規律あるレンダー(貸し手)にとって、現在の投資機会は引き続き魅力的であると考えられる。
人工知能(AI)の拡大がもたらす破壊的な変革や資産評価への影響、さらには借り手のストレスを背景に、足元ではプライベート・クレジット市場にも投資家の厳しい目が向けられている。過去10年にわたり急速に成長してきたプライベート・クレジット市場は、初めての大きな試練に直面しているのだろうか?ただそうだとしても、プライベート・クレジット市場はそれを難なく乗り越えられるとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考える。
今日の環境は、市場にとっての大きな転換点ではなく、市場サイクルの一部としてのクレジット環境の正常化のように感じられる。そのため一部の分野では投資家心理の悪化がみられるものの、その背景にある全体的なファンダメンタルズは底堅く、そうした力強さは幅広い資産クラスに当てはまる。投資家は市場のストレス局面において、プライベート・クレジットとより流動性の高い資産の動きに大きな違いが生じると考えるべきではない。
ABの見方では、プライベート・クレジットは今後もクレジットのエコシステムにおける重要な一部であり続けるだろう。そして、資金力を有する規律あるレンダーは、さらなる成長を続けることができるとABは考える。
高い金利水準が一部の借り手を苦しめており、そうした借り手には中規模企業だけでなく、クレジットカードローンや自動車ローンの支払いを抱える消費者も含まれる。ただし、プライベート・クレジット市場における足元のストレスの大部分は、この10年の初期、すなわち金利水準がサイクルの底にあった当時の緩い融資基準に原因があるとABは考えている。現在起きているのは、クレジット環境の周期的なタイト化であり、危機ではないと言えるだろう(以前の記事『プライベート・クレジットの魅力はまだ失われていない』ご参照)。
スプレッドの拡大と時価評価のボラティリティ
2026年1-3月期に投資家を不安にさせたのは、営業活動や法務機能、さらには分析機能などの自動化を目的とした、新たなAIツールの公開であった。プライベート・エクイティの投資先でもあるソフトウェア・アズ・ア・サービス(SaaS)企業は、会計、情報セキュリティ、データ分析などの重要なサービスを顧客に提供しており、投資家は新たなAIツールをSaaS企業に対する脅威と捉えたのである(以前の記事『Software Recurring Revenue Lending: Flexibility and Skill Required』(英語)ご参照)。
そうした不安は他のセクターにも広がり、保有ローンの一部が過去の評価をそのまま維持していることへの懸念から、非上場のセミリキッド・プライベート・クレジット・ファンドの解約請求が増加した(以前の記事『プライベート・クレジットの非流動性は欠点ではなくて特性』ご参照)。またその一方で、プライベート・クレジット戦略に対しては、銀行も短期資金やレバレッジの提供を減らしている。
そのため、ダイレクト・レンディング戦略の2026年前半のパフォーマンスは、投資先の信用の質の悪化や借り手の破綻というよりも、主にスプレッドの拡大と時価評価のボラティリティによる影響を受ける結果となった。同じような動きは新型コロナの拡大初期や2022年に始まった米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げサイクルにおいても起きており、資産の時価評価はどちらの場合も一度は下落したものの、最終的には回復を見せている。
投資家心理は悪化しており、案件を追い求める投資資金も減少しているものの、市場の潜在的なファンダメンタルズは依然として底堅いとABは考える。ABの見方では、現在の環境はドライパウダー(待機資金)を有する投資家にとって、魅力的な投資機会をもたらすものであり、そうした投資家は今後12~18カ月にわたり、多様な正常債権に割安なバリュエーションで投資することができるだろう。
「SaaSの死」は本当か?ABの見方はやや異なる
このところのメディアによる報道とは異なり、クレジット市場のファンダメンタルズはその大部分において、強さを維持しているように思われる。非上場の事業開発会社(BDC)による融資のパフォーマンスを表すクリフウォーターのデータによれば、未収利息不計上債権、すなわち予定されていた利息の支払いが滞っているローンの割合は、ここ数年の異例の低水準からはわずかに上昇を見せている。それでも、その水準は依然として近年の平均に近く、長期平均は下回っている。
「SaaSアポカリプス(SaaSの終えん)」とメディアが呼ぶ現象をより詳しく検証すると、SaaS企業はすべて同じではないということがよく分かる。顧客の日常業務からカスタマーデータ保護やサプライチェーン管理に至るまで、あらゆる「記録システム」を提供しているエンタープライズ・ソフトウェア企業は、安価に置き換えられる存在ではなく、安定したキャッシュフローと高い顧客維持率を有している。ABの見方では、そうした強みはAIによる破壊的な変革から企業を守る上で、優れた防御力を発揮すると考えられる。また、ソフトウェア企業やテクノロジー企業のデフォルト率についても、引き続き緩やかな上昇にとどまっていると言える(図表)。

その上、SaaS企業の多くはAIを自らの業務に取り入れることで、AIの拡大を追い風に変えてきた。AIの拡大によって弱体化する可能性が高いのは、基本的な分析機能や再現可能なサービスしか提供していない企業のビジネスモデルであるとABは考える。
ダイレクト・レンディング以外にも広がる投資機会
ダイレクト・レンディング以外のプライベート・クレジット市場では、6兆米ドルの規模を有するアセット・ベースド・ファイナンス(ABF)市場にミスプライシングの兆候が見られるように思われる。融資の引き締めサイクルが長期化する中、局所的なストレスが発生しており、借り手も貸し手も困難を抱えた状態にある。それでも、融資基準の見直しや適切な融資の組成を行うことができるレンダーにとって、他の貸し手の市場からの撤退は、融資を拡大するチャンスでもあるとABは見ている。
消費者金融:金利が高止まりし、融資の引き締めサイクルも長期化する中、消費者金融市場は「ニューノーマル(新常態)」に慣れつつあるようにも思われる。一方、米国の消費者動向は底堅さを示してはいるものの、低中所得層はパンデミック期の貯蓄をほぼ使い果たした状態にあり、そうした層の一部は債務返済負担の上昇に直面しているとも言える。
それでも、レンダーにはまだ多くの手段が残されており、米国消費者金融市場の現状に合わせて融資基準を見直したり、例えば住宅ローンや自動車ローンなど、返済の優先順位がおそらく最も高いであろう融資を優先したりすることもできる。現状、ローンの延滞率は上昇傾向にあり、それは初期のストレスサインではあるものの、単にこれまでの水準が歴史的に低かっただけとも言える。そのため市場は現在、急速に悪化しているわけではなく、正常化に向かっているのだとABは考えている。
航空機リース:航空会社各社の安定性はパンデミック以降、飛行ルートの見直しや燃料価格の変動管理、さらにはフライトスケジュールの調整により、大きく高まったと言える。しかしその一方で、直近では中東地域をはじめとする地政学リスクの存在もまた、航空セクターの変わらぬ特徴となっている。一部の空域の封鎖や回避は、飛行時間の延長や使用燃料の増加、さらにはより不確実なフライト運営の要因となる。それでも、航空機の不足は今後も続くとABは考えている。そうした中、投資家は航空機の貸し手に目を向けることで、個別の航空会社の命運に過度に左右されることなく、グローバルな航空セクターへのエクスポージャーを確保することができると考えられる(以前の記事『航空機リース:燃料価格ショックの先を見据える』ご参照)。
大局的な視点:量より質の重視
AIによる破壊的な変革を避けることはできない。また、米国の根強いインフレ圧力は、多くの投資家が年初に想定していたよりも高い金利水準が、より長く続く可能性があることを示唆している。そうした中、SaaS企業のバリュエーションが急落したことで、レジリエンス(逆境に負けない強さ)を試される投資家がいる一方で、市場シェア拡大のチャンスを手にする企業も現れるだろう。
量より質を重視する投資家にとって、プライベート・クレジットは引き続き、魅力的なリスク調整後リターンをもたらし得る資産クラスであるとABは考える。また、クレジット・サイクルの現段階においては、単に資金を投資することよりも、規律ある融資と資産の選別を徹底することの方が重要になると言えるだろう。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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