中国で新型コロナウイルスの感染が再拡大しており、中国政府が5.5%程度という2022年の成長目標を達成できるかについて疑念が生じている。この目標は、足元の感染拡大の規模が明らかになる前の2022年3月に当局が表明したものである。現在の感染拡大を理由に、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は2022年の中国の成長予想を5%に引き下げた。
 
ただし状況は流動的であり、仮に感染拡大状況が悪化すれば、最新の成長予想よりも減速するかもしれない。経済的影響と政府による対応がはっきりするという点で、今後2カ月が重要になるだろう。
 
それまでの間の中国政府の対応は、「中国政府はなお自らの成長目標達成に強く執着している」、「中国政府は十分に充実した対応を遅滞なく講じる」、「感染拡大の収拾が十分早くつき、経済活動が2022年の残りの期間にわたり力強く回復する」という想定に則るものとABは考える。
 

中国の成長重視の姿勢に変わりはない

中国政府が2021年、テクノロジー、民間教育、住宅の各セクターにおける「行き過ぎ」を抑制するために介入すると、多くの投資家の間に中国政府は政策目標として成長を重視する姿勢を弱めたとの見方が広がった。しかしABは、そうした見方は状況を読み違えているとみている。中国政府は単純な成長追求型から多目的追求型の方針に移行したものの(以前の記事『2022年中国見通し:寅年の中国経済』ご参照)、3月に設定された強気な目標が示すとおり成長は依然極めて重要な存在である。
 
しかしながら、多くの投資家が成長目標を達成する中国政府の能力と決意について疑念を抱き、そして直近の感染拡大状況(図表)により弱気な心理が一層広がった。
 
中国における新型コロナウイルスの感染再拡大.png

 
 
中国の政治体制の重要な特徴として、地方政府にインセンティブを与えるには成長目標を維持することが必要であるという点が挙げられる。中国共産党の主たる意思決定機関である政治局は4月の会合で、中国経済が直面している難題を認める一方で極めて力強い成長重視のメッセージを発信した。例えば政治局は、「マクロ経済政策を強化し経済的目標の達成に尽力する」ことや遅滞なく「政策手段を増やす計画を立てる」と明言した。
 

政策を大規模かつ大胆にする必要がある

それらの政策を効果的なものにするには、十分な規模をもって迅速に実行に移すことが必要である。この点においては中国には優れた実績がある。例えば、世界金融危機のさなかに輸出が減少した時、中国政府は4兆元(現在の6,100億米ドルに相当)規模の景気刺激策を打ち出した。その結果国内総生産(GDP)成長率は建設セクター主導で力強く急速に回復した。
 
今日の状況はそのように思い切った対応が必要なほど悪くはないものの、政策当局は何らかの行動を起こす必要はある。足元の新型コロナウイルス感染拡大前、ABの見立てでは政府の消費支出と投資の伸びは2020年及び2021年の平均よりも大きくなり、また家計の消費の伸びもおおむねコロナ禍前の水準にまで回復すると想定していた。
 
それ以降、ウイルスとロックダウンの圧迫を受けて家計消費に関する見通しが悪化したため、ABは予想を修正し、現在は一層強い財政支援を見込んでいる。これと一致するように、政治局の会合及び習近平国家主席がこのほど開催した高官の会議では、インフラへの支出強化の必要性が強調された。
 
政治局の会合で言及された追加的な政策手段の中身はまだ不明だが、この分野においても中国政府は創造力と決断力を発揮してきた。例えば、2015年から2016年にかけての不況時、中国政府は公共部門の建設投資を増やすべく特別基金を創設した。政策銀行によって運営された同基金は成長安定化において重要な役割を果たした。
 
既に景気下支え的な金融・信用政策の緩和度合いを強める必要があるというのがABの見方である。望ましい信用の伸びの維持は中国人民銀行(PBOC)の重要な目標であり、同中央銀行には活用できる手段がいくつかある。政策金利がさらに0.10%引き下げられる可能性がある。
 
もっともこれには、利下げは資本移動と外国為替レートに悪影響を及ぼしかねないという懸念により、潜在的な制約が存在する。足元では、貿易加重米ドル指数の上昇や新型コロナウイルス感染拡大による輸出の落ち込み、人民元安観測の高まりが原因で、人民元は下落圧力にさらされている。下落圧力は当面のあいだ残存する可能性があるものの、元安がトレンド化して大幅に進む余地はほとんどないとみている(以前の記事『人民元の短期見通し: 当面は安定的に推移』ご参照)。PBOCは、金融緩和政策による信用需要押し上げを図るためには、為替相場の適切なタイミングを待つ必要がありそうだ。
 
銀行の預金準備率は、追加引き下げの余地は限られているものの、その可能性を排除することはできない。国内の住宅に関しては、購入条件の緩和や住宅ローン金利・頭金比率の引き下げなどの措置が延長され、投機の機会を生むことなく住宅セクターの安定化が促されると予想する。
 

この2カ月がヤマ場

ABの修正後の成長目標が実現するか否かは、新型コロナウイルス感染拡大状況を早く収拾する必要がある。新型コロナウイルスの経済的影響は感染による直接影響もあれば、当局の対応の中身やロックダウン措置が緩和されるか強化されるかという間接的な手段に左右される部分もあるため、これは評価の難しいリスクである。
 
仮に向こう1カ月ほどにおける新型コロナウイルスとロックダウンを巡る状況がABの基本想定を下回り、その影響で2022年4-6月期の成長率が非常に低い水準に終わった場合、中国政府が掲げる2022年の成長目標である5%以上の達成は厳しくなるとABはみている。4月の購買担当者指数(PMI)と物流・サプライチェーン・データは前月に続き急速な落ち込みを記録している。
 
リスクは下振れリスクの方が大きいというのがABの見方である。仮に4-6月期の成長率が予想を下回れば、追加政策措置がほぼ確実に必要になるだろう。需要喚起を狙った措置に加え、利益や所得の減少に直面している企業及び家計の負担を緩和する策も講じられるかもしれない。
 
状況を注視している投資家においては、注目すべき重要イベントは、4-6月期のデータの検証が行われる政治局の7月の会合になるだろう。新型コロナウイルスと景気を巡るそれまでの動向がカギを握る。
 
 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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