多くの投資家は、2013年の「テーパー・タントラム」(米連邦準備制度理事会(FRB)の量的緩和縮小観測に伴う市場の混乱)の経験を踏まえ、FRBが今後数カ月のうちに債券購入額の削減を開始する可能性に注目している。FRBは、あの突然の政策転換に対する市場の反応の悪さから教訓を得たため、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)ではテーパリングが市場のボラティリティを過度に引き上げるものになるとは考えていない(以前の記事『FRBはテーパリング着手へ向かう・・・だが「タントラム(市場の動揺)」の懸念は小さい』ご参照)。しかし、テーパリングそのものは近いうちに実施されると考えている。
 
ここでは、テーパリングにまつわる4つの大きなポイントについて、ABの考えを紹介したい。
 

FRBはいつテーパリングを開始するのか?

実際にテーパリングが始まるまでは、市場がテーパリングを素直に受け入れるかどうか、確信を持てない。2020年12月、FRBは雇用と物価安定の目標に向けて「実質的にさらに前進」した後にテーパリングを開始することを示唆した。
 
物価安定目標についてはインフレ率が目標値を上回っているため、この段階では、労働市場が重要になる(図表1)。米国経済は2021年7月だけで100万人近くの雇用を生み、年初からは400万人近くの雇用を増やしている。特に好調な8月の数字は、9月のFRB会合でのテーパリング発表のきっかけになるかもしれないが、新型コロナウイルスのデルタ株が労働市場へ及ぼす影響が不透明であることを考えると、様子見のスタンスになる可能性が高いと考えられる 。
 
2021年も引き続き堅調な雇用の伸び.png
 
しかし、現在見受けられる兆候からは、デルタ株が労働市場を混乱させることはないとみており、夏から秋に変わる頃も回復傾向が続くとABでは予想している。この評価に基づき、ABでは、2021年10-12月期に開催されるFRB会合のいずれかでテーパリングの発表が行われると引き続き予想している。
 

FRBはどのようにテーパリングを行うのか?

FRBの優先事項は市場の混乱を避けることであり、2014年に成功したテーパリングが今回のアプローチを描くための論理的な出発点となっている。しかし、今日の資産購入の構成は異なっている。FRBは毎月、米国国債を800億米ドル、住宅ローン担保証券(MBS)を400億米ドル購入している。2014年の購入額は、国債が450億米ドル、MBSが400億米ドルと、よりバランスのとれたものだった。
 
FRBにはテーパリングを行う上で2つの選択肢があるとABでは考える。1つ目は、2014年のように国債とMBSの購入額を均等に減らすことで、国債の購入が停止する数カ月前にMBSの購入が終了するアプローチだ。2つ目の選択肢は資産によって傾斜をつけるテーパリングで、国庫の購入額をMBSの購入額の2倍の速さで減らし、2014年のように両方のプログラムを同時に終了させるアプローチとなる。
 
FRB理事メンバーの中には、すでに高騰している住宅市場への支援を減らす手段としてMBSの購入をより早く停止するため、均等に削減することを提唱する者もいる。しかし、より影響力のある理事を含む他のメンバーは、同じような切迫感を感じていない。彼らは、第2の選択肢である傾斜をつけたテーパリングを提唱している。市場の期待は、この傾斜のアプローチに集まっている。
 

今回のFRBのテーパリングのスピードは?

2014年、FRBは1月にテーパリングを開始し、10カ月後に終了した。そのため、今回も同じペースで国債購入額を毎月100億米ドル、MBS購入額を50億米ドル削減することになると予想する人が多いのも不思議ではない。これは合理的なベースラインの予想と思われるが、一部の米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーは順調な景気拡大とより積極的な財政政策を考慮し、より迅速なテーパリングに傾いている。
 
上述のように、FRBは毎月同額の国債とMBSを売却し(例えば100億米ドル)、MBSの購入が終了した後は、国債の購入額を毎月200億米ドルずつ減らして、全体的な削減ペースを均等に維持することができる。または、中央銀行はこの削減ペースを加速することもでき る。例えば、毎月、国債の購入額を150億米ドル、MBSの購入額を75億米ドル減らすといったアプローチだ。
 
もう1つ考慮すべきポイントは、FRBが途中でペースを調整することを選択するかだ。例えば、最初はゆっくりとしたペースでスタートし、経済状況に応じて加速していくというアプローチを取ることもできる。FRBは理論的にはテーパリングのペースに柔軟性があることを示すと考えられるが、実際には、前回同様、途中で変更するためのハードルは比較的高くなるとABでは予想している。とはいえ、現時点ではテーパリングの方針が何も決まっておらず、その方針も状況により計画が変更されるケースがあることには、投資家は留意するべきだ。
 

QE後に何が起こり、何が起こらないのか?

金融政策の観点から見た量的緩和(QE)の最も強力な部分は、シグナリング効果であるとABでは考える。つまり、投資家はQEを行っている間はFRBが利上げを行わないと想定している(事実、そうなるとABは確信している)。QE期間中、政策金利はゼロにとどまり、金利はおおむね低水準で推移するという市場の極めて高い信頼が、市場と米国経済の両方を支えている。
 
FRBは、QEの終了に伴う利上げの可能性は低いと何度も指摘している。2014年10月のQE終了から2015年12月の最初の利上げまでの期間は1年以上あったが、急速な成長とインフレの加速を考慮すると、今回はおそらくその期間が短くなる可能性がある。市場では、最初の利上げは2023年の1-3月期と見られており、テーパリングが終了するであろうと考えられる時期から約6カ月後となっている。ただしこれは非常に先のことを話しており、状況が変わる可能性はもちろんある。
 
FRBのテーパリングと利上げの間の期間は2014年とは異なるかもしれないが、QEには変わることのない重要な点がある。それは、FRBがすでに購入した債券を売却して、膨大な証券ポートフォリオを市場に放出する可能性は極めて低いということだ(図表2)。
 
膨大なバランスシートにより、FRBは金融市場の主役となる.png
 
世界金融危機の後、FRBのバランスシートは1兆米ドルから2兆米ドルへと倍増し、その後も急成長を続け、新型コロナウイルスのパンデミックが始まる直前には4兆米ドルを突破した。パンデミックへの対応でFRBのバランスシートはさらに倍増し、現在では8兆米ドル強となっている。FRBは中央銀行であるとともに、主要な債券投資家としても市場に大きな影響を与え得る存在となっている。
 
つまり、QEが比較的短期間で終了する可能性があるとしても、FRBは今後何年にもわたって米国の金融市場の主要なプレーヤーでありそのポートフォリオ動向に注意を払う必要がある。
 
 
 
 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら。

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