・投資家がポートフォリオのボラティリティを低く抑えることができるかは、株式と高格付の債券(つまりデュレーション要素)が相互に分散するか否かに従来から左右されてきた。
 
・新型コロナウイルス感染拡大(パンデミック)に続いて浮上した物価上昇と金融政策に関する局面(レジーム)の転換により、そうした分散が今後も続くかについて疑問が生じている。長い歴史を振り返ると、株式と債券は概して正相関の関係にあった。つまり、この20年が異常な現象であったようだ。
 
・本稿では、株式・債券の相関関係の決定要因について経験と理論の両側面から考察を加え、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)が現在のレジームが変化すると考える理由を論じる。数十年ぶりに均衡インフレ率の上昇(およびインフレ率のボラティリティ上昇)が現実味を帯びてきたことで、株式リスクを分散する債券の能力が根本的に変化している。
 
・株式・債券の相関が強まるということは、株式・債券の実質的逆相関により今まで隠されてきたポートフォリオのデュレーション問題を、複数資産に分散する投資家が抱えることを示唆する。
 
・この数十年、逆相関によってポートフォリオのボラティリティ低下がもたらされたが、同時に退職後資金の運用リスクの個人への移転も進んだ。これにより、個人がこのリスクをどのように捉えるべきかという重大な疑問が生じ、そして長期的な実質リターンを重視する姿勢が強まっている。
 
・こうした相関に関するレジームの変化を受けて、債券内外での新たな分散の源を模索する動きが活発化しており、非流動資産へ資金を振り向ける動きが強まると考えられる。また、頻度の低い評価額の更新がどの程度、分散効果を水増しするかについての議論も求められるほか、ファクター投資を含め他の分散手段を検討する必要性も生じている。
 
・ABは、仮に相関が正常化した場合に分散効果を強化するためにはアロケーションの見直しがどの程度必要になるかを評価し、そしてどの資産に振り向けるべきかを考察する。
 
分散はよく取り上げられる話題であり、これまでも投資家は長期的な相関レジームの変化の可能性とそれがポートフォリオ構築に与える影響に対処してきていたが、この数年でその緊急性が一層増している。本稿ではまず、4つの端的な指摘を行う。
 

1. この20年は実に異常であった

この20年は、長い歴史に照らすと極端に特殊な状況にあった(図1)。18世紀における株式・債券の相関の決定要因に関する議論に深入りするつもりはないが(そうした歴史の関連性には議論の余地がある)、この20年は異常な状態が続いていた。ここ数年のデータは、大半の投資手法の土台になるため軽視すべきではないが、変化が生じる時に将来の指針としてここ数年のデータに過度に依存することをABは危惧している。
 

図表1 rev.png
 
 
クオンツ分析ではパンデミックはレジームの転換ではないとの論調があるが、パンデミックがレジームの転換のうちに入らないのであれば、何がレジーム転換として数えられるだろうか。自分はもはやクオンツの専門家ではないと本稿の著者が宣言した理由の1つがこれである(以前のリサーチペーパー 『Are We Human or Are We Dancer?』(英語)ご参照)。そうした点に鑑み、さまざまな経済的・社会政治的レジームを網羅する長期的なデータを得ることが重要であるとABは考える。そうした場合、株式・債券の相関関係は、逆相関よりも、ほぼ無相関か場合によっては若干正相関になる可能性の方が大きいと考えられる。
 

2. 仮にこの異常な株式・債券の逆相関がなかったら、単純なマルチアセット・ポートフォリオのボラティリティは著しく高くなっていた

この数十年、単純な60/40戦略(株式60%、債券40%のアロケーション)は優れた運用成果を達成してきた。実を言うとこの戦略は、ほぼパッシブ運用の既定のアロケーションを受け入れるという投資の経験則から発展したものである。この経験則は誤った考えであり、そうした経験則はまったく成立しないが、60/40ポートフォリオの成功が、このように伝聞されることを可能にした。ABは他の機会でそうした手法のリターンは低くなるとみており、ここではそのリスクに焦点を当てることにする。
 
図2に、パッシブ運用の米国株60%と米国10年国債40%から成るポートフォリオの実現ボラティリティを示した。また、株式・債券の相関関係が、逆相関ではなく、過去150年の長期平均、すなわち相関が0.13であった場合の同ポートフォリオに係るボラティリティも示した。
 
図表2-new.png
 

2000年代初めまでは、それら2つの時系列データは互いに近い水準で推移していた。しかし2001年を境に、株式・債券の相関が逆相関に転じるなか、それらの軌跡は非常に異なるものとなった。その結果、60/40の実現ボラティリティは、相関が過去平均だった場合のボラティリティよりも大幅に低くなっている。過去10年で見ると、実現ボラティリティの平均は8.2%だった一方、過去の平均相関を用いた場合の同期間におけるボラティリティは9.5%であった。
 
逆相関はこの数十年のあいだポートフォリオ・リスクを低水準に抑制した一方、同時に退職後資金の運用リスクの個人への移転も生じている。同移転の理由は、株式・債券の逆相関というより企業や政府の政策選択に由来する。しかし、個人へのリスクの移転は、主要資産クラスの優れたリターンによって容易になった面があり、この投資モデルに内在する過大な分散効果に導かれて、何が適切なリスク尺度であるかについて諸所の見方が生まれ、現在ではそれらの見方が定着している。
 
こうした状況により、個人がこのリスクをどのように考えるべきかという重大な問題が生じている。突き詰めて言えば、その問題は、どのくらいの投資期間を想定すべきかという問題と切り離すことはできなく、よって、長期的な実質リターンとそれに適したリスク尺度に焦点を当てる動きが強まると考えられる。つまり、リスクを観察された実現ボラティリティではなく、特定の成果達成を逃す確率と定義するようになるだろう。
 

3. アクティブ運用からパッシブ運用への循環は特定のマクロ環境が基盤になった面がある

この12年間でアクティブ株式運用からパッシブ株式運用へ正味ベースで2兆5,000億米ドルが流出した背景には3つの理由がある(図表3)。一つ目は、一部のアクティブ運用会社が実はインデックス運用型であり、アクティブ運用の報酬を受け取る資格がないことが判明した点である。ファンド選定担当者がそれらの運用会社を避けることに多くの注意を払い、それらの運用会社から大量の資金が流出した。二つ目は、この期間中、株式と債券のいずれもがインフレ率を大幅に上回るリターンを記録したことである。多くの投資家にとってインフレ率は暗黙のベンチマークであると仮定した場合、ベータによる豊富なリターンで投資家のニーズを満たすことができた。よって、少なくとも今になって考えれば、エージェンシー・コストやリサーチ・コストを負担してまでアルファを得る必要性が低かった。
 

図表3new-.png
 
三つ目の理由は他の2つより漠然としており、投資業界の構造ではなくマクロ的な投資環境に関係する。2大流動資産クラスにおいてパッシブ・ポジションをとることでひと際大きな分散効果を実現することが可能であったことと時を同じくして、アクティブ運用からパッシブ運用への循環が生じたことは偶然ではない。債券と株式のいずれもがインフレ率を優に上回るリターンを実現するのであれば、アクティブ運用の高い報酬を負担する理由があるだろうか。一方、今後は両資産クラスの実質リターンは低下する見通しであり、こうした単純なパッシブ運用がリターンの面で機能しなくなる可能性が浮上している。加えて、分散効果が不足するとの見通しもあり、パッシブ運用は今後、より一層困難な局面に直面するだろう。
 
株式・債券の相関を巡る見通しに変化が生じると、それに押されてアクティブ運用とパッシブ運用の議論は新たな段階に入るだろう。ABはかねてから、パッシブ運用が過度になされて限界に達する時はいつかという質問をいただくことがある。この質問には若干見当違いの面があるとABは考える。市場の効率性や経済全体の資本配分を原因とする制限は、まだかなり先の話である。むしろ、アセット・オーナーやファンド選定担当者が、現在の投資手法は分散効果の喪失が主因となって機能しないと気付いた時に、それらの者から限界が生じる公算が大きい。
 

4. 複数資産に分散する投資家はデュレーション問題を抱えている

この課題の重要性は、投資家が直面しているデュレーション上の問題の程度を示すことでも明らかにできる。この数十年にわたり債券利回りは低下傾向にあったため、例えば米国10年国債など特定ポジションのデュレーションは機械的に長期化した。これを受け、債券の組入比率の高いマルチアセット・ポートフォリオのデュレーションも長期化したと思われるかもしれないが、実はそれほどでもない。
 
こうした点を実際のデュレーション、すなわち10年物利回りの変動に対応する価格の一階微分を用いて示すことができる(図表4)。これを基礎とすると、大きな負の値は、従来の意味での長期デュレーションを意味している。つまり、利回りの上昇はマイナス・リターンを引き起こす。図表4において下の線(債券デュレーションの10年移動平均)が低下しており、10年国債のデュレーションがかつてないほど長期化していることがうかがえる。60/40のポートフォリオを示す中央の線にはそうした変化が表れておらず、この10年横ばいで推移している。
 

図表4.png
 
株式・債券の非常に強い逆相関へのシフトに伴い、株式のデュレーションの符号が変わり、債券のデュレーション長期化を相殺していることが分かった。株式・債券の相関が再びゼロに近づくのであれば、この吸収効果は消滅し、単純なマルチアセット・ポートフォリオのデュレーションは長期化するだろう。このシフトは、金融政策の性質と方向性に関してこれまでにないような長期的不確実性が存在するのと時を同じくして、ポートフォリオの金利リスクを高める可能性がある。
 

相関が強まるリスクがなぜ今存在するのか?

コロナ禍後の環境においては、株式と債券の歴史的に見て都合のいい分散効果はもう当てにできない可能性があると確信をもって指摘できるとABは考える。こうした行く末が2022年初めに観察され、株式と債券は正相関となった。誤解のないように言うと、ABの焦点は戦術ではなく戦略であるが、今回は今後の成り行きを先取りして体験した可能性がある。株式・債券の相関は短期的に不安定になっているが、ここでABが注目している疑問は、「リターンの源泉の分散を模索するなかで目先の利益を得るためのポートフォリオの急激な見直しを検討したくない投資家にとって、今後10年、相関水準の平均はどの程度になると予想されるか」という点である。
 
大きな環境の変化として、コロナ禍後の時代に入るにしたがい、長期的にインフレ率が上昇することが数十年ぶりに現実味を帯びてきた。さらに、インフレ率のボラティリティも上昇することが見込まれる。以下では、この見通しは株式・債券の相関にも影響を及ぼす可能性があることを経験的観点と理論的観点の両方から説明する。この見通しは、本当にコロナ禍後の新しい見通しなのかと疑問に思う人もいるかもしれないが、レジームの転換が生じたとABは考えている。この話題については他の機会でとりあげたため、本稿では取り扱わない。『 Assessing the Inflation Trajectory—and Portfolio Responses』(英語)にて均衡インフレ率が上昇するとの見方を示したほか、『 Are We Human or Are We Dancer?』(英語)では投資環境が広範にわたり恒久的に変化するとの認識を概説した。
 
本稿では、相関にとって重要であると学術文献にて特定された作用をいくつか検証したうえで、ABによる実証的分析の結果を示すことにする。
 
理論上、株価と債券価格は、共通の要素を共有する割引モデルによって決まる。これを枠組みとして用い、どの作用がそれら資産の相関を強め、どの作用が弱めるかを考えることができる。株価と債券価格の計算式は次のように表すことができる。
 
<株式>
 
Kabuka
 
ただし、Pは株価、gは配当(D)の期待成長率、ERPは株式のリスク・プレミアム、Dは開始時の配当水準、Yは国債利回りとする。
 
そして
 
<債券>
 
債券_数式1.png
 
ただし、Pは債券価格、Cは債券の利率、Yは割引率とする。
 
株価と債券価格は、関係するリスク・プレミアムを考慮に入れた率で割り引いた、期待される将来キャッシュフローの現在価値に当たる。国債はキャッシュフローが確定しているが、株式の配当は不確定であり、配当の期待成長率は価格評価に重大な影響を及ぼす。よって、株式と債券はいずれも割引率が不確実である一方、マクロ経済情勢に対する感応性は互いに異なり、これが相関を正にしたり負にしたりする。
 
オーストラリア準備銀行のEwan Rankin氏とMuhummed Shah Idilat氏は、株式・債券の相関の決定要因に関する概要にて割引キャッシュフロー・モデルを用いている1。具体的に言うと、成長ショックとインフレ・ショックの影響、そしてこれら変数の不確実性に着目している。成長率とインフレ率に関する期待の変化が、配当と金利の予想に反映されている。経済成長が力強くインフレ率が上昇すると、将来的に金融政策が引き締められることが予想されるため、金利上昇予想に繋がる。また、こうした状況の影響で、企業利益の予想も引き上げられるため増配予想となる。
 
したがって株式・債券の相関に対する最終的な影響は、期待配当が割引率に照らしてどの程度変動するかに左右される。成長ショックは期待配当に大きなプラスの影響を与えるはずだが、金利には間接的な影響しか及ぼさないため、株価は上昇する一方で債券価格は下落し、逆相関が生じるはずである。インフレ・ショックは金利を直接押し上げる一方、配当に対するプラスの影響は(企業による価格転嫁力に左右され)限られる可能性がある。この想定は両資産クラスの価格を押し下げるはずであり、その結果、正相関になる。成長見通しを巡り不確実性が高まると、株式のリスク・プレミアムが上昇するため株価は押し下げられるが、債券価格にはプラスに作用する。インフレ率を巡り不確実性が高まると、株式に関する割引率と債券利回りに関するターム・プレミアムの両方が押し上げられ、相関が強まる。Rankin氏とIdils氏による、米国、英国、オーストラリア、日本における株式・債券の相関に関する1900年代からの長期間の時系列データからは、正相関が20世紀の大半にわたり標準であったことが分かり、この20年間の逆相関がどれだけ異常であったかが明確に分かる。
Antti Ilmanen氏の分析は、株式と債券のリターンを決定する4大要因、すなわち「景気循環または成長見通し」「インフレ環境」「ボラティリティの状況」「金融政策の姿勢」に焦点を当てている2。この仕組みに基づくと、経済成長を巡る見通しが明るいときは、期待配当成長率が上昇するため株式にはプラスに作用する一方、債券は恩恵を受けないため、逆相関が生じる。
 
高いインフレ率は債券にとっては明らかにマイナス要因である一方、株式への影響は直線的ではない。インフレ率が低いときは、割引率は比較的安定して推移し、正の期待配当成長率が優勢になり、その結果として相関は低くなる。インフレ率が高いと、共通する割引率の変動が株価と債券価格の両方に大きな影響を及ぼし、その結果として正相関が生じる。高いボラティリティは株式から国債へという質への逃避を促し、相関は逆相関に転じる。Ilmanen氏はまた、金融政策の緩和は株式と債券のいずれのリターンにもプラスに作用すると示している。
 
Ilmanen氏は主に米国に焦点を当て、日本とドイツには簡単に触れただけである一方、Lieven Baele氏とFrederiek Van Holle氏はこの分析を広げ、10の先進諸国市場から成る標本を用いた3。彼らは金融政策の重要性を指摘し、インフレ率と成長率のレジームにかかわらず、金融政策が引き締め的の時は相関は必ず正になることを示した。
 
他方、緩和的な金融政策が講じられる期間は逆相関を伴うが、それもインフレ率が低い期間に限られる。G7市場を検証したLingfeng Li氏は、長期的な期待インフレ率に関する不確実性と株式・債券の相関の間に強い結びつきがあることを発見した。つまり、インフレ懸念が高まると、株式と債券は正相関する傾向があることを見出した。同研究によるとまた、実質金利に関する不確実性と予想外のインフレ率も株式と債券の連動を促すが、その程度はいくらか小さい。
 
ABによる実証的分析は、これら学術論文の結果と酷似している。ABは、1970年代からの米国株式と米国国債のリターンに係る相関の5年移動平均の主な決定要因を検証した。ABの最もパラメータ数が少ない倹約モデルでは(図表5)、10年国債の実質利回りが統計的に最も有意な変数であり、株式と債券共通の割引係数が反映されている。ベータ係数は正の値であり、割引率の上昇は株式と債券のいずれにもマイナスに作用し、正相関を生じさせる。期間10年のブレークイーブン・インフレ率にはインフレの影響が反映される。先に概説したとおり、インフレ率の上昇は債券のリターンにとってはマイナスであり、またインフレ率の急激な上昇は同時に株式のリターンをむしばみかねないため、株式・債券の相関と正の関係にある。
 
図表5new.png
 
債券ボラティリティに対する株式ボラティリティの比率の係数が負になっていることは、株式のボラティリティが高いときは投資家が債券を選択するという質への逃避が反映されている。景気循環や成長期待の指標である鉱工業生産も、正の係数を有する統計的に有意な変数である。株式・債券の相関と正の関係にあるというのは、成長を巡るプラス材料は株式と債券のリターンのかい離を引き起こすという経済の原理に逆行する。原理によると、期待配当成長率は上昇する一方、債券は恩恵を受けないどころか、場合によっては利回り上昇観測により打撃を受ける可能性すらある。しかし、係数はほぼゼロであり、成長期待と利回り上昇観測は10年物の実質金利とブレークイーブン・インフレ率に既に一部反映されているのだろう。
 
ABの見立てでは、政策当局(中央銀行高官よりも政治家)は高い債務水準へ対処する手段として、やや高いインフレ率をもっと受け入れるようになる可能性がある。これが正しければ、一定水準のインフレ率を所与とすると、より緩和的な政策がとられると予想する。先に述べたとおり、Baele氏とVan Holle氏によると、緩和的な政策は株式・債券の逆相関を伴う。ただしこれも、インフレ率が低いときに限られる。ABは長期的なインフレ率は過去の平均を上回る水準に落ち着くと予想しているため、この長期的な政策見通しが、強まる相関に歯止めをかけることはないと考えられる。
 
図表6~9(以下)に、ABのモデルにて特定した株式・債券の相関に係る主な決定要因の過去の推移を示す。
 
図表6-rev.png
 
図表7-rev2.png
 
図表8-rev.png
 
図表9-rev.png
 
パンデミックにより、これまでと異なるレジームに位置していた可能性が生まれているため、わずか過去50年よりもはるかに長い期間について相関を分析することが大切であると考える。ABのデータは完全ではなく、インフレ期待の測定値が大きく欠落しているため、この長期間に関する分析を個別に示す。また、多変量モデルの導出を試みるのではなく、単変量ベースで分析している(図表10)。
 

図表10new.png
 
株式と債券の割引率として用いられる米国10年国債利回りが、やはり統計的に最も有意な変数である。インフレ率とそのボラティリティも重要な決定要因であり、また、係数は限りなくゼロに近いものの株式の高いボラティリティによる質への逃避効果も有意である。
 
図表11~14(以下)に、統計的に最も有意な変数の過去の推移を、株式・債券の相関に係る5年移動平均にプロットして表示する。
 
図表11-rev.png
 
図表12-rev.png
 
図表13-rev.png
 
図表14-rev.png
 
国際的な比較を行うため、英国市場の長期分析も含めた。これについては非常に長い期間のデータがある(図表15)。結果はおおむね似たような内容となり、英国10年国債利回り、インフレ率、ボラティリティの全てが統計的に有意な影響を有している。もっとも、英国におけるインフレ率のボラティリティは、米国よりも遥かに統計的に有意であり、説明力がより高い。英国における債券のボラティリティは統計的に有意な強い影響を及ぼしている一方、米国においては同ボラティリティの影響は有意ではない。
 
図表15new.png
 
図16~19(以下)に、統計的に最も有意な変数の過去の推移を、英国における株式・債券の相関に係る5年移動平均にプロットして表示する。
 
図表16-rev2.png
 
図表17-new.png
 
図表18-rev.png
 
図表19-rev.png
 
以前のページで説明した単変量回帰分析の統計的に有意な変数について多変量回帰分析を実施したところ、インフレ率のボラティリティが同分析でも統計的に最も有意な変数となった(図表20)。10年国債利回り及び株式と債券のボラティリティの差異もやはり統計的に非常に有意である一方、インフレ水準が有意かどうかは微妙である。
 
図表20new.png

 

3方向のトレードオフ:時間、分散、コスト

数十年にわたり、デュレーションのロング・ポジションはポートフォリオにおいて多くの役割を果たしてきた。インカム・ゲインの源泉や高リスク資産に対する分散効果も、そうした役割として挙げられる。今日、これらの機能についてはいずれも議論の余地があり、分散とは一体何かという点について疑問が浮上している。この話題はまだ議論が必要だが、時間と密接な関係にあるとみている。もっとはっきり言えば、リスクの測定方法という問題そのものが時間と切り離すことができない。もっとも、資産運用業界はベンチマーク化の急拡大の中でこの点を見失った様子である(今後の研究課題の1つ)。
 
突然の短期的な損失による影響の軽減に有効な戦略は、何十年にもわたり多様なリターンの源泉を提供する戦略とは必ずしも一致しない。この点を、「インカム(コスト)」「下落相場での軽減効果」「分散」から成る3方向のトレードオフ(図表21)にして示すことができる。分散と下落相場のプロテクションをつなぐ軸上における投資家の位置は、投資家の時間軸と短期的な損失に対する感応度によって決まる。
 
本稿は長期投資家に重点を置いているため、以下では長期分散を掘り下げて検討することにする。これに関係して、インカム(コスト)の変数には手数料控除後のリターンを用いる。この値は、インカムが手数料を大幅に上回る資産については大きな正の値になるが、負の値になることもある。保険のように危機時にプロテクションとしてリターンを提供するが、それ以外の時はネット・ベースでコストの方が大きい戦略が例として挙げられる。
 
従来は、高格付の債券が、コストを課すのではなくインカムを提供しながらこれらすべての機能を担うことができた。それらの債券は今も下落相場の軽減において一定の役割を果たしているかもしれないが、他の2つの役割を果たしていないのであれば、例として、投資家が利用できる他の選択肢をいくつか提案する(図表21の青字)。債券は非常に長い期間にわたりこれら様々な役割を極めて効果的に果たしてきたため、この3方向のトレードオフについて新しい観点から考える必要があることを投資家の大部分が受け入れるまでさらに時間を要する可能性がある。
 
図表21.png
 
1)インカムと長期分散効果のトレードオフと、2)インカムと下落相場でのプロテクションのトレードオフを見ることで、ポートフォリオにおけるこれらの役割を分けることができる。図表22では、縦軸を年率ネット・リターン、横軸を米国株とのそれぞれの戦略との相関関係とし、各戦略をそれぞれプロットして示した。本稿は長期投資家を想定しているため、1990年以降のネット・リターンと株式との相関を測定した。
 
図表22-new.png
 
この観点から見ると、(米国10年国債によって表している)高格付債券は特殊な役割を果たしている。この30年、左上の象限にはっきりと属する唯一のリターン源泉になっており、プラスのインカムを実現しながら、株式と明確に逆相関している。点線の矢印は、10年国債が向こう10年でどこに移動するとABが考えているかを示している。この点は明白かもしれないが、このように表示することで他の選択肢が全体像にどのように収まるかが分かりやすくなると考える。
 
金は10年国債の過去の推移に最も近い資産であり、この30年の年率換算後の名目リターンはプラスを記録し、かつ米国株とは無相関である。ABは、超長期的な金の実質リターンはいくらかプラスであり、現時点の債券利回りと株価バリュエーションに鑑みると向こう10年において金は60/40ポートフォリオより優れたリターンを実現することが見込まれるとの見方を他のレポートで示した(過去の記事 『Four Strategic Allocation Issues for Asset Owners in 2022』(英語)ご参照)。何よりも、金は債券と異なり、株式との無相関がさまざまなインフレ率の水準でも成立することが過去の実績からうかがえる。米国物価連動債(TIPS)も、金より高い名目リターンを実現しながら米国株との低い相関性を記録しているが、目下のところTIPSは最も割高なインフレヘッジ手段の1つであるため、今後のリターンは金よりも低くなる可能性がある。
 
近年、非流動資産が機関投資家のポートフォリオの大きな部分を占めるようになってきた。その背景には主に、そうした資産の期待リターンがより高い点があるが、それらの資産はまた、資産の分散を図るうえでも有用になり得る。ただし注意点が1つある。それはすなわち、それら非流動資産の分散効果の中にはまやかしもあるという点だ。短期で見た上場資産と非上場資産の一見低い相関は、単に低頻度の評価額の更新の産物かもしれない。分散効果の価値ある側面は、そのリターンの源泉固有の根本的な性質に由来する。例えば、(プライベート・エクイティのように)企業に変化を促すかどうかや、(農地のように)景気循環と本質的なつながりがないかといった性質である。
 
1990年以降の四半期リターン(図表22)に基づくと、プライベート・エクイティの実績は非常に魅力的に見えるが、非流動資産に関する直近の調査にて示したとおり、投資資金が積み上がっていることと、それに伴い上昇している買い入れ価格、さらには恐らく下支え効果が低下するであろう信用利回りの先行きに鑑み、今後のリターンははるかに低下するとABはみている。公平のために言うと、ほぼ全ての資産クラスにおいて、割高感があり、名目リターンは低下するとの見方をしている(以前のリサーチペーパー 『Private Assets and the Future of Asset Allocation』(英語)ご参照)。しかし、プライベート・エクイティに関しては、割高感が手数料控除後での公開株式に対する優位性の大半を吹き飛ばす可能性がある。
 
これに基づくと、潜在的に極めて魅力的な資産として2つの資産が際立つ。それはすなわち、農地と森林である。債券とプライベート・エクイティのインカムと分散効果のトレードオフに関するABの見立てが正しいとすれば、ここに表示した資産の中ではこれら2つの資産が非常に魅力的な状態にある。ABは、農地と森林はインフレ対策資産とESGが交わる所にあるため、それらの資産は重要であると指摘したばかりである(以前のリサーチペーパー 『The Intimate Linkage of ESG and Inflation』(英語)ご参照)。また、これらの資産は高インフレ期に一貫して正の実質リターンを記録してきたことも示した。プライベート・エクイティと違い、農地と森林のファンダメンタルズは公開株式のように景気循環と連動する確率は低い。
 
ファクター戦略も重要な役割を果たす可能性がある。手数料控除後のリターンはマイナスだが、株式とはっきりと逆相関するロング/ショート・ファクター戦略を2つ示した。また、株式低ボラティリティや株式配当利回りなどロングオンリー戦略も網羅しているが、これらは、ほぼ完全に株式と相関し、またリターンはプラスである。これらの戦略が占める特徴的なリスクとリターンの領域を示すために、これらの2つをとりあげた。 『資産クラスとファクター ~違いはどこにあるか?~』にて概説したとおり、これらの戦略は実質リターンの低下と分散効果の低下への対応の重要な要素になると考える。
 
3方向の分岐におけるもう1つのトレードオフは、短期的な損失に対する感応度の高い投資家に関係する。これらの投資家は投資期間を短くせざるを得なく、そのためインカム(コスト)とリスク資産の下落に対するプロテクションのトレードオフを避けられない。より深く掘り下げるために、各種戦略について、手数料控除後の年率換算リターンと、1990年以降の米国株10大下落相場中におけるその資産クラスのパフォーマンスを比較し、各種戦略に関する手数料控除後のリターンと下落相場での軽減効果とのトレードオフ(図表23)を示した。結果は、ネット・リターンと株式との分散効果の比較を示した図表22の結果と似通った内容になった。
 

図表23-new.png

 
米国株式の下落中に有効なプロテクション効果を発揮し、かつ堅調な手数料控除後の名目リターンを達成するという観点から見ると、この30年余りでは米国国債が最も優れた資産であった。下落相場での軽減効果の面では、金と米国TIPSが国債に最も近い。米国プライベート・エクイティも非常に優秀だったように見え、手数料控除後のリターンは高く、下落相場での下落も小幅であった。もっとも、公開市場に対する優位性の一部は値洗いの頻度と非流動資産の評価額算出における方針が原因でかさ上げされている。また、下落相場での軽減効果に関する資産のリストにオプション戦略も加えている。同戦略は株式相場の下落に対する優れたプロテクションを提供するが、コストが相対的に高く、また年率リターンがマイナスであった。
 
この分析により裏付けられた1つの概念が、ABが言うところの、投資家が直面している難題である。つまり、現在の運用手法は実質リターンの低下をもたらす公算が大きいと考えられる(過去のリサーチペーパー 『アルファ、ベータ、そしてインフレ』ご参照)。ABの分析によりまた、いかなる資産も単独では高格付債券に取って代わることはできない点も確認できた。むしろ、以前ABが指摘したとおり、複数の資産から成るポートフォリオが必要である(『A New Paradigm for Investing』における「An Urgent Need to Replace Fixed Income」の章(バーンスタイン・リサーチ、2020年4月)をご参照)。
 

ポートフォリオ構築にとっての意味合い

ポートフォリオ内の配分を検討するに当たり、株式・債券の相関性が強まるとの見込みについて投資家はどう対処すべきか?
 
図表24に、各種資産の株式との相関が、ABの予想均衡インフレ率である2%から4%の物価上昇幅を中心とするさまざまな物価上昇幅において、どのように推移してきたかを示した。インフレ率の上昇に伴い相関が低下するか横ばいで推移する資産を特定することが投資家にとってカギになる。債券部門では、米国10年国債の株式との相関が、緩やかなインフレ率上昇局面では正の値に転じることが示されている。米国投資適格社債とTIPSは、インフレ率とともに株式との相関が強まる傾向があるものの、依然として分散効果を有する。しかし、世界ハイイールド債は、日本国債同様、分散効果を発揮する。
 

図表24-1-new.png
図表24-2-rev.png
 
実物資産は、インフレ率の上昇に伴い非常に重要な分散要素になる5。原油の株式との相関は正相関から逆相関に転じる。これは、原油がインフレの主たる要因になった1970年代の経験による面がある。今日の世界は大きく姿を変えたが、その期間を除いても、原油は株式リスクを分散できるという証拠が得られるため、この結果はやはり有効であると考える。ESGによる制約が目先の制限要因としてのしかかると考えるが、ESG投資の性質と何がコモディティ投資とみなされるかが変化するにしたがい、そうした制約は次第に緩和される可能性があるとみている6。
 
不動産全般の株式との低い相関はインフレ率が上昇しても変わらない一方、不動産投資信託(REIT)の株式との相関は、インフレ率の上昇に伴い強まる。この結果を見ると、REITと不動産全般への直接投資の違いは根本的なものなのかそれとも単に値洗いの頻度の産物であるのかという長年の疑問が頭をもたげる。各種研究によると、REITと直接不動産投資との相関はリターン測定の対象期間が長くなるにしたがい強まるため、値洗いの頻度が一定の影響を及ぼしていることがうかがえる7。
 
もっとも、より長い期間をとっても、相関は完全にはならない。本質的には、賃料収入は実体経済によって決まり、ひいてはインフレ率によって決まる(賃料の更新周期がインフレ率の変化する周期よりも長いため、タイミングが完璧ではないが)。しかし、REITは株式との(完全ではないとしても)相関を有する実物資産として長期的に重要な役割を果たし、分散においては有用な存在である。
 
何よりも、金はインフレ率が上昇しても株式とはほぼ無相関であるため、金の長期的な期待実質リターンがゼロに近くても、潜在的に資産分散能力があり、ポートフォリオにおいて大きな役割を果たし得る。また、この潜在能力を踏まえると、もう1つのゼロ・デュレーションの非法定資産である暗号資産の戦略的な分散上の役割が浮かび上がる(過去の記事 『Four Strategic Allocation Issues for Asset Owners in 2022』(英語)ご参照)。
 
資産クラスを問わずファクター投資は分散において大きな役割を担っている。ロング/ショートに限定すると特にそうしたことが言える。株式低ボラティリティなどのファクターは、インフレ率の上昇に伴い優れた分散要素になる可能性を有しているほか、株式と債券のモメンタムやバリュー・ファクターも、インフレ率の水準にかかわらず株式ベータとの相関が非常に低いリターンの源泉になり得る。
 
株式に属する各セクターは株式全般との絶対的相関が高い傾向を有するが、セクターによっては、高いインフレ率で相対パフォーマンスが逆相関する傾向があるものも存在する。この点については、実物資産へのエクスポージャーを得るための上場ビークル(例えばエネルギーや不動産)と、ベータ特性が他より安定しているか低いセクター(例えば生活必需品や保険、公益事業)の2つが突出している。
 

リターンの安定性の問題

この考察から、金融変数間の関係の永続性は信頼できるかという疑問が生まれる。本稿は、パンデミックを契機にレジームの転換が生じたという見解を前提としている。高格付債券が分散効果を発揮できなくなるのであれば、本稿に示した他の有力な分散効果を投資家が信頼しても差し支えないのだろうか。パンデミックを経て、経済についてどの程度新たな原則が生まれ定着するかについては幅広い検討がなされており、ABも過去の記事『 Are We Human or Are We Dancer?』(英語)にて大まかな考察を行っている。しかし、具体的な指摘をいくつか示すことができる。
 
一般的に言って、少なくとも不動産や農地、森林のような実物資産は引き続き分散効果を発揮するはずであると指摘できる。というのも、これらの資産のインカム収入は、実体経済における相互作用を前提としているからだ。ABが過去に公開したESGとインフレに関するレポート『 The Intimate Linkage of ESG and Inflation: ESG and the Hegelian Dialectic』(英語)では、居住用不動産の金融化は、公正と不平等に関する社会全般の課題との結びつきに鑑みると反発を生みかねないとの危険を指摘した。そうした点は注視すべき危険だが、恐らくもっと長期的な懸念として注視すべき問題であり、それにより例えば賃料のインフレへの対応力が今後数年で完全に損なわれるとは考えにくい。
 
この点に関して言えば、ファクター投資のリターンが担う役割はもっと重大であるかもしれない。この10年、ファクター投資のリターンは平均を下回って推移してきた(図表25)。バリューファクターの不振がその一因だが、要因は他にもある。ただし、長期にわたるファクター投資のアンダーパフォーマンスは今回が初めてではなく、ABの見立てでは、『 資産クラスとファクター ~違いはどこにあるか?~』にて詳しく指摘したとおり、このアンダーパフォーマンスは構造的というより周期的なものであると考えられる。
 

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どの程度のアロケーションの見直しが株式・債券の相関上昇を相殺するか?

株式と高格付債券の相関上昇による影響を打ち消すのにどの程度のアロケーションの見直しが必要かという問いに対し、画一的な答えを示すのは難しい。
 
答えは、その組織の投資目標やさまざまな種類のリターン源泉を購入する能力、全体的なポートフォリオ・リスクに対するその感応度、投資期間に左右される。株式・債券の相関が長期平均に回帰するのであれば、期待リターンと各種資産の相関においてもかなりの変動が生じることは明らかである。ポートフォリオ内の配分という観点から見ると、この変化を他と切り離して検討するというのは不自然かもしれないが、試算としては有用になり得る。
 
株式・債券の関係の変化を原因とするデュレーションの長期化を埋め合わせるのにポートフォリオのデュレーションを全体でどの程度変える必要があるかを検討するというのも1つの方法である。図表1に示したとおり、この数年における債券のデュレーション長期化をよそに、株式と債券の強い逆相関の影響で60/40ポートフォリオのデュレーションはゼロ付近で安定して推移してきた。仮に株式・債券の相関がゼロにシフトするとし、かつ(この議論上)他の要素は一切変わらないと仮定した場合、60/40ポートフォリオの実際のデュレーションは-3.6に変化すると考えられる。必要な調整の規模に鑑みると、保有する1つの資産クラスにおける的を絞った調整というよりは、ポートフォリオ全体を見直す必要が生じる公算が大きい。
 
個別資産の役割を単変量ベースで検討するというのも試算の1つである。例えば、直接保有する不動産の役割を考えてみよう。議論の都合上、表示のボラティリティが正しいと仮定した場合(これ自体が全く異なる議論になる)、高格付債券の分散効果の低下を埋め合わせるのにどの程度のアロケーション調整が必要になるかと聞きたくなるだろう。株式・債券の相関がゼロにまで上昇するとした場合に60/40ポートフォリオがポートフォリオのボラティリティ上昇を補正するには、過去の共分散と分散に基づくと、理論上では債券から不動産へ12%振り替えることで補正できる(他の条件が等しければ)。この試算ではインフレ率が2%から4%の緩やかな上昇幅で推移すると想定している。これは、不動産が有効なリターン源泉となっていた環境である。
 
もっとも、多くのリターン源泉について、こうした単純な置き換えでは機能しない。例えば、低ボラティリティ株式ファクターは一見したところ、そのリターンと、高いインフレ率でも株式との低い相関を保てる能力(特に一定のインフレ水準に達したとき。インフレ期待が強まると、この能力は低下する)に鑑みると、分散効果を保つに当たってポートフォリオへ新たに組み入れるには最適な候補だと考えられる。低ボラティリティ株式ファクターはインフレ率の上昇による債券の分散効果の低下を埋め合わせることはできるが、その絶対的なボラティリティ水準が債券よりも高いため、全体のボラティリティを抑制するに当たり、所与の比率で単にポートフォリオへ追加することはできない。この問題は、置き換えが誤った手段であるということを示しているわけではなく、実質水準でのインカムとリスクの間のトレードオフについて広く協議する必要性を示しているに過ぎない。
 
投資家との対話においてABは、分散効果の低下への対応策の重要な一部として(実際、ほぼ避けられないだろうが)非流動資産の活用が挙げられることがよくある。この考えに伴う問題は、多くの非流動資産と株式との間の表面上の低い相関は、低頻度の評価額の更新に内在する平滑化効果に由来するという点である。陳腐化した価格(stale prices)は分散効果ではない。単純な平均分散アプローチに基づき、非流動資産へ多くを振り向けるという結論に達することが考えられるが、流動性不足ということは、資金繰りが危うくなった場合にアロケーションに制限が生じるということである。このジレンマに対し画一的かつ絶対的な答えは存在しないが、そうした場合、ABは作業上、特定の非流動資産の株式との相関は、表示価格の示唆する平滑化されている値(低くなることが多い)と、それより高い特定の値(これは、最も類似する流動資産の相関になるだろう)の間になると仮定する。
 
結論を述べると、多くの投資家において、一定水準の実質リターンを維持したいと願うのであれば、実現ボラティリティで測定されるリスクの上昇を受け入れざるを得ない。戦略に関する現実的な議論は、ボラティリティで測定されるリスクと受益者の投資リターンが著しく減少する確率で測定されるリスクという2種類のリスク間の対立関係の問題である。
 

貯蓄率に関するマクロ経済上の意味合い

本稿の主たる結論は、ポートフォリオ内のアロケーションに関する結論である。しかしABは、マクロ経済上の意味合いについても指摘したいと考える。株式・債券の分散効果の低下はマクロ経済に対してフィードバック効果をいくらかもたらし得る。ABはリサーチペーパー( 『A Cross-Asset View of Equities』(英語)ご参照)にて、米国や英国など退職金の積み立てについて個人が多くのリスクを負担している経済では、名目ベースの投資リターンの減少とインフレ率の上昇によってもっと多くの貯蓄が必要になると指摘している。
 
そうした貯蓄の大部分が上場株式と債券に振り向けられている。これら資産クラス間の相関の変化は平均期待リターンには影響を及ぼさない一方、リターンの分布には大いに影響を及ぼす。この結果の最も重要な核心は、最終的な資産額が期待水準を著しく下回り困窮に陥るリスクを、株式・債券の相関の上昇が高めるという点であると考える。
 
図表26に、困窮リスクを軽減するのに求められる給与からの年間拠出率の変化と、その必要な変化と相関との関係を示した。この分析における条件を前提とすると、株式・債券の相関がマイナス0.5から0.2へ上昇すると、困窮確率を10%以下に抑えるためには給与からの年間拠出額を1%増やさなければならなくなる。なお、この分析では、退職後資金は株式と債券のパッシブ運用へ全額振り向けられると仮定している。
 

図表26new.png
 
今後、金利が上昇する可能性を考慮すると、この規模での必要な貯蓄率の上昇は顕著である(図表27)。また、実質ベースの期待リターン低下も原因となって、貯蓄率の上昇はさらに大きくなると考えられる。パンデミック中は、消費者が支出をできなかったため貯蓄率が大きく変動した。そうした連続性の断絶を無視した場合、1980年から世界金融危機に至るまでの資本市場のリターンが高かった全期間にわたり、貯蓄率は長期的に低下傾向にあった。貯蓄率は世界金融危機以降、若干上昇したが、一段の上昇を促す圧力が生じるとABはみている。
 
図表27new.png
 
そうした変化は徐々に生じることが見込まれるが、向こう10年における貯蓄率の上昇圧力は、貨幣の流通速度に下押し圧力をかけると考えられ、ABはこれが(オートメーションとともに)長期的なデフレ圧力の1つになるとみており、そのデフレ圧力により、長期的な期待インフレ率の急激な上昇が抑制される可能性が高い。こうした見方は、所与の水準のインフレ率に対して、金利は低位で推移するということを織り込んでいる。またこの点においても、米連邦準備制度理事会(FRB)が関心を寄せている短期ではなく、焦点は長期的な時間枠である。
 

結論

人々の投資に対する考え方の土台としての、近年における株式・債券の逆相関の重要性をいくら強調してもし過ぎることはないだろう。その影響は、60/40ポートフォリオの見かけの魅力や、この構成がアセット・アロケーションのパッシブ的手法または既定の手法であるという(誤った)考えなど、アロケーションに関する個別の判断にとどまらない。株式・債券の逆相関によってもたらされた十二分の分散効果はまた、利回り低下により促されたポートフォリオの金利感応度の高まりから投資家を守り、そして、潜在的で目立たないとしても、アクティブ運用からパッシブ運用への移行を促進する主な原動力となってきた。
 
インフレ率とそのボラティリティの先行きを巡る見通しの変化をはじめとするパンデミック後の展望の変容が、この現状に変化を迫っている。投資家は株式と高格付債券によるリターンの相関がゼロに近づくと想定すべきであるとABは考える。場合によっては、やや正の水準である過去数世紀の平均に近づくことも考えられる。
 
ABの予想では、向こう10年、均衡インフレ率はパンデミック前よりも明らかに高くなる。米国については、インフレ率は3%近くになると予想する。これはFRBの目標よりも高い水準だが、長期平均でインフレ率を見るという中央銀行の協議において、柔軟に対応する可能性が示唆されている。それはともかく、政府が債務水準に対処するに当たりより高いインフレ率を必要とする可能性があるため、インフレ率はこの水準でも現実的であるとABはみている(過去のリサーチペーパー 『Are We Human or Are We Dancer?』(英語)ご参照)。さらに、中央銀行によって運営される、物価の管理に対する技術的で半ば原則に基づくアプローチから、必然的に財政政策がより大きな役割を果たす世界へ移行するなか、今後はインフレ率の変動がもっと大きくなると予想する。こうした動向から、長期的なインフレ率は選挙周期や政治家の思いつきの影響を受けやすくなると考えられる。
 
ABは、リサーチにおいて規範的な意見の表明を避けることは絶対にしない。よって、以上の問題に投資家はどのように対処すべきかを考えるだろう。株式・債券の相関が強まる恐れがあるということは、高格付債券を保有する理由が少なくなることを意味するというのが1つ目の結論である。確かに、投資開始時点の債券利回りはこの数カ月で大幅に上昇したが、実質リターンがマイナスになる確率が残る。これらの資産による株式リスクの分散効果が低下すれば、それはさらなる問題を引き起こす。
 
近年、多くの投資家によるリターンを物色する動きが影響し、格付の低い債券が買われ、また非流動資産に資金が振り向けられた。分散を求める動きはリターンの物色と同等に重要な役割を果たすようになるとみており、実際のところ非流動資産がどれだけ分散効果を発揮するかについて、方法論と管理のうえで難しい疑問が浮上するだろう。それらの疑問に答えるには、投資家が投資期間に関する自己の本当のニーズを特定し、かつ、内部運用と外部運用を問わず、自己の運用管理をその投資期間に必ず適合させるしかない。
 
緩やかなインフレと低い実質利回りが見込まれるということは、株式が長期にわたりポートフォリオにおける重労働の大部分を担わなければならないということである。ポートフォリオのリスクを分散するには、分散の主たる手段として株式・債券の関係に依存してきたポートフォリオについては、アロケーションの大幅な見直しが必要になると考えられる。このアロケーションの見直しに係る正確な内容は、投資家個々のリスク特性次第だが、長い目で見ると、非高格付債券と、さまざまな資産クラスでのファクター投資や非流動資産、不動産などの資産の必要性が高まるだろう。金も一定の役割を果たすことができるだろう。金の過去150年の実質リターンはゼロを辛うじて超える程度だが、株式との相関が無いというその決定的な特性は、インフレ率の水準によって変わらない。
 
このトピックは、アクティブ運用対パッシブ運用の議論にも関係するとABは考える。上場市場内でのアクティブ運用からパッシブ運用への転換はさらに進む余地があるが、ベータによるリターンの低下が必至の局面におけるアルファとベータの相対的な役割に関する検討を除いたとしても、分散の模索により、ポートフォリオ内で個々のアルファが果たす役割への関心が強まるだろう。
 
しかしながら、以上の見通しがまったく誤っていたとしたらどうなるだろうか?
 
株式と債券の相関を決定する長期的な要因の特定は簡単ではない。インフレ率の変化にかかわらず、株式と債券が今後も強い逆相関を示した場合はどうなるだろうか。金融政策をめぐる環境が変化する見込みを過度に見積もっている可能性もある。幸い、相関に関するABの予想に基づく行動の呼びかけは、さまざまな考察に基づくABの見通しに対する付加的なものであり、ユニークな考察というわけではない。具体的にポートフォリオを見直す(高格付債券を減らし、非流動資産とファクター・リスクを増やす)必要があるという見方は、リターンの観点と相関度に関する懸念の観点からABがたどり着いた意見である。
 
 
 
 
1. Ewan Rankin and Muhummed Shah Idil, A Century of Stock Bond Correlations, Reserve Bank of Australia Bulletin (September 2014), https://www.rba.gov.au/publications/bulletin/2014/sep/pdf/bu-0914-8.pdf
 
2. Antti Ilmanen, Stock-Bond Correlations, Journal of Fixed Income 13, no. 2 (2003).
 
3. Lieven Baele and Frederiek Van Holle, Stock-Bond Correlations, Macroeconomic Regimes and Monetary Policy, October 2017, https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3075816.
 
4. Lingfeng Li, “Macroeconomic Factors and the Correlation of Stock and Bond Returns,” Yale ICF Working Paper No. 02-46, November 2002, https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=363641.
 
5. この表においてインフラは正の相関にあると表示されているが、ここでは上場持分資産という形態の指標を用いているため、それがこの表の結果をゆがめていると考える。
 
6. 1980年以降の米国株と原油価格の相関に係る平均はマイナス0.05である。その間、期間10年のブレークイーブン・インフレ率は3%を上回っていた。
 
7. 例えば次を参照されたい:Andrew Ang, Asset Management: A Systematic Approach to Factor Investing (Oxford University Press, 2014): 378.
 
 

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