海面上昇や壊滅的な被害をもたらす異常気象など、投資家は気候変動のリスクを無視するわけにはいかない。現在予測されている気候変動が現実のものとなれば、多くの企業が打撃を受け得るため、株式投資を行うポートフォリオ・マネジャーはリサーチのプロセスで気候変動の影響を考慮するとともに、この問題について企業が積極的に取り組むよう経営陣にはたらきかける「エンゲージメント」も重視すべきであろう。

地球の平均表面温度は産業革命以前と比べて約1度上昇している。2015年に採択されたパリ協定の一環として2030年までのさらなる温暖化を1.5度に抑制することに賛同している国は100カ国以上に上るが、現在の傾向が続けばこの目標は達成できないかもしれない。2100年には、地球は現在よりも4.4度も暖かくなる可能性がある。

ここで認識しておくべきなのは、1300年から1850年頃にかけて続いたいわゆる「小氷河期」は、地球の平均表面温度が1~2度低下したことが始まりだったということだ。2万年前には、5度低下したことで、北米大陸の大部分が氷に覆われた。

これは株式投資家にも関係あることなのだろうか。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では、重大な影響があるだろうと考えている。以下に、気候変動が企業にどのような影響を与え得るかを評価する際に、投資家が考慮すべき最重要項目を4つ挙げる。(ROIC)は高水準になる傾向がある。

1. 極端な気象現象が起こった場合、どの程度の被害を受けるか

気候の専門家は、大気中の温室効果ガス濃度が上昇を続ければ、異常気象が増加すると言う。こうした異常気象には、これまでよりも強力な台風、局地的暴風雨の頻発、海面上昇、洪水、干ばつ、猛暑などが含まれる。極端な気象現象は、重要なインフラを損傷したり、食料の安定供給を損なう恐れがある。私たちはすでに、それが企業の経営にどのような影響を与えるか目の当たりにしてきた。

カリフォルニア州では、長引く干ばつにより大規模な山火事が発生し、パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック・カンパニー(PG&E)が破産に追い込まれた。スミスフィールド・フーズは、ハリケーン・フローレンスによってノースカロライナ州での操業を停止しなければならなかった上に、ハリケーンの影響による洪水で同社の廃水池の一部が浸水し、周辺地域が汚染された。ハリケーン・マリアが医療機器会社バクスター・インターナショナルのプエルトリコ工場での生産機能を奪ったことで、医療界は静脈輸液用バッグや静脈輸液が危機的に不足する事態に見舞われた。

企業が気候変動からどのような影響を受けるかを評価するための最初のステップは、製造施設、研究開発拠点、小売店など、すべての物理的資産を特定し、それらが極端な天候からどれだけ被害を受けるかを判断することである。サプライチェーン上の全ての影響を把握することはより困難であるが、同様に重要である。

2. 気候関連規制の強化にどう適応できるか?

ABでは、エネルギー会社や公益事業会社だけでなく、すべての企業が将来的に炭素排出量を削減する必要があると考えている。しかし、テクノロジー企業のような会社がそうした問題に取り組む必要があるのはなぜだろうか? 例えば、マイクロソフトは直接的に温室効果ガスを大量に排出しているわけではない。しかし、同社は成長著しいクラウドコンピューティング事業を推進するために、巨大なデータセンターを運用している。そして、こうしたデータセンターは、2020年代半ばまでに世界最大の電力消費産業になると予想されている。

二酸化炭素排出量を開示し積極的に削減しようとする企業は、そうでない企業と比べ、気候を巡る政策がより厳しくなった際には、より優位な立場に立てよう。すでに、世界の企業の半数以上が炭素排出量を公表している。また、炭素排出が直接的なのか、間接的なのか、サプライチェーン・レベルで行われているのかについても開示している企業もある。

しかし、実は単なる総排出量だけではあまり意味をなさない。ABでは、売上高に対する温室効果ガス排出量を測り、炭素集約度を計算することによって、企業を同業他社と比較している。人口1人当たりGDPで各国の経済を比べるのと同じような考え方だ。

そうした情報を得た上で、排出量削減のために企業がすでに行った取り組みや、これから何をしようとしているのかを把握することが重要である。理想的には、企業は、地球温暖化がパリ協定で定められた2度以下に収まるようなペースまで炭素排出量を削減することを目標とすべきである。

気候リスクをもっと真剣に捉えている企業は、大気中の二酸化炭素の増減に影響を与えない「カーボン・ニュートラル」を目指している。例えば、マイクロソフトは、各事業単位に、排出量に応じた「炭素課徴金」を課している。その課徴金を用いて再生可能エネルギー由来の電力を購入したり、ビルの省エネ化などの社内効率化プロジェクトに投資を行ったり、それでもなお残存した排出量を相殺する「カーボン・オフセット」を購入するといった仕組みである。カーボン・オフセットは通常、クリーン・エネルギー・プロジェクトへの資金提供といった形をとる。

投資家は、この分野で最先端にいる企業にさえもプレッシャーをかけ続ける必要がある。例えば、企業が実際にどれだけの再生可能エネルギーを利用しているのか、カーボン・オフセットの購入先企業の評価はどうなのか、そして企業がどのようにオフセットへの依存を脱却しようと しているのかといったことを知るべきである。

3. 気候変動への関心の高まりから恩恵を得るか?

気候変動はまた、投資機会を創出している。国際エネルギー機関は、再生可能エネルギーが2050年までに世界の電力の31%を生産すると予測しており、これは2018年の18%からは大幅な増加となる。石炭火力のシェアは28%から17%に縮小する。これにより、太陽光発電や風力発電を行う企業、そして電池メーカーには直接的な恩恵がもたらされることになる(以前の記事 『米国の経済成長: カギを握るのはサステナビリティ?』ご参照)。

一方、企業によっては、炭素回収技術の研究、より「スマート」な農業、資源のリサイクルと再利用による廃棄物の削減、海岸侵食への対応策としての計画的な移住などから直接的また間接的な恩恵を享受するであろう。例えば、保険リスク分析会社のべリスク・アナリティクスは、保険会社のために暴風雨による被害を受けるリスクが高い住宅を特定するのに役立つ気候変動予測を分析に組み込んでいる。

4. 経営陣は、気候変動によるリスクと機会をどのように評価・管理しているか?

気候変動への取り組みについて詳細な説明を行っている企業はほとんどない。気候変動に伴う影響について真剣に考える機関投資家であれば、企業が気候リスクをどのように評価し、管理しているかを正確に理解するために、経営陣と直接対話しなければならない。その企業は長期的な計画を立てているだろうか、それとも目先の目標の達成に取り組んでいるだけなのだろうか。

気候変動の時代に投資を行うことは容易ではない。取り組みの成否による結果の差は非常に大きくなる可能性があるが、リスク評価の枠組みはまだ新しいものであり、多大な労力を要する。独立したファンダメンタル分析は時間がかかり難易度も高いが、過去最大と言って過言ではないこのリスクに対し真に備えている企業を特定する唯一の方法なのである。

 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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