欧州中央銀行(ECB)は、2022年3月10日の理事会で、予想よりも早く資産購入プログラムを終了させるというテーパリングの加速を発表して市場を驚かせた。一部の理事から忍耐の必要性を示唆するコメントが出ていたこともあり、多くの投資家は、ECBが少なくとも次回の政策決定会合まで買い入れ額の変更を延期すると予想していた。

 

ECBの新しい計画では、資産購入額を4月に400億ユーロ、5月に300億ユーロ、6月に200億ユーロに減らすことになっている。このため、不測の事態が発生しない限り、2022年7-9月期に資産購入プログラムは終了する可能性が高い。そうなると、すぐにでもECBは利上げに踏み切ることができる。

 

テーパリングを加速することは時期尚早だろうか?

ECBはこの決定について、1)何もせずに成り行きを見守る、2)さらに悪化しそうなインフレの高騰に対しより積極的に対応する、という両極端の政策の中間を取ったものと位置づけている。インフレへの対応はECBの重要な任務であり、ECBはあらゆる状況に対する対応策をもって備えを続けたいということだろう。

 

足元の経済環境が金融政策を策定する上で難しい局面であることには疑いがない。しかし、今回の決定については次回の政策決定会合まで先送りをしても、ECBの選択肢を狭めることにはならなかったとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考えている。この時点でタカ派的な態度をとったことで、ECBはすでに急速に悪化している経済状況を、さらに悪化させるリスクを負った。    

 

当然ながら、タカ派的なサプライズに対する市場の反応は、金利の上昇、周辺国スプレッドの拡大、株式の下落であった。これらは金融環境の悪化を意味する動きで、現在の経済状況には望ましくないものだ。金融市場が好調であったことは過去数四半期にわたり欧州と世界の成長を支える重要な柱であり、逆に金融環境が悪化すれば今後の成長見通しも悪化へ向かう。特に周辺諸国のスプレッドの上昇は、エネルギー価格の上昇による実質所得への大きな打撃に直面し地域経済を支援する立場にある周辺国政府の財政余力を脅かすものである。

 

ユーロ圏の景気後退のリスクは高まっている

まだ不確定要素は多いが、ロシアのウクライナ侵攻とECBの金融緩和の縮小が相まって、ユーロ圏がこの後景気後退局面に陥るリスクは50%を超えたとABでは考えている。したがって、今後数四半期の内に景気後退が起こるというのがABの基本ケースであり、以下にその根拠を列挙する。 

 

1. ウクライナへの軍事侵攻以前から、ユーロ圏の消費者は物価上昇に対応するのに苦慮しており、実質的な、つまりインフレ調整後の給与総額は縮小し始めていた(図表1)。

 

2. エネルギー価格の高騰がすぐに収束しない限り、インフレ率の上昇と実質所得の減少を招き、ユーロ圏の消費者には厳しい見通しが待っている。

 

3. ヨーロッパが通常ロシアやウクライナから輸入しているエネルギーやその他の商品について、流通や分配量が不足する可能性がある。

 

4. 供給不足、物価上昇、そしてもちろん戦争そのものが組み合わさって、経済活動への意欲が鈍化する可能性がある。

 
ユーロ圏の実質所得はすでに低迷している.png
 

ユーロ圏は差し迫った需要不足に直面しており、タカ派的ではなくハト派的な金融政策が必要だとABでは考える。現在の状況は、2011年のECB利上げのケースに多くの点で類似している。このときも、政策当局はエネルギーショックに対応するために利上げを行い、その結果、景気が悪化に転じたというケースと多くの点で類似している。その年の終わりには、ECBは再び利下げに舵を切ることとなった。

 

ここからの道

現時点では、確実に景気後退に陥ることを予想するまでには至らない。軍事的な緊張関係が短期間で解消されれば、貿易が再開され、エネルギー価格が下落に転じる可能性あるだろう。または、ユーロ圏の首脳が消費者支援のための大規模な財政措置に合意する可能性もある(ただし、昨今の金利上昇により、この措置はより負担が大きいものになった)。もちろん、ECBは利上げが不可避でないことも明言している。

 

ユーロ圏の成長を示す最良の指標である購買担当者景気指数(PMI)調査(図表2)からは、現在のユーロ圏の景気は比較的堅調であることがわかる。しかし、この時点では戦争とエネルギー価格急騰の両方がデータにまだインパクトを与えていない。今後はPMIが急激に低下し、欧州経済もそれにそった減速を見せていくとABでは予想する。

 
好調なPMIは、戦争とエネルギー価格の高騰をまだ反映していない.png
 

もちろん、現在進行中の欧州首脳の対応によって、その様相が変わる可能性はある。例えば、財政改革が行われれば、現在の経済環境におけるネガティブな要素をある程度相殺できる可能性が高い。景気刺激の合意に至らない場合は、ユーロ圏の経済見通しの改善は地政学的な状況次第ということになりそうだ。 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら。

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