中国は「共同富裕(ともに豊かになる)」という目標を掲げているため、富の再分配によって成長や投資が損なわれるのではないかという懸念がある。しかし、現実はそれほど単純な構図ではなく、この目標は中国の長期的な成長にとってはかなりプラスに作用すると思われる。
 
中国で「共同富裕」が叫ばれたのは、1950年代の毛沢東主席の時代である。習近平国家主席の下で復活したこの言葉は、企業への規制介入が強化されている中で(以前の記事『中国の規制強化がクレジット市場に及ぼす影響とは?』ご参照)、中国政府が経済的に保守的になっている証拠だと解釈されることもある。
 
しかし、現在の中国は、1950年代の中国とは大きく異なっている。しかし、中国の政策は、外部の人間にとってはいまだに不可解なものであり、その分析は未来を占うように難解なものである。
 
中国が新たに推進している「共同富裕」を理解するには、中国の近代的な成長志向の経済の観点から見ることが重要だ。そのためには、政府が「共同富裕」とは何を意味しているのか、なぜ今この考えを推進しているのか、そしてそれが中国の長期的な経済見通しの中でどのように位置づけられるのかを明確にする必要がある。
 

「共同富裕」が意味するもの

習主席は2021年8月の演説で、「共同富裕」とは、「平等主義的であったり、一部の人だけが繁栄しているのではなく」、「誰もが共有する豊かさ」のことを指している」と述べた。
 
言い換えれば、その目的は、富裕層から富を奪って貧困層に与えることや、成長という考え方を阻害することではなく、一人当たりの所得を増やし、所得グループや地域間の経済的不平等を是正することにある。図表1は、このイニシアティブが対象とする主な政策分野と、各分野における方向性をまとめたものだ。 
 
中国の「共同富裕」プランの概要.png
 
経済発展については、地域間、事業部門間、中小企業と大企業の間の不均衡を是正することが目的である。例えば、地域開発では、財政移転によってバランスを取ることができる。ビジネスの分野では、独占の改革を迅速に行い、金融・不動産セクターとその他の経済セクターとの連携を緊密にするなどの解決策が考えらる。
 
公共サービスの提供をより平等にすることは、教育、社会保障、そして住宅供給の改善などの他の形態の援助の面で、低所得者層にとって特に有益である。
 
所得格差の是正には、過度に高い所得を得ていると思われる人々に焦点を当てた税制の変更が必要だ。これには、所得への税率(現在、証券投資から生じる収入への税率は一律である)や固定資産税、消費税の変更が含まれる。
 
中間所得層を拡大するための施策としては、高等教育の改善、熟練労働者の訓練と賃金の向上、中小企業の経営者や自営業者への減税などの優遇措置、移民労働者への支援、下級職の公務員の給与引き上げなどが挙げられる。
 
農村の土地改革は、農業生産性の向上やインフラ投資と相まって、農村地域住民の所得向上につながる。
 
このようなプログラムに中国政府が着手したのにはいくつかの理由がある。
 
 

格差社会が成長を阻害

まず政治的な理由を考えよう。2021年7月に中国共産党創立100周年を迎えた習主席は、適度に豊かな社会を実現するという目標は達成されたとし、次の目標は「現代の社会主義国」を築くことだと述べた。
 
そのためには、2025年までに家計の所得と消費の不平等を徐々に縮小し、2035年までに大幅に進展させる必要がある。時計がさらに今世紀半ばまで進む頃には、家計所得と消費の不平等が合理的な範囲に縮小し、「共同富裕」がほぼ達成されているだろう。
 
「共同富裕」を求める背景には、経済的な理由もある。中国の潜在成長率が近年低下しているのは、資源の再配分が極端に投資に偏っているためだ。
 
消費が活発ではない理由のひとつに、格差の拡大がある。図表2では、ジニ指数(統計的な分散を示す指標)を用いて、中国と米国の所得格差がどのように拡大しているかを示している。
 
中国の所得格差は米国よりも大きい.png
 
中国では、富の格差が急激に拡大してきた。上位10%の富裕層が国富に占める割合は、米国に近く、他のいくつかの先進国よりも高くなっている(図表3)。
 
貧富の差で世界をリードする中国.png
 
中国政府は、格差を是正することで、「共同富裕」がよりバランスのとれた長期的な成長をもたらすことを期待している。
 

中国の長期的な成長に貢献する「共同富裕」

中国は2020年に長期経済戦略である「双循環(dual circulation)」を発表した。これに従って、輸出依存度(国際循環)を減らし、国内での需要と供給(国内循環)を強化するとしている。この戦略を成功させるには、内需拡大と供給側の構造改革が鍵となる。
 
均衡のとれた経済発展を重視し、消費を促進する可能性のある「共同富裕」は、国内循環をサポートする役割を明確に持っている。「双循環」戦略を成功させるためには、他の方策も必要である。例えば、国内の長期的な成長の鍵となる全要素生産性(訳注. 技術進歩や効率性向上など)の伸びを復活させるためのイノベーションの推進などが挙げられるが、近年は経済の構造的不均衡のために遅れている。
 
アライアンス・バーンスタインでは、「共同富裕」という考え方を、上述のように捉えるべきと考えている。「共同富裕」は、逆進的な経済政策への移行を示すものではなく、安定した、より公平で豊かな社会のために、よりバランスのとれた長期的な成長を実現するという中国の包括的な目標にしっかりと沿ったものだとみている(以前の記事『中国の成長見通しの全容』ご参照)。
 

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