要とされる事例である。世界的な新型コロナウイルスの感染拡大は、多くの企業の企業文化を試練にさらしており、企業文化を強化しながら新たな環境に迅速に適応することが求められている。ABの経験は、他の多くの企業が経験したことと同じだと思われる。

コミュニケーションの量とスピードが増大する中、オフィスの閉鎖、テレワーク、出張制限から、危機下の環境で従業員が業務に対処するのを支援する新たなウェルネス・プログラムの導入まで、さまざまなメッセージや行動、その目的に関する一貫性を保つため、企業文化に対する強い意識が求められるようになった。各国の拠点で事業継続(BCP)を担うチームは、それぞれの国の当局の方針や移動制限を常に把握し、その変更点を従業員に伝える必要が生じた。

管理職は、前例のない方法で従業員が自らの仕事や私生活を管理することを支援し、彼らを信頼する必要があった。また、従業員は、シニア・リーダーシップや経営陣が戦略、テクノロジー、業績について全社的な視点で意思決定を行っており、それが従業員や顧客の経験に好ましい影響を与えるものであると信頼しなければならなかった。

これらの行動はすべて、従業員が会社の企業文化に対し持っている期待や、顧客がABに期待していることと一致させる必要があった。そのためには、投資のパフォーマンスから市場分析、そして前例のない環境に適応する方法についての共通見解に至るまで、あらゆる事柄に関するコミュニケーションを伝えるカルチャーが必要だった。非常に多くの異なる発信元からのメッセージや行動の一貫性を保つ唯一の方法は、共有された企業文化に頼ることだった。

新型コロナウイルスのパンデミックは困難な経験だったが、逆境を乗り切るための重要な力としての企業文化の重要性を多くの企業に再認識させることになった。また、企業文化は職場の柔軟性やチーム及び個人の耐久力がこれまで以上に重要なものとなりそうなパンデミック後の未来に向けて、全員がビジョンを形成する上で役立つものでなくてはならない。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのAB IQ記事を日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら

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