人工知能(AI)をめぐる懸念がソフトウェア株の急速な調整につながっている。それでも言えることは、破壊的な変革が市場の想定どおりの速さで進むことはめったにないということだ。
AIがソフトウェア産業にもたらす影響の大きさが懸念される中、ソフトウェア株は厳しい現実にさらされており、今後の見通しは極めて不透明な状況にあると言える。それでも、足元の無差別的な市場の反応は、構造的なリスクが高いソフトウェア企業と、より持続力のある企業を同一視してしまっている可能性がある。
投資家の仕事はその違いを見極めることである。AIがソフトウェア企業のビジネスモデルにもたらす現実的な懸念を無視することはできない一方、すべてのソフトウェア企業が同じわけではない点が重要だ。AI中心の世界に対応できないソフトウェア企業もあれば、そうした世界で生き延び、あるいはさらに成長する企業もあるだろう。
一方、市場は破壊な変革が今すぐ一様にもたらされると想定しているように見える。しかしながら、テクノロジーのレジーム転換はそれほど単純なものでは決してない。投資家が現在取り組むべきは、破壊的な変革が経済の仕組みを変える可能性が高い分野に加えて、企業のファンダメンタルズに対して懸念が行き過ぎているかもしれない分野を明らかにすることである。
AIエージェントは産業の再定義につながるか?
ChatGPTの登場以降、ソフトウェア株には厳しい目が向けられてきた。そしてここ数カ月は、Claude Opus 4.5やClaude CoworkといったAIコーディングモデルの発表を受け、より高性能なAIエージェントの大規模な普及(図表1)が、開発コストや参入障壁の低下によるソフトウェアのコモディティ化につながるのではとの懸念が強まっている。またそうした中で、MSCIワールド・ソフトウェア・サービス指数の2026年初来リターンは、2026年2月末時点において20%を超える急落となっている。

こうした市場の動きは、あらゆるソフトウェア企業がリスクにさらされていることを示唆するものであり、長年にわたって好意的な評価を受けてきたソフトウェア産業にとっては劇的な変化であると言える。クオリティの高いソフトウェア企業をこれまで支えてきた経済的な特性が今後も維持されるか、投資家は確信を失った状況にあり、そのためソフトウェア株の最終的な価値をほとんど予測できないでいる。
弱気シナリオ:破壊的変革が収益の源泉を脅かす可能性
ソフトウェア企業の収益性への懸念は否定することが難しく、仮にAIエージェントが複雑な業務フローも自動で遂行できるとするならば、顧客にとって本格的なソフトウェア・アプリケーションはもはや必要なくなる可能性がある。そしてその結果、従来型のユーザーインターフェースはその重要性を失い、乗り換えコストや価格決定力の低下にさらされることになるだろう。またより広い意味では、AIの普及によってソフトウェアエコシステムの広範囲にわたり参入障壁が低下すると考えた場合、ソフトウェアの供給は需要を上回る速さで拡大することになるだろう。そのため、既存の企業にとっては競争の激化が価格設定や利益率、さらには資本収益率への圧力となり、中でもユーザー数ベースや機能ベースの料金モデルに依存している企業は特に影響を受けると考えられる。
一方、そうしたリスクを軽視することはできないものの、複雑で規制への対応も必要な大企業レベルの業務フローを管理することができる、完全自律型のAIエージェントの導入範囲は現状、コードの作成支援や顧客サービスといった一部の分野に限られている。そのため、長期的な普及の道筋は不確実であり、経済的な影響が現れるタイミングも依然不透明であると言えるだろう。
すべての企業が同じリスクに直面しているわけではない
アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)の見方では、破壊的な変革の影響がソフトウェア産業全体に均一に広がることはないだろう。例えば、顧客関係管理や業務フローの自動化といった業種横断型のアプリケーション層を提供している企業は、銀行向けのシステムや小売業の販売管理システムのような業種特化型のアプリケーション層を提供している企業とは大きく異なるということである。また、インフラ企業とサイバーセキュリティ企業を比べても、ビジネスの状況は異なると言える。
そこで重要となるのが、具体的なソフトウェアの種類ごとに、置き換えがどの程度簡単か、あるいは困難かを考えることである。例えば、企業の基幹データを管理するシステムは、簡単に置き換えられるものではない。なぜならば、そうしたシステムは業務上不可欠なプラットフォームであり、信頼性の高いデータやコンプライアンスの枠組みとともに、組織に深く組み込まれているためである。その反対に、切り替えコストが低く、自社データもそれほど蓄積されていないインターフェースアプリは、はるかに簡単に置き換えが可能と言えるだろう。
足元の弱気シナリオは財務の現状に悲観的になり過ぎか?
アプリやエージェント、さらにはデータやインフラストラクチャーなど、AIスタック(製品群)全体のどこに価値が生まれるか、本当のところは誰にも分からない。だからこそ、市場はソフトウェア株に適用する割引率を全体的に引き上げ、それがソフトウェア株のバリュエーションの低下につながったのである(図表2)。ソフトウェア企業の株価は下落しているものの、顧客の行動や顧客維持率の指標、あるいは公表されている財務諸表に関して言えば、経営上のストレスの兆しはほとんど見られない。

とはいえ、今日の良好な企業ファンダメンタルズが誤解を招く可能性もある。なぜならば、AIがもたらす破壊的変革は構造的なリスクであり、企業の足元の指標にはまだ反映されていないと考えられるためである。そのため、足元の利益率や売上成長率が安定している企業は、価格や競争力に対する脅威が高まっていたとしても、健全であるように見えてしまう可能性があるのである。
また、AIコード生成の進化が周辺分野への事業拡大にかかるコストや時間を引き下げる中、既存ソフトウェア企業間の競争がどのように激化するかなど、まだ分かっていないことは他にもある。そうした競争の激化は、伝統的なソフトウェア領域の境界線を曖昧にし、既存企業のポジションをこれまで守ってきた暗黙の壁を崩すことになるだろう。
財務の透明性が重要:GAAPに注意
AIが企業にもたらすリスクの兆候を捉える上では、会計の透明性に着目することが重要になるだろう。例えば、株式報酬費用を除いた調整後利益は、GAAP(一般に公正妥当と認められる会計原則)に基づいた指標ではなく、市場はそうした指標に対してより厳しい目を向けるようになるとABは見ている。
また、破壊的な変革に対する構造的な懸念を背景に、投資家はGAAPベースの目先の収益性や伝統的なバリュエーション指標をより重視するようになるだろう。ソフトウェア株の直近の下落はGAAPを採用していても防ぐことができなかったものの、長期的には利益管理の徹底と利益の質がより重要になるとABは考えている。
注目すべき3つのポイント
ソフトウェア産業は過去にも破壊的変革を経験したことがあり、ソフトウェアはAIが普及するよりもはるか以前から、インターネットやクラウド・コンピューティング、さらにはソフトウェア・アズ・ア・サービス(SaaS)の登場によってその姿を変え続けてきた。AIの進化が続く中、投資家がAI勝者とAI敗者を見極めるには、以下のポイントに戦略の重点を置くことが必要となる。
- 持続的な競争優位性:明確な経済的価値を生み出す業務上不可欠なソフトウェアは、競争環境が激化しても価格決定力を維持することができると考えられる。信頼性の高い企業データを扱うソフトウェア企業は、競争優位性を保つ上で有利な立場を維持することができるだろう。また、組織全体に水平統合されたソフトウェアについても、顧客は高いコストを払ってそれらを置き換えることにより慎重になると考えられる。
- AIへの取り組みが収益を生む明確な兆し:ソフトウェア企業は、AIが収益の拡大に貢献していることを証明する必要がある。プラットフォームの中には、AIエージェントの普及による取引データ量(チケット、承認、業務フロー)の増加がメリットになるものもあり、投資家はAIが主要なプラットフォームの排除ではなく、強化につながると言える根拠を確認すべきである。その反対に、ユーザー数ベースの固定料金に依存したビジネスモデルは、ぜい弱性が高いように思われる。
- 利益の質とビジネスモデルの持続力:顧客維持率が全体的に高く、顧客の基幹業務フローに組み込まれたプロダクトを有する企業は、利益を維持することが可能であると考えられる。また、一貫したAI戦略はソフトウェア企業にとっていまや当たり前のものであり、現状では見いだすことが難しい、実績に裏付けられたGAAPベースの収益力も必要不可欠な要素であると言える。そうした中、ディストレスト状態にある株価のバリュエーションは、無差別的な市場の下落局面において他の企業と同じように売られることとなったものの、回復力が高い企業への投資機会をもたらす可能性がある。
その一方で、AIとソフトウェアの発展過程における現時点では、慎重になるべき理由も十分にある。ソフトウェア・セクターの構造的なリスクは現実のものであり、画期的な技術による破壊的革新が実現するには時間がかかるものの、その影響の大きさは当初の想定をしばしば上回ることを歴史は物語っている。
こうした認識のもと、最悪シナリオや短期的なボラティリティに左右されない姿勢が投資家には求められるとABは考える。
ボラティリティの高い市場環境下では、投資家は考えるよりも先に行動する傾向がある一方、それは長期的な戦略と呼べるものではない。徹底したリサーチを重視する株式ポートフォリオの運用チームは、ノイズに過剰に反応していないか、破壊的変革の大きな力に直面しているソフトウェア産業に対してどのように適切なポジションを取るべきか、日々問い続け、判断していく必要があるとABは考える。ソフトウェア産業全体の動向や個別企業への影響を積極的に分析することで、投資家は規律に従い、忍耐と信念のバランスを取ることができるものと考えられる。それはつまり、株価の下落が行き過ぎであると思われ、反発のタイミングが近い可能性のある一部のソフトウェア株に対して、慎重にエクスポージャーを拡大するということでもある。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
オリジナルの英語版はこちら
本文中の見解はリサーチ、投資助言、売買推奨ではなく、必ずしもアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)ポートフォリオ運用チームの見解とは限りません。本文中で言及した資産クラスに関する過去の実績や分析は将来の成果等を示唆・保証するものではありません。
当資料は、2026年3月5日現在の情報を基にアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーが作成したものをアライアンス・バーンスタイン株式会社が翻訳した資料であり、いかなる場合も当資料に記載されている情報は、投資助言としてみなされません。当資料は信用できると判断した情報をもとに作成しておりますが、その正確性、完全性を保証するものではありません。当資料に掲載されている予測、見通し、見解のいずれも実現される保証はありません。また当資料の記載内容、データ等は作成時点のものであり、今後予告なしに変更することがあります。当資料で使用している指数等に係る著作権等の知的財産権、その他一切の権利は、当該指数等の開発元または公表元に帰属します。当資料中の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。アライアンス・バーンスタイン及びABはアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーとその傘下の関連会社を含みます。アライアンス・バーンスタイン株式会社は、ABの日本拠点です。
当資料についてのご意見、コメント、お問い合せ等はjpmarcom@editalliancebernsteinまでお寄せください。
「株式」カテゴリーの最新記事
「株式」カテゴリーでよく読まれている記事
アライアンス・バーンスタインの運用サービス
アライアンス・バーンスタイン株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第303号
https://www.alliancebernstein.co.jp/
- 加入協会
-
一般社団法人投資信託協会
一般社団法人日本投資顧問業協会
日本証券業協会
一般社団法人第二種金融商品取引業協会
当資料についての重要情報
当資料は、投資判断のご参考となる情報提供を目的としており勧誘を目的としたものではありません。特定の投資信託の取得をご希望の場合には、販売会社において投資信託説明書(交付目論見書)をお渡ししますので、必ず詳細をご確認のうえ、投資に関する最終決定はご自身で判断なさるようお願いします。以下の内容は、投資信託をお申込みされる際に、投資家の皆様に、ご確認いただきたい事項としてお知らせするものです。
投資信託のリスクについて
アライアンス・バーンスタイン株式会社の設定・運用する投資信託は、株式・債券等の値動きのある金融商品等に投資します(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)ので、基準価額は変動し、投資元本を割り込むことがあります。したがって、元金が保証されているものではありません。投資信託の運用による損益は、全て投資者の皆様に帰属します。投資信託は預貯金と異なります。リスクの要因については、各投資信託が投資する金融商品等により異なりますので、お申込みにあたっては、各投資信託の投資信託説明書(交付目論見書)、契約締結前交付書面等をご覧ください。
お客様にご負担いただく費用
投資信託のご購入時や運用期間中には以下の費用がかかります
- 申込時に直接ご負担いただく費用…申込手数料 上限3.3%(税抜3.0%)です。
- 換金時に直接ご負担いただく費用…信託財産留保金 上限0.5%です。
- 保有期間に間接的にご負担いただく費用…信託報酬 上限2.068%(税抜1.880%)です。
その他費用:上記以外に保有期間に応じてご負担いただく費用があります。投資信託説明書(交付目論見書)、契約締結前交付書面等でご確認ください。
上記に記載しているリスクや費用項目につきましては、一般的な投資信託を想定しております。費用の料率につきましては、アライアンス・バーンスタイン株式会社が運用する全ての投資信託のうち、徴収するそれぞれの費用における最高の料率を記載しております。
ご注意
アライアンス・バーンスタイン株式会社の運用戦略や商品は、値動きのある金融商品等を投資対象として運用を行いますので、運用ポートフォリオの運用実績は、組入れられた金融商品等の値動きの変化による影響を受けます。また、金融商品取引業者等と取引を行うため、その業務または財産の状況の変化による影響も受けます。デリバティブ取引を行う場合は、これらの影響により保証金を超過する損失が発生する可能性があります。資産の価値の減少を含むリスクはお客様に帰属します。したがって、元金および利回りのいずれも保証されているものではありません。運用戦略や商品によって投資対象資産の種類や投資制限、取引市場、投資対象国等が異なることから、リスクの内容や性質が異なります。また、ご投資に伴う運用報酬や保有期間中に間接的にご負担いただく費用、その他費用等及びその合計額も異なりますので、その金額をあらかじめ表示することができません。上記の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。




