新型コロナウイルスの次なる敵は?

コロナ禍が人々の生活にさまざまな影響を及ぼし続ける中、家計貯蓄が増加しているという。生活防衛による消費の手控えが背景にあるが、資産構成も一因にありそうだ。過去5年でみると、我が国の家計可処分所得は平均年率1.3%の上昇であるのに対し、日本の株価の上昇率は2.9%とこれを上回り、米国株式の上昇率に至っては13.8%とさらに高かった*。低金利環境はリスクをとった投資に追い風となり、投資資金が相対的に大きい富裕層・高所得層が最もその恩恵を受けたため、これが格差拡大の一大要因になっているとの指摘がある。

パンデミックの発生以降、格差はさまざまな観点から論じられてきた。医療サービスへのアクセス、経済活動停止が圧迫する労働環境。そして、その後ろには物価の上昇という新たなリスクも見えてきた。

物価の上昇は生活費を圧迫し、低所得層に最も打撃となる。家計にとって、防衛策はあるのだろうか? こうした中、資産運用会社には、物価上昇環境を適切にリターン獲得につなげるとともに、小口投資家向けの投資サービスを拡充することで、格差の拡大を和らげる役割を果たすことが求められているのではないだろうか。

これまでと違うパターンとなる「低金利と物価上昇」の組み合わせ

金利と物価上昇率には密接な関係がある。景気が良く設備投資や消費のニーズが高い環境では、金利が高くても貸し出しができるし、商品が高くても売れる。言い換えると、金利はカネの値段で、物価上昇率はモノの値段、どちらも経済活動に連動していると理解できる。したがって、本来は金利と物価上昇率は似たような動きをすることが多い。

ひるがえって足元の状況だが、コロナ禍の収束を迎えていない今、低金利の解消には無理があるだろう。2021年に入り金利が上昇に転じたと言っても、当局がどこまでの金利上昇を認めるかを横目で見ながらの相場だ。

しかし、物価については違う。金融市場ではインフレ圧力が強まるという見方が急速に強まっており、米国では2020年に大幅鈍化した物価上昇率についてパンデミック前の水準への回復が意識されている。日本と米国の物価上昇への警戒の違いが両国の金利動向、ひいてはドル円の為替レートへも影響する場面が出てきている。

物価上昇を想定する背景は、2020年の世界経済マイナス成長からの循環的な景気リバウンドだけではない。パンデミックとワクチン接種の綱引きに起因する循環的な商品価格の上昇に加え、米国と中国のサプライチェーンの組み替え(自動車用半導体の不足など)やクリーンエネルギーへのエネルギー供給体制のシフトといった構造要因もありそうだ。また、先進国では労働力人口の減少も広がり、人手不足の業種を中心に労働力の値段、つまり賃金のトレンドも上昇する可能性がある。

つまり、金利上昇は簡単には進まないが物価上昇はしばらく続くという、最近ではあまり前例のない事態が起きるかもしれない。このアンバランスはどのような影響をもたらすだろうか?

物価上昇の対処は自助努力に委ねられている現状

消費者の観点に立つと、物価が上がり購買力が低下するならば、貯蓄を取り崩すか追加的な労働収入や資産運用収益で補う必要が出てくる。また、長らく物価上昇のリスクが穏やかだったこともあり、マクロ・スライド制度の導入などを通じて年金の給付額は物価上昇がそのまま反映されるわけではないようになっている。言葉を変えると、年金受給者などにとっては、物価上昇を吸収することが難しい。また、銀行に預金することで得られる金利も市場の金利水準を参考として決定されることから、金利が上がらない中で物価が上がるという状況の解決にはならない。金利と物価上昇率のバランスが崩れるというゆがんだ事態において、生活防衛は個人の資産運用に委ねられていると言えるかも知れない。

資産運用商品の利便性に問題解決の鍵がある

物価上昇が購買力を押し下げる問題は、格差問題が今後も続く方向へ作用する可能性がある。リスク資産を押し上げマクロ的な金融環境を良好に維持する政策が採られる中では、投資に差し向けることのできる資産が相対的に多いほど資産形成に有利だからだ。しかし、パンデミックで傷を負った経済を浮揚する政策を直ちにやめることはできない。つまり、物価上昇が一時的に副作用を伴っても、それは必要悪と考えるしかない面がある。

だからこそ、資産運用会社は、小口投資家向けサービスの拡充に一段と努める必要がある。まとまった資金を対象としないサービスとして、具体的には、おつり投資やポイント投資といった手法が活用され始めている。こうした小口資金の活用手段は、若者世代と投資の接点を増やすことで、時間を使って資産を育てるという意識の浸透にも寄与するだろう。物価上昇というリスク環境の中で資産運用業界が進歩するチャンスも垣間見える。

物価上昇に立ち向かう資産運用とは

物価が上昇する環境をどのように投資リターンへつなげていくのか。これは「インフレ・ヘッジ」と呼ばれる分野であるが、先進国では90年代以降は物価上昇そのものが稀な状況であったことを踏まえると、古くて新しい挑戦という側面がある。従来は伝統資産の中で株式や物価連動債券にインフレ・ヘッジ効果があるとされてきた。しかし、現在の株式市場は既に最も金融緩和政策の恩恵を受けた資産の1つとなっている。また、物価連動債券は日本をはじめとして市場流動性の確保に苦慮しており、大規模な資産配分を振り向ける投資先として機能するかには疑問が残る。他方、物価の上昇がそのまま商品価値の上昇につながりやすいコモディティへの投資技術は今世紀に入って大きく向上しており、インフレ・ヘッジの有力な手段として取り込みが進むだろう。

物価上昇には地域格差が発生しやすいことを踏まえると、一貫して物価上昇に強い資産クラスを商品として提供するのではなく、上述のようなさまざまな手段を組み合わせてそれぞれの運用商品において機動的に対応することが求められる。したがって、物価上昇に対応する運用ソリューションを小口投資家に使い易い形で提供するためには、長年の運用経験の活用とグローバルかつ多様な資産クラスにまたがる運用体制の整備が改めて資産運用会社に求められるのではないだろうか。

*2020年12月31日現在。日本の家計可処分所得は名目ベース。日本の株価はTOPIX。米国株式はS&P 500指数(為替ヘッジ考慮前)。 出所:米国経済分析局、内閣府、ブルームバーグ、アライアンス・バーンスタイン(AB)

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