過去10年間にわたる苦境を乗り越えようとしている新興国株式の見通しについて、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)の新興国株式運用の責任者を務めるサミー鈴木が見解を述べます。

  • Q1. 新興国市場の投資家は過去10年間に、なぜこれほど大きな失望を味わったのでしょうか?

新興国株式にとっては失われた10年間となりました。2011年から2023年末までにS&P 500指数が年率13%近いリターンを上げたのに対し、MSCIエマージング・マーケット指数のリターンは年率1.6%にとどまりました(米ドルベース)。

新興国株式のリターンが低迷した原因はいくつかあります。新興国の経済成長率が予想以上に鈍化ししたことや、米ドルが対新興国通貨に対して上昇したことに加え、当初の割高な株価バリュエーションなどが挙げられます。中国や世界における地政学的な混乱も、新興国株式の上値を重くする要因となりました。

  • Q2. 過去10年間が厳しかったにもかかわらず、投資家はなぜ先進国の株式よりも新興国の株式に注目すべきなのでしょうか?

過去の実績や市場コンセンサスに追随することが、望ましい投資戦略とは言えないことを忘れてはいけません。

過去10年間は確かに新興国市場にとって期待外れの結果となりましたが、その前の2001年から2010年まではS&P 500指数が年率1.4%しか上昇しなかったのに対し、新興国の資産は年率15.9%という非常に高いリターンを上げました(米ドルベース)。新興国市場が世界をけん引した10年間が始まった時、市場は暗い見通しに包まれていました。先進国では米国におけるドットコム企業の台頭により投資家心理も活気づく一方で、新興国ではアジア金融危機やロシア危機が起こったばかりでした。それでも、新興国株式は予想を大きく上回るパフォーマンスとなりました。このように歴史は「失われた10年」により新興国市場が力強いリターンを生み出す可能性を示唆しています。

そのため、今日の投資家にとって重要なのは、将来のリターンが予想を上回りそうな資産はどのように見つけるかという問題です。今日の新興国株式の低いバリュエーションに反映されている悲観的なコンセンサスは、いい出発点になるとABは考えています。それでも、割安というだけでは株式投資として十分ではありません。投資家として問うべき問題は、それらの企業が今後数年間に、いかに市場にポジティブ・サプライズをもたらすことができるかということです。ABは、先進国におけるリターンとは相関性が低い、魅力的なリターンを生み出す可能性があるにも関わらず、正当に評価されていない企業が、新興国市場には数多く存在すると確信しています。

  • Q3. 新興国株式の見通しについて、どんなトレンドが回復を支える役割を果たすと思いますか?

現在、新興国企業はさまざまな成長ドライバーを有しています(以前の記事『Don’t Look Back: The Next Emerging-Market Decade Will Be Different』(英語)ご参照)。例えば、イノベーション、リショアリング、注目度の低い中国企業が飛躍する可能性などが挙げられます。

イノベーションは、新興国企業の利益に対して重要度がさらに高まるでしょう。新興国が持つ特許のシェアは着実に高まりつつあり、それは将来のイノベーションの先行指標になると思われます。例えば、人工知能(AI)について考えてみましょう。米国のエヌビディアが注目を集めていますが、AI革命において同社が果たした役割はすでに広く知られています。一方、新興国の企業は投資家にさほど知られていないAI革命で重要な役割を果たしており(以前の記事『Emerging Markets and the ChatGPT Value Chain』(英語)ご参照)、今後評価が高まる可能性を秘めています。

例えば、アジア・バイタル・コンポーネンツは、台湾を拠点とするコンピュータ用熱管理システムのメーカーです。AI向け機器に搭載される半導体は今後も高度化が進み、集積度の高いものになります。これは過熱が問題となることを意味しており、半導体の設計におけるハードルを高くしています。同社の製品は、発熱量が多くてもコンピュータを冷却できるシステムで、この問題に対処するのに役立ちます。AI革命には、他にも多くの重要部品のサプライヤーが必要になります。AIの「バックドア」と呼ばれるこうしたメーカーの多くは新興国に拠点を置いており、AIで大きな注目を集めている一部の先進国企業に比べ、株価水準ははるかに魅力的な水準にあるとみています。

リショアリングは、世界経済における新興国やその企業が果たす役割を変えています。中国が2001年に世界貿易機関(WTO)に加盟して以来、中国は世界の工場となりました。しかし、中国における労働コストの上昇やサプライチェーンのリスクを考慮し、多国籍企業は製造拠点の分散をさらに進めています。これは「中国+1」戦略として知られています。

その恩恵を主に受けるのは、メキシコ、ベトナム、バングラデシュなどの新興国です。しかし、ABではインドに注目しています(以前の記事『新しいインド:効率アップと投資の道を切り開く』ご参照)。世界で最も人口が多いインドは、低コストの労働力を大量に抱えています。しかし、これまでは貧弱なインフラや官僚主義により、製造業のリーダーとなることは決してありませんでした。インド政府はこうした問題に積極的に取り組んでおり、多国籍企業はインドに生産拠点を移し始めています。例えば、アップルはインドでAirPodsの工場を建設しており、今後もインドでの生産を拡大する計画です。

一部の投資家からは、新興国市場のベンチマークの25%を占める中国経済の減速を懸念する声も聞かれます。しかし、環境がさらに厳しさを増しても、中国には多くの魅力的な機会があると考えています。MSCI エマージング・マーケット指数には700社以上の中国企業が組み入れられています。新興国全体、特に中国におけるこうした多様性がもたらす力は見過ごされがちです。

革新的な企業も新たに生まれています。例えば、中国の新興オンライン・ショッピング企業であるPDDホールディングスは、アリババ・グループから大きなシェアを奪っています。それ以外にも、グローバル投資家の視野に入っていない新しい企業が数多くあります。また、中国の国有企業の一部は、資本利益率や株主還元を重視する姿勢を強めており、こうした企業もポジティブ・サプライズを生み出す可能性があります。

  • Q4. 2024年の新興国株式のパフォーマンスにおける最大のリスクは何でしょうか?

新興国への投資では特にリスクをしっかり管理する必要があることは言うまでもありません。各国が抱える個別の問題も重要ですが、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策と米国の大統領選挙が、新興国市場のパフォーマンスに最も大きな影響を与える可能性があります。米国の金利が低下すれば米ドル安につながる見通しで、それは多くの場合、新興国株式にとってプラス要因となります。加えて次期米大統領の対中政策も大きな影響をもたらす可能性があります。それでも、米国では与野党とも中国を封じ込める政策が必要だという認識で一致しているため、現在の政策が継続されると予想されます。しかし、トランプ氏が前大統領時代に中国に対して比較的厳しい姿勢を取ったことを踏まえれば、彼がホワイトハウスに返り咲いた場合、不透明感が一段と高まるでしょう。

新興国の中央銀行は、今回のサイクルでは概して早い時期に利上げに踏み切り、新興国経済は金利上昇をうまく乗り切ってきました。金利が低下すれば、経済の追い風となる見込みです。インドでは、ここ数年進められてきたインフラ整備とビジネス環境の改善が持続するかどうか見定めようとする投資家にとって、2024年の国内総選挙が重要な意味を持つでしょう。

  • Q5: 今、株式投資家が新興国への投資を検討すべき理由は何でしょうか?

一部の投資家にとって、新興国に対する低い期待は、投資をちゅうちょする理由になるかもしれません。しかし、実際には、期待値が低いことは、しばらく新興国株式をアンダーウェイトとしてきた投資家にとって、市場に参入する好機となる可能性があると見ています。

新興国は投資家にさまざまな選択肢を提供しています。ベンチマークには1,400以上の銘柄が組み入れられているほか、ベンチマーク以外にも投資対象となり得る多くの銘柄があります。それはアクティブ運用の投資家に対し、インデックスに対して差別化された確信度の高いポジションを構築する豊富な機会を提供しています。規律ある銘柄選択プロセスを通じ、ファンダメンタルズが改善しつつある企業に焦点を当てることがとりわけ重要です。いくつかのテーマは、今後数年、新興国企業への投資に懐疑的な投資家にサプライズをもたらす可能性があります。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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