相次ぐマクロ経済的な問題や地政学的な脅威によってリスクに対する注目度が増したことから、新興国市場の株式は敬遠されがちになっている。しかしそうした懸念に囚われたままでは、今後、新興国株式への投資再開のきっかけとなり得る景気の改善や企業収益の伸びを見逃してしまうかもしれない。
 
2022年の新興国市場の株価動向は注目すべきものとなっている。グローバル株式市場と同様に下落したものの、2022年上半期の新興国市場は先進国市場よりも底堅く推移した。S&P 500指数とMSCIワールド指数の下落率が米ドルベースでそれぞれ20.2%、20.5%であったのに対し、MSCIエマージング・マーケット指数の下落は17.6%だった。
 
もちろん不確実性やボラティリティは払拭できない。それでも、新興国株式は今後、先進国株式を上回り、長く続いてきた低迷局面を脱するとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では考えている。その理由は次の3点である。
 

1. 経済成長の改善がファンダメンタルズを後押し

長引くインフレによる需要減退のため、先進国の前途には景気後退が大きく立ちはだかっている。しかし多くの新興国はコロナ禍から回復局面にあり、特にアジアにおいては国内の経済活動が活発化しつつある。経済活動の再開による回復力が、長引く金融引き締めによるマイナスの影響に勝り、2023年は、新興国経済と先進国経済との成長格差は拡大するとABでは予想している(図表1)。
 
 
2023年は新興国と先進国の成長格差が拡大.png

 
 
その最たる例は中国である。数カ月にわたる厳しいロックダウンの後、新型コロナウイルス関連の制限の緩和や景気刺激政策の投入により、2022年下半期には景気がテコ入れされると考えられ(以前の記事 「The tides are turning: 2021 Reshoring Index」(英語)ご参照)、これにより、企業の利益も向上するとABでは見ている。
 
中国ではまた、インフレ鎮静化に向けた金融引き締め政策をとっている多くの先進国や新興国の国々とは異なる金融・財政政策が進められている。中国のインフレ率は比較的低く、金融緩和を実施する余地があるとABでは考えている。
 
また、新興国は中長期的な成長に向けて備えが整っているとABでは見ている。多くの国は、過去10年間、先進国のような超金融緩和政策を行わなかったことによる恩恵を受けるだろう。新興国は総じて債務水準が低く、大半の先進国に比べて人口が堅調に増加しており、生産性が継続的に向上していることも、新興国企業のファンダメンタルズを強固にする材料となっている。

 

2. 経済成長の改善がファンダメンタルズを後押し

世界的な高インフレの中、その影響は地域により異なっている。新興国は、コモディティ・ショック、サプライチェーンの混乱、コロナ禍後の需要回復などの影響をさほど受けない可能性が高い。
 
常識に反すると思われるかもしれないが、先進国の方が、インフレ問題はより深刻であり、かつ継続すると考えられる。例えば米国では、パンデミックへの対策としての積極的な財政政策及び金融政策の結果、食品及びエネルギーを除くコア・インフレ率が過去の平均総合インフレ率への寄与度が過去平均の3倍となっている。一方、新興国のコア消費者物価指数(CPI)は過去平均の1.8倍にとどまっている(図表2)。一般的に新興国においては、食品及びエネルギーの対CPI構成比が高く、インフレに大きく寄与する。このため、食品及びコモディティの価格が低下すると、新興国のインフレ率は先進国より急速に低下することを意味している。
 
 
新興国のインフレ:市場はインフレ高騰を織り込み済み.png
 
 
また、新興国の中央銀行は、先進国よりも積極的な利上げを進めており、さらにパンデミック時に先進国のような金融緩和を行わなかったことから、新興国のインフレが長期に及ぶ可能性は低いとABでは見ている。
 
新興国と先進国のインフレ・スプレッドは過去の水準並みであるが、両者の金利格差(新興国-先進国)はこの10年で最大の水準となっている。このことから市場では、新興国市場においてインフレは前回サイクルほど長続きしないとの見方が織り込み済みであるということが示唆される。
 
もちろん、考慮すべき現実的なリスクも存在する。食品価格の高騰は新興国の小規模な国々で社会不安を引き起こす恐れがある。ウクライナでは悲惨な状況が続いている。米国市場に上場している中国企業の上場廃止をめぐる問題を解決するための協議は実施されているが、米国と中国の緊張は続いている。また、トルコやアルゼンチンなど、重大な課題に直面している国も複数ある。
 
しかし、多くの主要新興国は堅固なファンダメンタルズにより、今後数カ月の間に課題に直面したとしても、相対的にはうまく乗り越えられるだろう。外部からの資金調達ニーズが低く、外貨準備高が潤沢で、自国通貨が強く、また新興国の中央銀行による利上げにより、名目、実質とも米国との金利差は拡大している。そして、新興国の実質利回りは現在ほぼプラスで推移している。
 
ここ数年、投資家は新興国株式への資産配分を十分に行っていなかったが、一部の新興国のプラスの実質金利(債券利回り-インフレ率)と急速な経済成長とが相まって、今後は、新興国市場への資金フローが増加するだろう。
 

 

3. 新興国市場のバリュエーションは魅力的。 企業利益は改善する見込み

失われた十年を経て、新興国株式市場のバリュエーションは今や、先進国以上に投資家にとって魅力的なものとなっている(図表3)。 収益改善が見られれば、投資家心理はさらに上向き、回復に向けた態勢が整うことになる。
 
 
回復への備え:失われた十年を経て新興国市場のバリュエーションの魅力度は高い.png
 
 
新興国市場の企業の利益サイクルは、米国及びその他先進国と大きく異なっている。米国株式市場は過去10年間、強力な利益成長の恩恵を受けてきた。しかし景気が低迷し、インフレが利益率を圧迫するようになった場合、利益は低下することが予想される。また既に最高水準にある先進国企業の利益とは対照的に、多くの新興国は、国内の景気に連動する銘柄や金融などのセクターでいまだ潜在的な成長力を実現できていない。先進国では利益はすでに高水準に達しているが、新興国では今後、売上の増加が利益の拡大をもたらすとABでは予想している。
 
こうした潜在的な利益が生み出すリターンをとらえるためには、選別的なアプローチと綿密なリスク管理が重要だ。強固なファンダメンタルズや優れたビジネスモデルを有する企業を見極めることで、厳しい環境においても投資家は、広範なセクターの中から持続的に利益を生み出す銘柄を見つけ出すことができる。また、規律ある銘柄選択を行うことで、極めて変動の大きい世界情勢の中でもなお、投資家は確信を持って新興国市場銘柄の保有比率を上げることができるだろう。
  

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